中小企業ほどテレワークが浸透しない根本理由 まずは「完璧を求めない」ことが導入の第一歩
コロナショックを機に急速に浸透したテレワークだが、大企業に比べると中小企業での導入率はまだ低いという。しかし、緊急事態宣言解除後も、テレワークはもはやスタンダードになると考えてよいだろう。今や、生産性向上や人材確保の面でもテレワーク環境の整備は「一部の進んだ企業だけ」というわけにはいかなくなっている。中小企業のテレワーク導入を阻む障壁と中小企業こそテレワークを実施すべき理由について考察する。
テレワーク化の“ハードル”は意外と高くない
東京都の調査(※1)によると、3月時点で24.0%だった都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、4月には62.7%にまで上がった。実に2.6倍以上の上昇率である。
ただし、実際にテレワークを行った社員は半数以下(49.1%)にとどまっており、さらに目立つのが企業規模による格差だ。従業員が300人以上いる企業では約8割がテレワーク導入済みであったのに対し、30人~99人の企業では約5割にとどまる。中小企業の多くが、コロナ禍による売上減などに伴う資金繰り対策に追われ、従業員対策については後回しになっている状況といえるだろう。
テレワークの普及・啓発に努める一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員・冨吉直美氏はこう話す。
「中小企業で、テレワーク化が進まない大きな要因に挙げられるのが、大企業と違って役割が広いこともあり、社内を取りまとめて引っ張っていく人材がいないことです。また、導入にかかる費用の問題も大きいでしょう」
とりわけテレワークの導入に際して聞かれるのが「IT機器やシステム導入のための知識がない」「ルールをどうつくればいいのかわからない」「コストがかかる」といった課題だ。東京商工会議所が2020年3月下旬に実施した調査(※2)によると、現在テレワークを実施していない企業において、課題となっているのは、「テレワーク可能な業務がない」を除くと、上位から、「社内体制の整備」、「パソコン等ハードの整備」、「セキュリティの確保」が課題となっているという回答結果となっている。
いちばんのハードルとなっている「社内体制」に関して、「まずは完璧を求めずに始めることが重要」と冨吉氏は指摘する。
就業規則などは最低限の変更をする程度でテレワークを実施することも可能だ。導入に成功した企業に話を聞くと、まずは実際にテレワークを実施してみて、やりながら必要なルールを段階的に整備していったというケースもある。
中小企業ほどテレワークのメリットは大きい
まずはクイックに実施することの効用は小さくない。注目したいのが、テレワークの導入が、中小企業が慢性的に抱える課題を解決し得ることだ。
環境の整備にコストがかかるというイメージもあるかもしれないが、一方で、テレワークは今までかかっていた不要なコストの圧縮にも直結する。通勤日数が減れば、それに伴い通勤交通費やオフィスの光熱費を圧縮できる。さらにはオフィスの規模を縮小することで、家賃を大きく下げることも可能だろう。
また、多くの中小企業が抱える「優秀な人材の流出防止・採用」という課題。これまでは子育てや介護、パートナーの転勤などで離職せざるを得なかった人材も、テレワークが普及すれば在職できるようになるかもしれない。また社内にテレワークが浸透し、優秀な人材が残れば、入社志望者の増加にもつながるだろう。
生産性の向上も見込める。小さい企業ほど一人ひとりの社員の職域が広いものだが、テレワークで電話対応や来客対応、さまざまな雑務から解放されれば、その人本来の職務により集中できるだろう。またテレワーク環境が整備されることで、これまで関わることの難しかった海外や地方の企業・人材・案件とも関われるようになる。それにより、これまでになかったシナジーやイノベーションが生まれるかもしれない。
「テレワークであれば、遠隔地や兼業で働く外部人材なども有効に活用していけます。また集中力や時間の使い方が向上することで、個人レベルでの生産性も大幅に高められます。だから中小企業にとっては、課題をクリアするチャンスともいえるんです」(冨吉氏)
ハード面での課題も今や低コストで解決できる
ルールに続いて障壁となっている「パソコン等ハードの整備」については、テクノロジーの進化により、敷居はどんどん下がっている。最近は安価で高性能なパソコンやWi-Fi機器が多く出ており、ビデオ会議用のツールや、遠隔作業に欠かせないクラウドサービスも低コストで導入できる。一方で、「セキュリティの確保」といった観点で、選ぶのが難しくなっている面もあるだろう。
選択肢が多くあるだけに、何からどう進めればいいかわからない、という初歩的なところで立ち止まっている中小企業も少なくない。そうした企業のために、今テレワークの導入のサポートを行うサービスも登場している。例えば、一般社団法人テレワーク協会の協力のもと、日本マイクロソフトとパソコンメーカー各社が共同で取り組んでいる「中小企業のテレワーク応援プロジェクト」が、その代表だ。
当プロジェクトでは、テレワークに最適なパソコンやビデオ会議ツールの紹介、テレワーク導入に必要な情報を集約した「中小企業のためのテレワークガイド」の提供といった取り組みを実施。6月18日19日には、テレワークの仕組みや助成金制度、導入事例などを紹介する無料オンラインセミナー「今すぐ始められるテレワーク推進セミナー」も開催する。
中でも注目したいのが、テレワークにおけるハード面の障壁の多くを解消し得る、Office 2019搭載Windowsパソコンの“テレワーク推奨モデル”の存在だ。ノートパソコン型で、カメラやマイクを内蔵しているので、これ1台あればさまざまな場所でフレキシブルに作業ができる。
もちろんビジネスに欠かせないエクセル、ワード、パワーポイントなども搭載し、高度なセキュリティ対策も施されているため、新たに作業用ソフトやセキュリティソフトを入れずとも、すぐにテレワークが始められる。
テレワークに不可欠なビデオ会議やチャットに関しても、コミュニケーションアプリ「Microsoft Teams」で、すぐ行えるようになる。ファイルの共有や共同編集など、リモートでのチーム作業も、安全に行えるのがポイントだ。パソコンメーカー各社の製品ページから無料で使える「Microsoft Teams」もダウンロードできるので、まずはトライアル版から始めてみるのも良いだろう。
「このタイミングをきっかけに、テレワークをはじめとした新しい働き方に対応していけるかどうかは、トップ次第。今後、より二極化が進むと思いますが、この波に乗れた企業に優秀な人材が来る可能性が高まるでしょう」(冨吉氏)
長年オフィス勤務のみでやってきた企業が、急にテレワーク中心に切り替えるのは、当然難しい部分があるだろう。でも、今こそひと踏ん張りして導入を進めることで、長年抱えてきた課題をも解消できるかもしれない。テレワークは、ピンチを「変革」や「躍進」に変える、有用な“ツール”となり得るのだ。
(※1)出典:東京都テレワーク「導入率」緊急調査結果
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/cyousagaiyou0511.pdf
(※2)出典:東京商工会議所「新型コロナウイルス感染症への対応に関するアンケート」調査結果
http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1021763