「量子をビジネスで実用化」の時代はすぐそこ

NEC工場、数時間かかる生産計画立案を数秒に

次世代の技術として量子コンピュータが話題にのぼることが増えてきた。量子コンピュータは従来よりも高速処理が可能なため、「次世代の技術」として期待されている。実はすでに実証実験が始まっており、ビジネスに応用する日は近づきつつある。例えば、量子コンピュータに力を入れているNECの関連会社の工場では、量子コンピュータの適用技術であるシミュレーテッド・アニーリングマシンを導入して検証したところ、熟練工が数時間かかる生産計画立案がわずか数秒になったという。
NECは、「量子コンピュータウェブセミナー」を開催し、NEC 千嶋博氏と量子アニーリングの研究開発を行うシグマアイ 観山正道氏がさまざまな活用事例を紹介した。

「組合せ最適化問題」とは何か

従来のコンピュータと比べて圧倒的な処理能力を持つといわれている量子コンピュータ。今はまだ開発中で、実用化はずっと先だと考えている人は多いだろう。

画像提供:NEC

それに対して、「昔は物理の実験室でやっていたことが、今や費用をかければ誰でもクラウドで計算できる状況になっている」と解説するのは、シグマアイCTOの観山正道氏だ。

シグマアイ 取締役 CTO 博士(学術)
東北大学大学院情報科学研究科・特任助教(研究)
観山 正道

「量子コンピュータの開発は、量子計算理論を使った量子ゲート方式が1つの大きな流れでした。量子ゲート方式のコンピュータは世界を変える可能性を秘めており、これは実用化に時間がかかります。

一方、それとは別に統計力学の分野から出てきた量子コンピュータとして量子アニーリングがあり、そのマシンはすでに開発されています。企業での活用事例も少しずつ出てきて、開発したカナダの企業によると、2020年内には実用アプリケーションが登場すると予想されています」

万能型と呼ばれる量子ゲート方式とは異なるものの、特化型の量子アニーリングマシンも、処理能力は従来のコンピュータと比べて飛躍的に高い。量子アニーリングが得意としているのは、組合せ最適化問題。代表的なものとして、複数の都市を回るときの最短ルートを求める「巡回セールスマン問題」がある。

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「量子アニーリングマシンは『自然はエネルギーが低い状態を好む』という性質を用いてこのような組合せ最適化問題を解きます。その動作時間は数十マイクロ秒と極めて短く、とくに問題の規模が大きくなるほど既存のコンピュータに比べた優位性が顕著となります」(観山氏)

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熟練工のように最適な生産計画を策定できる

組合せ最適化問題を瞬時に解けるようになると、どのようなことを解決できるのか。その1つが、製造業が抱える課題だ。

NECシステムプラットフォーム研究所主幹研究員の千嶋博氏は、次のように語る。

NEC
システムプラットフォーム研究所
主幹研究員
千嶋 博

「多様化する市場に対応するため、製造業は少品種大量生産から多品種少量生産にシフトしています。その結果、どこで何をいくつ作るのか、どのような手順でいつ作るのかといった生産計画が複雑化しました。この生産計画の策定がうまくいかないと、時間やリソースに大きなロスが生じます」

生産計画の策定は、まさに組合せ最適化問題の1つ。量子アニーリングで最適な生産計画を導ける可能性が高い。

実際、NECはグループの工場で生産計画に量子アニーリングを導入して検証したことをセミナーで紹介した。

「対象の工場では、1つのラインで複数の品種を少量ずつ作っていました。品種の切り替え時には部品を交換したり設備設定を直したりする必要がありますが、段取りにかかる時間は品種によって異なります。どの順番で作れば段取り時間を最小化できるのか、これまで熟練工が毎朝、勘と経験で計画を策定していました。そこに量子アニーリングを活用できないか、とわれわれは考え、検証を重ねてきました。

検証の結果、熟練工と同等か少し上のレベルの計画ができました。同等では意味がないと思われるかもしれませんが、熟練工が数時間かけて計画をつくるのに対して、量子アニーリングは数秒です。また熟練工は育成に時間がかかり、容易にほかのラインに展開できませんが、量子アニーリングは修業期間も要りません」(千嶋氏)

このように、量子アニーリングは、産業界に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。

渋滞解消から人員配置まであらゆる場面で活躍

観山氏がセミナーで紹介したのは、ドイツ自動車メーカーが発表した論文だ

「北京は慢性的な交通渋滞に陥っています。原因の1つは、多くの車が経路案内に従って、最短経路で走って集中してしまうこと。そこで量子アニーリングを用いて、タクシーが一斉に同じ道を通らないように経路を散らして、全体が最適化される計算を行いました。とても示唆に富んだ内容ですので、ほかにもいろいろ応用ができるのではないかと考えています」

  • ※ “Traffic Flow Optimization Using a Quantum Annealer” by Florian Neukart, et al. (2017)

また、日本の大手自動車部品サプライヤーがシミュレータでの検証を行ったところ、工場内の稼働効率が上がることがわかった。

部品の供給や製品の集荷を行っている工場内では、複数の無人搬送車が運行されているため、同時に交差点に通りかかると、自動制御で無人搬送車が一時停止して待ち時間が生じてしまう。その結果、無人搬送車の稼働率は80%になってしまうという問題があった。東北大学との共同研究により量子アニーリングで運行ルートを全体最適化したところ、渋滞の発生が減って稼働率が93〜96%にまでなった。

量子アニーリングでアプローチできる組合せ最適化問題は、ほかにも数多くある、と千嶋氏は解説した。

「例えば、スタッフのシフトやスケジュールを最適化することもできます。スケジュールというのは、実はとても複雑な問題なのです。ある日に発生する業務に対する重要度は人それぞれ違ううえに、それぞれのスタッフの都合も考慮し、トータルで判断しなければなりません。こういった複雑な要素を考慮し、短時間で最適解を出すことは、量子アニーリングの得意分野です」

元図はNEC提供

「ほかには、製薬を行う際に分子の膨大な組合せから最適解候補を絞ったり、リスクを最小化しつつリターンを最大化する金融ポートフォリオの計算をしたり、それからECサイトの商品の表示順序について多様性を考慮し、類似商品が並ばないようにすることで販売機会を増やすといったようなこともできます」(千嶋氏)

画像提供:NEC

「ミクロから交通インフラのようなマクロな問題まで、量子アニーリングはあらゆる領域で応用できる可能性があります。今、量子アニーリングは世界でも日本でもほんの一部企業しか活用していません。そもそも、この技術の存在を知っている人も少ない今だからこそ、積極的に“自社で活用できるのでは”と可能性を探ることで、競合他社と差をつけるチャンスかもしれませんね」(観山氏)

とはいえ、すべての企業が活用できるわけではない、と千嶋氏は言う。

「企業の事情によって、量子アニーリングやそのほかの技術で解決できることも異なります。事例が徐々に増え、ヒントを得やすくなっていると思いますので、まずは私たちにご相談いただいて、一緒に勉強しながら解決していけたらうれしいですね」

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