SDGs Lab

企業経営で知りたい新しいSDGsのあり方(後編)

コロナ収束後、SDGsが果たせる役割とは?

本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第16回の今回は、前回に引き続き千葉商科大学・基盤教育機構・客員教授、CSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏に、SDGsの最新潮流、今経営者が知るべきSDGsについて、お話をお聞きしています。

―飲料メーカー時代の取り組みは、SDGsの成功事例としてよく知られています。成功の要因はどこにあったのでしょうか。

千葉商科大学 基盤教育機構 教授
CSR/SDGsコンサルタント
笹谷秀光氏

笹谷 SDGsを取り入れる前にCSRの下地ができていたことが大きかったですね。私が入社してまず取り組んだのは、ISO26000の導入です。

ISO26000は、2010年11月にできた「社会的責任に関する手引」というガイダンス規格で、CSRに関する組織のあるべき姿を規格化したものです。特徴は、CSRを慈善活動ではなく、本業の中でやるべきこととして捉えたこと。慈善活動だと、企業が儲かっているときにしかやらないので持続性がないし、本業で環境によくないことをやっている場合にそれをウォッシュする目的に利用されかねません。一方、本業で社会課題に取り組めばイノベーションが起きやすくなる。確かにそうだと考えて、翌年には勤務先で実行しました。

次に取り組んだのは、競争戦略で有名なマイケル・ポーター教授が提唱するCSV(Creating Shared Value)です。CSVは、社会価値と経済価値を同時に追求・実現するための理論です。本業を主軸にするISO26000の考え方と近かったので、早速採用を検討しました。

偶然ですが、ちょうどその頃に一橋大学ビジネススクールの「ポーター賞」に勤務先が選ばれて、ポーター先生と直接お話をする機会がありました。ポーター賞は優れた競争戦略を持つ企業に贈られる賞ですが、「御社の取り組みはCSVの代表的事例だ」と評価をいただいた。これは励みになりましたね。

―そのように地ならしがあった後にSDGsと出合った?

笹谷 はい。SDGsの第一印象は「17の目標と169のターゲットは網羅的で、壮大だ」。ただ一方で壮大すぎて、構造分析しないとよくわからないという印象も持ちました。そこでその構造の分析として、SDGsが5つのP、すなわちPeople、Prosperity、Planet、Peace、Partnershipに分類できるという説明が的を射ていることがわかりました。その整理を活用したうえで、CSV採用時に行ったバリューチェーンマッピングにSDGsをのせたところ、うまく当てはまりました。

いきなり何も下地がないところでSDGsに取り組んでいたら、実践までにかなりの時間を要したでしょう。しかし、もともと社会性の高い活動があり、ISO26000からCSV、そしてSDGsという一連の流れがあったので社内に定着させることができました。同社では8年近い歳月をかけてこの流れをつくりました。

現在はこの経験を生かして、さまざまな企業に適用できるように、プロセスをもっと凝縮した形で理論的体系に整えて、「メソッド化」してコンサルティングをさせていただいています。

(右)「未来まちづくりフォーラム2020」実行委員長としての基調講演を行った(左)2017年、実行委員長も務めた地方創生まちづくりフォーラム「まちてん」にて

“アフター・コロナ”におけるSDGsの重要性

―SDGsが徐々に社会に浸透して、採用する企業も増えてきました。今、取り組んでいる企業は、どのような点に気をつければいいでしょうか。

笹谷 SDGsには17の目標と169のターゲットがありますが、そろそろターゲットレベルで踏み込むべきです。17の目標は、フィギュアスケートでいうとショートプログラムで、どの企業も自社の事業に目標レベルでは「当てはめ」を終えつつあります。これからは、フリーの演技、つまりターゲットレベルでの当てはめをすることが必要になってくる。また、何を自社の「技」として見せていくかはまだ足りていないと感じます。今後はそこが差別化の要因になるはずです。

さらに、何でも当てはめるのではなく、「うちはこの番号が主軸で、ここを押せばすべてに跳ね返る」というレバレッジポイントを決めること。そしてリンケージ、つまり相互の関係性を重視して進めていくことが大切です。

―なぜターゲットレベルでSDGsに取り組むべきなのでしょうか。

笹谷 今やSDGsは経営マターになりました。なぜなら、ESG投資の動きが活発になってきたからです。ESG投資とは「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)」を考慮した投資のことですが、中でも社会(Social)は幅広くてわかりにくく、ESG投資家は「この事業はどのように社会課題解決と利益創出につなげるのか」という価値創造のストーリーとプロセスを求めています。このとき自社の事業がSDGsのターゲットレベルで説明されているとストーリーの具体性と説得性が高まり、投資の対象として選ばれやすくなる。他の関係者にも訴求できます。経営者の皆さんはよく勉強されていて、そのあたりの危機感は強く持っていると思いますよ。

―しかし、現時点でターゲットレベルまで落とし込めている企業は少数派です。社内でSDGsの取り組みを加速させるには、何が必要ですか。

笹谷 セイコーエプソンはいち早くターゲットレベルの整理を2018年の統合報告書で示しています。ISO26000を活用しESGとSDGsの関連を総合的に整理する方法として、私の提唱する「ESG/SDGsマトリックス」で示していて先駆的ではないでしょうか。マトリックスについては拙著『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版社)で重要要素として詳しく解説しています。

―いよいよ最近は大手自動車メーカー、大手損保など続々とターゲットレベルでのSDGs経営が本格化しています。

笹谷 これらの取り組みの主軸になるのは経営企画室やサステイナビリティー推進部の方々ですが、まずはトップに粘り強く提案することが大切です。最初は採用されなくても、SDGsは世の中の大きな流れですから、そのうちにうまく当てはまるタイミングが必ずやって来ます。同時に、社外との関係構築も含めてパブリックリレーションズも必要。そこからすくい上げた声を上にも伝えることで、立体的で説得性の高い提案ができるのではないでしょうか。そしてメディアリレーションにつなげることで発信性が高まります。

とはいってもSDGsは奥が深いし、課題の変化が複雑で速いので最新情報や参考にすべき事例などは専門家から学ぶとスピード感が出て自信を持って推進できます。時節柄、拙著をベースにしたメソッドでウェブ活用での対応も強化していますので、いつでもお声がけください。

―最後にお伺いします。アフター・コロナを見据えて、今多くの企業が存在意義やビジョン、経営戦略の見直しを迫られています。そのような状況において、SDGsはどのような意味を持つでしょうか。

笹谷 “アフター・コロナ”がどうなるかという問題は複雑で難しいですが、現況で考えると、直接的にはSDGsの目標3番「健康」のうちのターゲット3.3「感染症への対処」というリスク面がクローズアップされ、9番の「技術革新」をはじめ、17番の「グローバル・パートナーシップ」などが関連していると感じます。SDGsはグローバルな羅針盤なので、あらゆる目標がより重要な意味を持つようになると思います。根本的な話をすれば、SDGsの「17の目標、169のターゲット」は、世界が抱える社会課題を洗い出したチャンス獲得とリスク回避両面での優れた羅針盤です。混迷の時代になるほど、羅針盤が役に立ちます。自社は世界の社会課題に対して今、何ができていて、これから何をすべきなのか。それを問い直すときに、SDGsはきっとヒントを与えてくれるはずです。

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