新しい生活様式、冷房と「換気」両立させる方法 「空気の質」の向上は生活の質も改善する
「換気」への関心が急速に高まっている。厚生労働省が公表した「新しい生活様式」でも、「こまめに換気」が推奨されている。「換気」と言えば、窓を開ければ十分と思っている人も多いはずだ。一方で、騒音やホコリ、虫の侵入など、状況次第では空気以外の要素で健康を害してしまう可能性もある。夏場を迎えようとしている今、窓を開けることによる空調エネルギーのロスも避けられない。「健康」「省エネ」は現代社会のキーワードだが、実は「換気」との両立は簡単ではないのである。
家の中にある換気扇を効率よく活用
この「健康と省エネを両立する換気」という難題を解決する方法はあるのだろうか。まずは「換気」の意味を再確認しよう。100年近く前から換気扇を手がけてきたパナソニック エコシステムズの林義秀氏に、「換気」について聞いてみた。
「換気の役割は、外の新鮮な空気を室内に取り入れ、室内の空気を外に追い出し、『室内の汚れた空気を排出・希釈する』ことにあります。換気できる家にするためには、まず、皆さんのご家庭のトイレや浴室、キッチンなどに設置されている換気扇をぜひ活用してください。また、2003年以降に建てられた住宅には、『24時間換気設備』の設置が義務化されており、24時間一定量の空気の入替えができるようになっています。日頃から、すでに身の回りにあるこれらの換気扇をきちんと活用することがとても大切です」
林氏はさらに強調する。「また、換気の悪い密閉空間にしないために窓を開けることが推奨されていますが、建物によっては窓の開閉ができない、窓を開けることができたとしても雨の日や夜間などは窓を閉めておきたいという声も多いと思います。窓を開けることで入れ替わる空気の量が必要以上に増え、エアコンの効きが悪くなり夏場は室温が上昇しやすくなるので、電気代が余分にかかったり、エアコンのこまめな温度調整が必要になります」。
「換気」に求められる役割と進化のプロセス
換気についての重要性に着目したのが、近代看護教育の母と呼ばれ、病院建築家としても知られるナイチンゲールだという。彼女は1859年に発行された『看護覚え書』の中で、換気の大切さを訴えている。
『看護覚え書』の第1章のタイトルは「換気と暖房」。しかも、看護の第一の原則として「空気を清潔に温かく保つこと」としており、ナイチンゲールがいかに換気を重視していたかがわかる。彼女が手がけ、近代病院病棟の代表的なスタイルとなった「ナイチンゲール病棟」には、各ベッドに1つずつ天井まで伸びる窓があり、上部を開け放つと外と同じ新鮮な空気が保たれるように設計されていた。
しかし、建物は時代が進むにつれて構造自体が変化している。それに合わせて、換気のあり方もずいぶん変わってきたと林氏は話す。
「建物の気密性が高まるにつれて、意図的に換気を行う必要性が生まれました。例えば日本では、昭和30年代の高度成長期に急増した集合住宅が象徴的です。台所の煙やトイレのにおい、浴室の湿気を排出する局所換気を行うため、換気扇が一気に普及しました。実は、公団住宅向けの換気扇を初めて開発したのはパナソニックなのです」
そうやって一般的なものとなった換気扇は、やがて局所換気から建物すべてを換気する全体換気へと進化していく。それを後押ししたのは、皮肉にもホルムアルデヒドやVOCといった建材から出る有害物質だった。これらを排出し、新鮮な空気を取り入れて人や建物にとって害のない環境を生み出すため、2003年に建築基準法が改正され、すべての建築物に機械換気設備(24時間換気設備)の設置が義務付けられたのである。
機械換気には、『第1種換気』『第2種換気』『第3種換気』の3つの方式がある(下図)。給気・排気とも機械換気を用いる『第1種換気』は、その中で最も確実な換気が可能だ。
建物には、住宅やビルなどの種類によって換気扇の設置基準が設けられている。設置基準として定められているのは、住宅が1時間に0.5回の換気回数(2時間で1回すべての空気が入れ替わる)、オフィスなどのビルが1人当たり1時間に20~30㎥の換気量。もちろん、数値をクリアすればいいわけではなく、換気方式によっては、快適性を低下させる可能性もあると言える。
建築環境工学の権威で、特に熱環境や空調システム、省エネルギーシミュレーションを専門とする東京大学名誉教授の坂本雄三氏は次のように解説する。
「換気による熱ロスをいかに抑えるかが重要です。自然換気でも換気はできますが、夏場、冬場の冷暖房時空調を施した空気も逃げてしまい、空調エネルギーの面でのロスが発生します。しかし、屋内の空気と屋外の空気を換気扇に内蔵した熱や水分を交換する特殊なエレメントを通して入れ替えることにより、排気に含まれる空調した熱の一部を交換して室内に戻すことが可能です。これは給気・排気に機械を用いる第1種換気だからこそ実現できる方法なのです」
坂本氏も推進しているこの設備が「熱交換型第1種換気設備」。換気による熱エネルギーを回収し、取り入れた新鮮な外気に回収した熱エネルギーをのせて室内へ返す「熱交換気(全熱交換)」という仕組みを活用した換気の方法だ。
また、パナソニックの「熱交換型第1種換気設備」について、前出の林氏は次のように説明する。
「外気はフィルターでキレイにしてから室内に取り入れ、一方で、室内の汚れた空気は確実に排気します。熱交換気によるエネルギー回収によって省エネを実現するとともに、夏場は水分を含んだ、じめじめした外気が入るのを防ぎ、一方、冬場は換気による『ひんやり感』を緩和するなど、1年を通じた快適性の維持・向上にも貢献できると考えています。まさに、『熱交換』により空調負荷を低減し、同時に、良好な温熱・空気環境を提供できる設備が『熱交換型第1種換気設備』なのです。これからの『スマート(省エネ)』かつ『ウェルネス(健康)』な暮らしの実現に、それらに代表される高機能な換気設備を通じて貢献したいという思いを込めて、パナソニックでは『スマートウェルネス換気』と名付け、お客様への提案活動を加速させていただいております」
「パナソニックの換気扇」は全世界2億台以上の実績!
こうした理想のシステムを生み出せるのは、豊富なノウハウがあるからだ。パナソニック エコシステムズは100年近く前の1928年頃から換気扇の生産を開始。これまでの生産台数はグローバルで2億台を突破した。しかも、単に製品を供給するだけでなく、ひとつひとつの建物に最適な換気システムを提供できる支援体制を整えていると林氏は話す。
「当社では、24時間換気システムの設置が義務化された2003年に、建築基準法に則ったお客様支援を行う『換気扇ター(センター)』を設立しました。お客様の建物の設計図に最適な換気システムの設計から機器選定、確認申請書類の作成支援などを無償でご提供しています。おかげさまで多くの設計依頼をいただき、住宅・非住宅を問わずあらゆる建物の室内空気質の向上と、設計事務所様の設計工数削減に貢献していると自負しております」
また、昨今の換気への注目度が高まる中で、大規模感染リスクを低減させる高機能換気設備の導入支援事業などが政府から公表されているのも見逃せない。そうした公的助成制度の情報提供の面でもお役立ちしたいと言う。
「換気+α」を追求してさらに「空気質」向上へ貢献
この2~3年、「熱交換気型第1種換気設備」の「スマートウェルネス換気」の採用が右肩上がりに増え、「換気扇ター」で提案する件数の半数を占めているというパナソニック。高機能な換気設備による確実な換気の実現と、換気を通じた「健康・快適・省エネ提案」を継続的に実施している点が好調の要因だろう。前出の坂本氏も、今後さらに高機能換気システムへのニーズは高まると予測する。
「テレワークの浸透によって、住宅がオフィス化する可能性も出てきました。自ずと換気システムの高度化が大きな社会ニーズとなっていきます。また、温度差の少ない家に住むと寿命が延びるという研究結果もあります。人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸に貢献する“健康住宅”への関心はますます高まるでしょう」
そうしたニーズの高まりを受け、坂本氏はさらなる換気システムの進化に期待していると語る。
「空気の入れ替えのみならば、現状の換気システムはかなり満足できます。今後は、『換気+α』の機能を期待したいですね。例えば除湿・加湿機能や空気清浄機能、そして全館空調をアシストする空調機能など、いずれも高機能かつコンパクトな機能が備われば、病院や福祉施設、学校といった場所でさらに重宝されるのではないでしょうか」
もちろんパナソニックも、換気に加えて広くIAQ(Indoor Air Quality、室内空気質)への取り組みを行っている。象徴的なのが、愛知県春日井市のパナソニック エコシステムズ社内で2019年8月に開設した「Reboot Space(リブート スペース)」だ。
「オフィスや店舗、ホテル、学校、病院など非住宅空間における空気質・水質の価値をご提案するスペースです。従来、換気とは、不快な物質の除去でした。しかし今後は、それに香り、気流、除加湿、浄化、除菌などの価値を加え、健康で快適な空間を提供していきたいと考えています。Reboot Spaceは、それをお客様とともに共創していくスペースです。ほかにも、次亜塩素酸の力で除菌・脱臭を行うジアイーノなど、パナソニックはIAQ事業を通して広く世の中に貢献していきます」(林氏)
夏本番、空気環境の向上は、そのままQOL(生活の質)の向上にもつながりそうだ。換気の重要性が高まっている今こそ、「+α」の換気を試してみたい。