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SDGs認知高い日本に「足りない」ものは?(後編) 「産官学のコラボ」で生まれる新しい価値

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本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人取り残すことなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第18回の今回は、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/xSDG・ラボ代表の蟹江憲史氏に、SDGsを軸にした企業や自治体の協働についてお話を伺いました。
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科教授
xSDG・ラボ代表
蟹江憲史氏

―前回、SDGsを推進するに当たって、今さまざまなステークホルダーと協働して取り組んでいるというお話を伺いました。具体的にはどのような活動をされているのですか。

蟹江 大学の中に「xSDG・ラボ」というラボを設立して、企業や自治体の方々と一緒に共同研究を進めています。ラボではコンソーシアムをつくり、2019年度は19の企業と4つの自治体がパートナーになっています。

主な活動は2つです。1つは、SDGsへの取り組みの標準化です。例えば企業がSDGsに合致した商品を取り扱うECモールを開くとします。このモールで品ぞろえをするには、まずサステイナブルな商品とはどのようなものなのかという基準をつくり、それをクリアしたものを選ぶ必要があります。それから、今、金融機関はSDGsに取り組む企業を高く評価しようとしています。ただ、その評価基準がまだ明確ではなく、評価を受ける企業側もどのように取り組んでいいのかわからない部分があります。

このように企業がSDGsに取り組むときには、何かしらの基準をつくってステークホルダーで共有することが求められます。その基準づくりに、今、企業や自治体の方たちと取り組んでいるところです。金融分科会では、ほぼその作業が終わりました。コロナの影響で成果の発表が遅れていますが、近いうちに発表できる予定です。

もう1つは、コンソーシアムの会員企業とのワンオンワンの研究です。例えばある製造小売企業は、もともとサステイナビリティーに熱心に取り組んでいました。しかし、「まだできていないところがあるはず」と相談を受け、SDGsを使って一緒に検証をすることになりました。

またGIS(地理情報システム)を持つ別の企業とは、その技術をSDGsに活用する方法について研究しています。GISを使えば、例えば過疎地域に住む人が病院にアクセスするときのルートや時間を計測して、そのデータを基にアクセスの改善につなげることもできるはずです。医療や交通インフラには行政が深く関わってきますが、そうなると自治体も参加しているコンソーシアムの強みがさらに活きるでしょう。

「xSDG・ラボ」の様子。「産・官・学」の協働だからこそ生みだされる価値があるのだという。参加企業も増えているそうだ

―そもそも企業はなぜSDGsに取り組むべきなのでしょうか。

蟹江 日本には昔から、売り手よし、買い手よし、社会よしの「三方よし」の考え方があります。ただ、「社会よしが本当に未来をよくすることにつながっているのか」というところまでは考えられていなかったように思います。SDGsが示すのは、まさに未来よし。それも含めて、今は「四方よし」が求められる時代になりました。

とくに若い人たちの意識は高いです。今の学生たちは10代の初めのころに東日本大震災を経験していて、社会貢献をしたり絆をつくることを当たり前に捉えています。私の世代は自分だけ儲けたいという野心的な人もいましたが、今はほとんどいません。

そういった世代が、これから消費者になるだけでなく、働き手としても社会に出てきます。彼らは待遇だけでなく、サステイナブルに貢献しているかどうかを会社選びの基準の1つにしています。SDGsの取り組みをアピールできない企業は、若い人たちからの支持を得られずに苦労するのではないでしょうか。

国連SDGs会議で、参加した学生たちと撮影

―新型コロナウイルスの影響で社会の価値観が再び揺らいでいます。新型コロナウイルスが収束した後、SDGsへの取り組みは後退するでしょうか。それとも加速するでしょうか。

蟹江 新型コロナウイルスの感染拡大によって、グローバル化の負の側面や、社会のいちばん弱い立場の人がより苦しめられるという問題があぶり出されました。このままで本当に社会が持続可能なのかどうか、目の前に突きつけられたのです。その意味で、「誰一人取り残さない」という理念を持つSDGsの重要性は増していくと見ています。

企業にとっては、これまでのやり方を見直すチャンスでもあります。震災のときの復興プロセスでも、かつてのビジネスを単に復活させるのではなく、社会貢献や環境問題を事業に取り込んだところがいち早く復興したという研究があります。今回も同じ事が起きる可能性は十分にあるのではないでしょうか。

「HLPF(High Level Political Forum /国連ハイレベル政治フォーラム)」におけるプレゼンテーションの様子

―それを踏まえて、企業はどこからSDGsに取り組めばいいでしょうか。

蟹江 SDGsは包括的なものなので、まずある種のチェックリストとして活用するといいでしょう。17のゴールと169のターゲットを見ながら、「これは自分たちに関係ない」「やり方次第で貢献できる」「自社のビジネスと深く関係している」というようにチェックして、自分たちが取り組めるところを洗い出すのです。同時に、一見関係ないと思われるところも、その目標の足を引っ張ることは避ける必要があります。また、自社のビジョンを明確にすることも大切です。半年や1年先の利益ではなく、長期的に何を目指すのか。それがクリアになっていると、SDGsを使ってチェックするときも自社の足りないところを把握しやすいでしょう。

具体的な取り組みはケース・バイ・ケースです。1つアドバイスがあるとしたら、1社だけでできることには限界があるということでしょうか。新しい取り組みには新しい仲間が必要です。その仲間づくりでも、SDGsは役に立ちます。SDGsに共感する同志なら、SDGsという共通言語を使えば組みやすく、1社だけではできないことにも挑戦できるはずです。

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