コロナ禍「なんとか生き延びた」経営者の本音 freee、「スモールビジネス支援」に込める本気
売り上げ8割減…生き延びた秘訣は
映像の翻訳や制作を請け負うカルチュアルライフは、コロナ禍の影響を真正面から受けた1社だ。同社は、企業から仕事を受注後、フリーランスの翻訳者などに仕事を依頼し案件をまとめあげる。2018年の設立以来、高い品質と丁寧な顧客対応で順調に業績を伸ばしていたが、20年4~5月の受注数は大幅に減少。とくに5月の売り上げは、平常時の1~2割にまで激減した。動画の撮影予定日の直前に、発注元から案件のキャンセルを伝えられたこともあったという。同社代表取締役の二階堂峻氏はこう話す。
「幸いにも、6月は平常時の7割くらいまで受注が戻りそうで、なんとか生き延びられた形です。もともと好調だった動画制作の案件数が大きく落ち込んだ一方で、インターネット動画配信サービスのニーズが高まったことで、映像翻訳の案件数が急激に伸びました。異なる事業を複数手がけていたことが、結果的にリスクヘッジとなりましたね」
そこで同社が重宝したのが、スモールビジネス同士の取引を活発化させる業務効率化システム「freee 受発注サービス β版」だ。
「これまではメールで都度行っていた発注書、納品書、請求書のやり取りを、クラウド上で一元化できるようになったことが何より便利です。請求書を会計システムに自動で取り込めるため、手間が削減できました。スモールビジネスの取引では、こうした書類のやり取りがあいまいになっていることも少なくありません。このシステムを通せば、やり取りの履歴が自動的に蓄積されるため安心です。また政府や自治体による助成金の申請などには、契約書や発注書が必要な場合もあるため、書類を自動的に残せることにはさまざまなメリットがあるんです」と二階堂氏は語る。
もともと二階堂氏は、フリーランスの翻訳者だった時代に、個人向け経理・申告ソフト「会計freee」を使い始めた。その後、業務拡張のため法人化した際には「会社設立freee」を、そして起業してからは法人向けの「会計freee」を使ってきた。
「当社のような中小企業では、バックオフィス業務に割けるリソースはあまりありません。利益を生み出す本質的な制作や、クライアントとの付き合いにできるだけ注力したいのが本音です。ですからシステムによってバックオフィス業務が自動化され、手間を減らせるのはとてもありがたいですね。『会計freee』は非常に優秀なシステムで、ほかのソフトもひも付けて使うことができます。もしfreeeがなかったらと思うと、ゾッとします」(二階堂氏)
freeeはコロナ禍を受け、より多くの受発注を生み出してスモールビジネスを助けるべく、「freee 受発注サービス β版」の機能を大幅にアップデートした。事業者同士がSNSのようにつながり、受注者側から仕事を募集できる機能も加わった。また、受注者向けのサイバー保険をfreeeがプレゼントするキャンペーンも展開している。
こうした取り組みは、freeeが20 年4月から取り組んできた、スモールビジネスに向けた新型コロナ対策支援プロジェクト「PowerToスモールビジネス」の一環。このほかにもさまざまな施策を精力的に展開している。例えば、3つの質問に答えるだけで自社に合った融資や給付金を調べられる特設サイト「新型コロナ対策融資・持続化給付金利用シミュレーション」の提供や、融資・助成金、リモートワークに関する各種オンラインセミナーの開催などだ。
「スモールビジネスこそが世界を変える」の確信
それにしてもfreeeは、なぜこれほどスモールビジネス支援に力を注ぐのか。取引規模を考えれば、大企業とのビジネスのほうに目が向いてもおかしくない。これについて同社執行役員・岡田悠氏はこう話す。
「そもそも当社は『スモールビジネスを支援し、中小企業や個人事業主が主役となる社会をつくること』をゴールとし、設立された会社です。実際に集うメンバーも、当社のミッションである『スモールビジネスを、世界の主役に。』に強く共感した人たちばかり。逆に、スモールビジネスの支援につながらない事業はいっさいやっていません」(岡田氏)
数のうえでは日本企業のうち99%を占める中小企業。しかし労働生産性は大企業より低いことが多く、IT活用もあまり進んでいないのが現状だ。その一方でスモールビジネスは、独自の価値を備えている。
例えば、過去になかったような新しいアイデアを、フットワーク軽く具現化していけること。そうして世にインパクトをもたらし、ユニークな人材の能力を生かせること。freee創業者・佐々木大輔氏は、同社設立前にはGoogleで中小企業向けマーケティングなどを担当していた。Googleが多くのスモールビジネスの力を生かして、新しいテクノロジーを取り入れてきた経緯をよく知る人物だ。
では、スモールビジネスが「世界の主役になる」ためには、何が必要なのか。「事業を成長させるには、売り上げの記録や分析、労務の管理といったバックオフィス的な業務も必ず必要です。だからこそ、そうした部分を過度に意識せずに自社の得意分野を突き詰めていくだけで、経営を成り立たせられるようにしたい。当社のITを活用して、その土台をつくりたいんです」と岡田氏は語る。
こうした理念に基づいてfreeeが注力する「PowerToスモールビジネス」は、他社も巻き込んだ広がりをみせている。例えば「#取引先にもリモートワークを」。リモートワークの障壁を企業を超えた形で解消し、安心して働ける環境をつくりあげていくものだ。具体的には書面への捺印省略、書類のデジタル化、ビデオ会議の実施などで、賛同企業は75社以上を数える。freeeの施策に端を発したこの取り組みは、今や1つのムーブメントとなりつつある。
ほかにもfreeeは、新公益連盟の監修のもと、NPO法人HUGと共同で各種支援情報をわかりやすく伝える支援サイト「ザ・ピンチヒッター」を運営している。また投稿サービス・noteとのコラボレーションでは、「#給付金をきっかけに」という投稿キャンペーンを展開中だ(6月末に応募受け付け終了、7月中旬に受賞者の発表予定)。
「当社は文化として、ボトムアップ型の意思決定が根付いています。現場から豊かなアイデアが集まり、またそれをスピーディーに実行できるところも、当社の強みです」(岡田氏)
ある意味、同社そのものが“スモールビジネスの集合体”的な構造を持っているともいえる。freeeはこれからも、その企業風土と技術力を生かして、スモールビジネスの味方であり続けることだろう。