SDGs Lab

コロナを乗り越えた自治体の共通点とは?(前編) SDGsを軸にした官民のパートナーシップ

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本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第19回の今回は、内閣府の遠藤健太郎参事官に、ウィズコロナ時代に自治体が取り組むべきSDGsの姿についてお話を伺いました。
内閣府
地方創生推進事務局 参事官
遠藤 健太郎氏

―遠藤参事官は、地方創生SDGsを担当されています。

遠藤 1990年に通商産業省(現・経済産業省)に入省し、エネルギー・環境や通商、製造産業などの部局を経て、3年前から内閣府地方創生推進事務局にて、地方創生SDGsなどを担当しています。私が担当になったのは、ちょうど政府の持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合にて、総理から「地方でのSDGs推進についての促進策を検討・実施するように」と各省庁に指示が出されたタイミング。それ以来、自治体によるSDGs達成のためのモデル事例の形成や、各自治体への普及促進、官民連携の枠組みの構築、国際的な情報発信などに取り組んできました。

―具体的な取り組みとして、「SDGs未来都市」が挙げられます

遠藤 日本は少子高齢化によって人口減少が急速に進行しており、将来にわたって持続可能なまちづくりを進めることが重要な課題になっています。一方、最近は企業や学校を含め、さまざまな分野でSDGsに取り組む機運が高まっています。そこで内閣府はSDGsを「新しい時代の流れ」と捉えて、SDGsを原動力とした地方創生に取り組んでいます。

その中の1つが、「SDGs未来都市」の選定です。内閣府は、自治体によるSDGs達成のモデル事例をつくり、全国に広めていくことが重要だと考えています。「SDGs未来都市」は、そのモデル事例です。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」持続可能なまちづくりを目指す自治体の中から、とくに経済、社会、環境の3つの側面を統合した優れた取り組みを提案した都市を選定します。

スタートは2018年。多くの自治体の皆様にご提案いただき、現在まで60の都市が選ばれており、有識者や関係省庁のサポートを受けています。さらにその中から先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定して、補助金などで支援しています。2024年度末までに累計210都市の選定を目標としており、引き続き全国の自治体の皆様の積極的な応募を期待しています。

→SDGs未来都市に選ばれた北九州市でも使われるPaperLabとは?

ウィズコロナで注目されるSDGsのローカル化

―ウィズコロナで、自治体はどのようにSDGsを意識すればいいのでしょうか。

遠藤 気候変動が自然災害を引き起こして地域に甚大な被害をもたらすように、地球規模の課題が短期間のうちに直接的に地域の大きな課題となることがあります。今回の新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の拡大でも、改めてそのように認識させられました。それを踏まえると、グローバルな取り組みであるSDGsも、ローカルな視点で捉える「SDGsのローカル化」(Localizing  SDGs)がいっそう重要になります。実際、今回の新型コロナも、地域ごとに感染の状況は大きく異なりました。新型コロナ対応もそれに合わせて感染拡大防止と経済活動のバランスを取りながら判断する必要があり、まさにローカルな視点が欠かせません。

取り組むべき課題は多々ありますが、中でも17のゴールの1つに掲げられている「パートナーシップ」の構築は大切でしょう。3つの密の回避につながる「新しい生活様式」を確立するには、行政のみならず、民間企業・団体の役割が重要です。例えば外出自粛時の食生活は、民間企業のデリバリーが大きな役割を果たします。ウィズコロナでは、これまで以上に官民連携が求められます。

→水を使わず紙を再生PaperLabの官民連携事例を見る

普段からの官民連携が非常時に生きる

―実際に官民連携で新型コロナに対応した自治体もあるのでしょうか。

遠藤 内閣府選定の「SDGs未来都市」でも、官民連携で新型コロナに対応した事例が出てきています。神奈川県は、政府の緊急事態宣言直後に特設ページを設置し、外出自粛の中で活用可能なデリバリー・テイクアウトの情報など、地域の企業・団体の新型コロナに関する取り組みを公表。現在も、持続可能な「新たな日常」に向けた事業の再起促進など経済を回していく取り組みを順次追加しています。

同様の取り組みは、愛知県豊田市や和歌山市でも進められています。これらの自治体に共通しているのは、新型コロナ以前から、SDGsを活用した官民連携のためのパートナーシップの枠組みを構築していたこと。すでにパートナーシップがあったため、緊急時にも迅速に対応することができたのでしょう。

そのほか、北海道下川町では、新型コロナの影響を受けている町内の飲食店の方々を応援するために、クラウドファンディングを活用しています。下川町は、SDGs達成に向けた取り組みとして、独自のまちづくりの指標となる「2030年における下川町のありたい姿」を、地域住民と行政が協働して策定しました。その中で重要視している「誰一人取り残さず、しなやかに強く、幸せに暮らせる持続可能なまち」という考えに賛同して名前を連ねてくれた町内の飲食店全店に、なるべく支援が行き渡るように対応するとのことです。

こうした事例に見られるように、地域における各ステークホルダーとのSDGsを通じたパートナーシップは、新型コロナのような事態に対応するに当たっても、積極的に活用されています。ぜひほかの自治体の皆様にも参考にしていただきたいですね。

→地球環境保全と、地方創生をかなえるPaperLabをもっと知る

「SDGs未来都市」の新型コロナウイルスによる影響への取り組み
都市名 取り組み内容 カテゴリー
北海道ニセコ町 みんなでSDGs!
ゴール3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」についての周知
普及・啓発
北海道下川町 飲食店支援のクラウドファンディング開始 地域活性化
福島県郡山市 SDGsの視点に立った行動指針「郡山市職員クレドカード」の作成 普及・啓発
茨城県つくば市 臨時休校になった学校の子どもたちのために、つくば市の研究者が疑問に答えてくれるサイト「つくばこどもクエスチョンオンライン」の開始 教育
神奈川県 SDGsアクションで新型コロナウイルス感染症を乗り越える取り組み 地域活性化
神奈川県小田原市 学びの機会に制限がある中、FMおだわらで現役高校生ナビゲーターにより、小田原のSDGsの取り組みを発信 普及・啓発
静岡県静岡市 家族で食事をし、SDGsを学ぶ取り組み
なすびグループ10店舗企画(なすびグループ×静岡市×静岡青年会議所)
官民連携
愛知県豊田市 「新しい生活様式」の定着に向けたプロジェクト「SDGs×新しい生活様式 ミライのフツーをつくろうプロジェクト」始動
とよたエコフルタウンにおいて、リモートガイドツアー実施
普及・啓発
三重県志摩市 新型コロナウイルスで、消費が減少している農水産物の消費拡大への協力「ささえあいSHIMAしょう!」 地域活性化
和歌山県和歌山市 和歌山市SDGs推進ネットワーク会員等の取り組み
新型コロナウイルスによる課題の解決を目指す「Wakayama SDGs プロジェクト」
地域活性化
岡山県岡山市 「新型コロナウイルスに負けない!!~私たちのSDGsアクション~」(事例紹介) 普及・啓発
岡山県真庭市 新型コロナ飛沫防止パーテーション「クリアシールド」発売(オーティス(株):真庭SDGsパートナー)
プラスチック容器削減エコ・テイクアウト
産業/環境
徳島県上勝町 オンライン視察でSDGsの取り組みを紹介 普及・啓発
福岡県北九州市 持続可能なまちづくり「SDGsの達成」に向けた、市内でのソーシャルディスタンス等の取り組み 普及・啓発
※内閣府調べ。詳細は各自治体HPなどを参照のこと
【Column】
新型コロナウイルス感染症対策に伴う外出の自粛により、「ニューノーマル」への意識が高まっています。地方創生においても、自治体は「新しいスタイルで働きたい。生活したい」という市民の声を捉えて、それを支えていく必要があります。そのときに軸になるのは、「誰一人取り残さない」というコンセプトを持つSDGsでしょう。経済・社会・環境のバランスを取りながら地域課題解決を図ることで、地方創生はいっそうの充実が期待できます。
ただ、内閣府のアンケート調査でも明らかになったように、今も地方創生SDGsに着手していない自治体は少なくありません。原因の1つは、意欲はあっても、具体的な方法についての情報が少ないこと。遠藤参事官が「先行事例を多くの自治体の方に知ってもらうことが重要」と指摘していたように、先行事例を知ることが地方創生SDGsへの第一歩になります。
SDGs未来都市に選定された長野県をはじめ、今、自治体で導入されているのが、オフィス内で使用済みの紙から再生紙を作る「PaperLab」です。通常、製紙には大量の水を必要とします。
1年間、PaperLabを稼働して作れる紙は約7.7t。通常の製紙で同じ量の紙を作るときには、7,610m3(注1)の水を消費します。これは25mプールで換算すると21杯分以上(注2)。一方、PaperLab A-8000が使用する水はわずか70m3(注3)、通常の製紙に比べて1%弱の水しか消費しません。
しかし、こちらのPaperLabは、機械で衝撃を与えることで、紙を繊維にまでほぐし、水をほとんど使わずに紙の再生を実現します。この製品は、SDGsのゴールにもある環境意識の向上、さらには地域の魅力向上につながる製品と言っていいでしょう。地方創生における、SDGsの取り組みをどこから始めていいかわからないという自治体は、導入した自治体の事例を参考にしてみてはどうでしょうか。PaperLabの地方創生SDGs例を知る
(注1)P.R.VAN OEL & A.Y. HOEKSTRA(2010)
(注2)25mプール:長さ25m×6レーン(レーン幅2m)×深さ1.2mの場合、360m3
(注3)東京都市大学 環境学部 伊坪研究室算出(2018)
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