Next Normalに向けたモノづくりDX MaaSがもたらす「クルマ」の新時代

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CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化)の進展や、MaaS(Mobility as a Service)のトレンドは、自動車業界に100年に一度の大変革をもたらしている。そこに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う新しい生活様式が環境変化をより加速させている。自動車業界および、新たなモビリティサービス事業に関心を持つ通信、テクノロジー、エネルギー業界の関係者を対象に、オンラインで開催された「Next Normalに向けたモノづくりDX」では、MaaSの最新動向や、MaaSへの対応に不可欠なデジタルトランスフォーメーション(DX)のあり方を検討した。

主催:東洋経済新報社
協力:セールスフォース・ドットコム、デロイト トーマツ コンサルティング

基調講演
2020年 MaaS最前線
~アフターコロナで変化すること・しないこと~

MaaS Tech Japan
代表取締役
日高 洋祐氏

国内でMaaSの社会実装に取り組んでいるMaaS Tech Japanの日高洋祐氏は、そのトレンドを概観した。MaaSとは、鉄道、バス、タクシー、カーシェアリングなど、多様な移動サービスを1つにまとめ、ニーズに応じて最適な移動を提供するサービス。北欧で始まったMaaSアプリは、経路検索、タクシー配車機能のほか、公共交通と5キロ以内のタクシーが乗り放題の定額制プランを提供して注目された。

自動車業界は、製造販売からモビリティサービスへという流れの中で、顧客接点となるMaaSにも積極的に投資。都市交通計画分野でも、MaaSの移動データを活用して、ダイヤや料金を最適化することで公共交通の利用を促進し、渋滞緩和につなげる可能性を探っている。海外では、スマートシティの実現に向けて、運賃・通行料をはじめとするダイナミックプライシングなど交通施策の変更が、都市交通に及ぼす影響をシミュレーションするシステムも開発されている。

MaaSのシステム面では「規模を追求するプラットフォームビジネスの視点が重要」と指摘。巨大IT企業のような高収益のプラットフォームの出現に期待する一方、日本では、交通事業者が多数いるため、各社を統合型プラットフォームにつなぐとシステムが複雑化してコスト高になるおそれに言及。標準化と併せてプラットフォーム間の連携や、データ交換基盤を介した分散型システムの重要性を提案した。

さらに日高氏は、今後のMaaSは「スマートシティの重要な要素になっていく」と予測。インターネット通信が定額制の使い放題になり、通信料を気にせず使えるようになったことでそのうえに多様なインターネットサービスが出現した通信業界になぞらえ、交通インフラの利用料が定額もしくは安価になることで、MaaSが広く一般に普及し、その先にMaaSと他産業との連携によりさらなる価値が創出されるBeyond MaaSの概念を紹介。そして、このBeyond MaaSが、コロナ禍における新しい生活様式の実現や、日本が抱える社会課題の解決、さらには新産業創造に貢献する可能性に言及した。

講演
CASE・MaaSがもたらす「クルマ」の変化と「Automotive DX」

デロイト トーマツ コンサルティング
自動車セクターアソシエイトディレクター
平井 学氏

デロイト トーマツ コンサルティングで次世代モビリティおよび自動車業界におけるDX関連のプロジェクトを多数手がける平井学氏は、CASE、MaaSの進展による自動車業界の環境変化は、新しい生活様式により、さらに加速すると指摘。これからのクルマの要件、顧客、提供価値の変化について予測した。

CASEの進展で自動運転が実現すれば、クルマは移動時間を快適に過ごせる空間となることが要件になる。シェアリングサービスの普及により、その時々のユーザーの用途に合う形状・性能の車両が求められるようになる。コネクテッド化は、クルマを「車輪が付いた次世代スマートデバイス」に変容させる可能性があり、多様な生活サービスやコンテンツの提供のため、自動車業界は外部と連携してエコシステムを形成する必要がある。さらに、新規領域への投資原資を確保するには、既存事業の効率化も迫られる。

こうした大変革を進めるため、主に4つのポイントでのDXが不可欠と指摘する。まず、顧客データを統合し、活用できる状態にする「すべての起点となる信頼できるカスタマーデータの獲得」。次に、外部とシームレスに接続するため、システム同士をつなぐAPIを公開し「外部とのコネクティビティを確保」。「車両開発におけるカスタマーデータ活用と社内外のコラボレーション」によるイノベーションの創出。そして、デジタルによる「オペレーションの超効率化」だ。平井氏は「自動車業界は、消費者、移動事業者、都市を含めた顧客がクルマに求める要件を把握し、車両を開発・設計して新しい価値を創出する必要がある。また、車両などのハード面だけでなく、顧客に届けるサービスなどのソフト面にも目を向け、顧客中心のモビリティに変革させていく必要がある」と強調した。

講演&デモ
MaaS時代における自動車業界のデジタルトランスフォーメーションの形
~ものづくりにもたらす新しい顧客データ活用法~

セールスフォース・ドットコム
エンタープライズ製造営業第二本部 執行役員 本部長
清水 雄介氏

セールスフォース・ドットコムの清水雄介氏は、平井氏が指摘した自動車業界の4点のDXを支援できる同社のサービスについて説明した。カスタマーデータの獲得については、同社の顧客データプラットフォーム「Salesforce Customer 360」で、あらゆる顧客接点のデータを一元管理。社内各部門で共有し、一貫した顧客対応を実現して顧客エンゲージメントを深める。外部とのコネクティビティは、2018年に買収したMuleSoftのデータ統合プラットフォームを活用。API主導のマイクロサービス型アーキテクチャにより、フロントシステムの柔軟性を担保したシステム連携ができる。オペレーションの超効率化は、カスタマーデータをAIで分析、需要を予測してパーツ在庫を最適化することなどが考えられる。

車両開発は、19年に買収したTableauのBIツールで顧客データを可視化。顧客を深く理解したり、不具合の多い箇所を可視化して原因究明の時間を短縮したりすることが可能になる。清水氏は「さまざまなシナリオに合わせてカスタマイズできるのがセールスフォースの特徴。皆さんが考えるDXの形を相談していただきたい」と話した。

セールスフォース・ドットコム
自動車・製造ソリューション部
シニアマネージャー
森本 丈雄氏

続いて、セールスフォース・ドットコムの森本丈雄氏が、自動車会社を舞台にした「Salesforce Customer 360」のデモを披露。移動サービス事業者への法人営業のシナリオでは、顧客情報、リース期限などを含む顧客保有車両の情報、営業活動履歴など顧客接点のあらゆるデータを集約。車両の稼働率などから増車の可能性のスコアも算出でき、効率的な営業活動につながる。

「Salesforce Customer 360」デモ

新型車企画の場面では、販売台数やシェアのほか、走行距離、平均速度などのテレマティクスデータ、顧客満足度、ワードクラウドで可視化したVOC(顧客の声)データも活用して、クルマの機能、コストを最適化したクルマづくりができる。メンバー間のコミュニケーションは社内SNSツールの「Chatter」を使い、経緯を時系列に沿って残す。文書もすべて電子化して共有することで、在宅ワークでも仕事がしやすくなる。「情報共有、共同でタスクを行うためのシステムは、そろっています」とアピールした。

質疑応答

最後に、視聴者から寄せられた質問に講演者が答えた。新型コロナウイルスの自動車需要への影響について、デロイト トーマツ コンサルティングの平井氏は、密な公共交通に対し、パーソナルな空間を持てるクルマが見直され「クルマの利用は増える可能性がある」と指摘。安価な公共交通と競合することで、採算が厳しいMaaSの現状については「単独事業より、さまざまなサービスと連携し、エコシステムの一員となる」視点の重要性を訴えた。

外部パートナーとの情報共有の壁について問われたセールスフォース・ドットコムの森本氏は、コミュニティを作成して情報共有、コラボレーションできる「Salesforce Customer 360」の機能を紹介した。また、社内でDX推進の必要性の共通認識を得る方策を問われたセールスフォース・ドットコムの清水氏は、最初から全社的改革にするのは難しく「小さいことからスピーディな取り組みを継続し、経験を獲得することも大事」と強調。コロナ禍で「デジタル化の必要性を皆さんが感じている今は、推進のタイミング」と語ると、司会を務めた東洋経済新報社の田北浩章常務は、コロナ禍の逆境をDXの追い風に変えることで「自動車業界の可能性は広がると思う」と結んだ。