食品ロスが生活に与える「4つの深刻な影響」 日本の食品廃棄物「年間2759万トン」の衝撃
――食品ロスとは、具体的に何を指すのでしょうか。
井出 日本では年間8000万トン以上の食料が流通しています。そのうち使われずに廃棄されてしまうものを「食品廃棄物」と言い、農水省と環境省が毎年発表する最新の統計によると、その量は2759万トンに達しています(※1)。この食品廃棄物には、リンゴの芯や魚の骨など食べられない不可食部も含まれます。食品廃棄物から不可食部を除いたもの、つまり食べられるものなのに捨てられているものを指して「食品ロス」と呼び、643万トン(※1)と推計されています。
食品ロスは小売店や飲食店などから出る事業系が55%で、一般家庭から出るものが45%ですが、これには畑や港で捨てられている生産調整や規格外の野菜や水産物、備蓄食品の廃棄は含まれません。それらを含めると、実態はもっと多いでしょう。
――食品ロスが大量に出ると、いったいどのような問題が起きるのでしょうか。
井出 地球規模で見ると、大きく4つあります。まずは食料不足への対応です。世界では人口が増え続けていますが、必要な人に食料が行き渡らず、将来は深刻な食料不足が起きると予想されています。食品ロスを放置すれば、食料不足問題はより深刻化するでしょう。
2つ目は、環境負荷の増大です。日本では食品廃棄物を焼却処分しますが、世界の多くでは埋め立てです。食品を埋め立てたときに発生するメタンガスは二酸化炭素の約25倍の温室効果があるとされ(※2)、気候変動の一因になっています。たかが食品と思うかもしれませんが、その量はばかにできません。温室効果ガス排出量は1位が中国で、2位がアメリカ。全世界の食品廃棄物から発生する温室効果ガス量を合算すると、これに次ぐ3位に相当する量になります。
3つ目として、倫理的な問題もあります。世界には絶対的貧困、つまり1日1.90ドル未満で暮らしている人が7億人以上います。満足に食べられない人たちがいる一方で、飽食で食品が捨てられている。これは倫理的に許されていいのでしょうか。
そして最後が、経済的な損失です。最終的に捨てられるものであっても、生産過程や流通において多くのコストがかかっています。石油などから生まれるエネルギーはもちろん、生産者や労働者が費やした手間や時間も無駄になってしまうわけです。食品ロスを減らせば人的リソースの無駄遣いも減り、いま日本が取り組んでいる働き方改革にも貢献するはずです。
――食品ロスは、誰にでも関係のある問題なんですね。
井出 はい、食品業界に関係のないビジネスパーソンもひとごとではありません。事業系の食品廃棄物は、さらに「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」に分けられます。産業廃棄物の処理にはコストがかかりますが、それは商品の価格に上乗せされていることが普通です。また、「事業系一般廃棄物」は家庭ゴミと共に自治体で燃やされますが、そこにはもちろん税金が使われています。自分の生活に関係ないように見えても、食品ロスにかかるコストを消費者、納税者として負担させられているんです。
――食品ロスに対して国は積極的に取り組んでいるのでしょうか。
井出 事業系の食品ロスは、商習慣が大きく影響しています。例えば小売りの3分の1ルール。これは、賞味期限のうち3分の1を過ぎたら小売店は納品できない、3分の2を過ぎたら販売しないという商習慣です。返品されたものを再販売するのは難しく、そのまま廃棄になるものも少なくありません。こういった商習慣を見直すため、2012年に農水省が中心となって、複数の各省庁を集めた連絡会議やワーキングチームを立ち上げました。日本の省庁は縦割りになりがちですが、この問題については横断的に取り組んでいます。
――では、日本の取り組みは進んでいる?
井出 日本は2001年に、当時としては進んでいた食品リサイクル法を施行していますが、この対象は事業者のみ。生産者や消費者の責任まで広く問われませんでした。また、食品リサイクル法が求めているのは、食品廃棄物を家畜の餌や堆肥にすること。まだ食べられるものを再利用、つまり食品をリユースする視点に欠けていました。
昨年施行された食品ロス削減推進法で、これらの点は改善されました。ただ、まだ理念的で、守らなくても罰則はありません。フランスの同様の法律は罰金があり、イタリアでは逆に実行すると税金が安くなるなどのインセンティブがあります。理念にとどまっている日本は、まだまだだと感じます。
――食品ロスに対して、私たちが普段から取り組めることは何でしょうか。
井出 ご家庭だと、まずは冷蔵庫の使い方に注意です。食品をたくさん詰めると中が見えづらくなり、食品を傷ませがち。冷蔵効率も悪く、お財布にもやさしくありません。目安は容量の約70%。扉を開けたときに奥が見えるくらいが適量です。冷蔵庫の詰め込みすぎを防ぐには、缶詰などの保存食を活用したり、野菜は使うぶんだけ買ったりするといった工夫をするといいでしょう。
また外食するときには、食品ロス削減に取り組んでいるお店を選ぶといいでしょう。例えば京都市では、小盛りメニューを用意したり食べ残しをテイクアウトしたりできるなどの工夫をしている飲食店を「食べ残しゼロ推進店舗」に認定して公表しています。
――企業としてできることもありそうです。
井出 業種業態にかかわらずできるのは、災害用に備蓄している食品の入れ替え時に、廃棄せずに使うこと。社員に配ったり、フードバンクや子ども食堂に寄付したりしている企業もあります。食品ロスを事業に絡めようとするとさまざまな調整が必要になりますが、備蓄は総務マターの企業も多いですから、事業に比べると、しがらみなくできるはずです。
その先には、事業としても取り組めたら理想的です。残念ながら、現段階では「食品ロス削減に取り組まない企業の商品は選ばない」というほど消費者の意識は高まっていません。しかし、大きな社会課題であることに間違いはありません。企業には消費者を啓発するくらいのつもりで、率先して取り組んでいただきたいですね。
(※1)出典:農林水産省「食品ロス量(平成28年度推計値)の公表について」、環境省発表「我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成28年度)の公表について」
(※2)出典:IPCC第4次評価報告書