受動喫煙防止法は喫煙者の店選びをどう変える 飲食店を選ぶ際のもう1つの基準とは
新たな喫煙ルールの内容と目的は?
改正健康増進法の目的は、受動喫煙の防止を図ることにある。これまでは、受動喫煙を生じさせない喫煙場所が明確に定義づけられていなかったことから、非喫煙者が望まない受動喫煙をしてしまうことがあった。喫煙者にとっても、意図せず受動喫煙をさせてしまう状態であり、お互いにとって不幸な状態だったといえよう。
そこで、改正健康増進法では、受動喫煙が生じやすい「屋内」を原則禁煙としたうえで、施設の類型・場所に合わせて禁煙レベルを設定し、屋外喫煙所や屋内での喫煙室が設置できる要件を定義した。この「屋内」は、個人の住宅やホテル・旅館の客室を除くすべてが対象なので、飲食店では原則として喫煙ができなくなる。
ただ、一定の条件を満たせば、飲食店でも喫煙可能となる場合がある。その際、出入口にその旨を明記した標識の掲示が義務化されるので、一目で見分けることが可能。喫煙者にとっても非喫煙者にとっても、この標識をチェックすることで、安心してお店選びを行うことができるようになる。
飲食店で喫煙可能な4タイプの喫煙室
では、屋内で喫煙可能な飲食店とは具体的にどのようなものなのか。改正健康増進法では、店舗の一部に「喫煙専用室」「加熱式たばこ専用喫煙室」を設置すること、もしくは店舗全体または一部に「喫煙目的室」「喫煙可能室」を設置することの4タイプを認めている。経営規模やサービス内容によって適応のされ方は異なる。
タイプごとに条件を見ていこう。「喫煙専用室」とは、飲食スペースとは別に喫煙できるスペースを確保しているものだ。条件としては、次の3つがある。
ここでは喫煙ができるものの、飲食をはじめとするサービスの提供はできない。
次の「加熱式たばこ専用喫煙室」は、喫煙できるのが加熱式たばこに限定されるが、飲食の提供が可能だ。店内に、禁煙スペースと加熱式たばこのみ喫煙できるスペースが分けられるイメージだ。フロアで分けることも容認されている。
「喫煙目的室」とは、シガーバーやたばこ販売店など喫煙をサービスの目的とする店舗のみ。ここでは、喫煙に加え飲食サービスも提供できる。
「喫煙可能室」とは、経過措置として、既存の経営規模が小さな飲食店に限定されている。事業継続に影響を与える可能性があることから、従来どおりの喫煙環境を維持できるとしたものだ。ただし、「20年4月1日時点で営業している」「客席面積が100平方メートル以下」「資本金5000万円以下」の3つの条件をクリアしなければならない。
なお、東京都の場合は、既存の小規模飲食店でも「喫煙可能室」を設置できない店舗が多くなりそうだ。東京都の受動喫煙防止条例では、面積による線引きをしておらず、従業員を1人以上雇用している店舗は原則禁煙となるからである。
都内の飲食店に示される選択肢は「喫煙専用室」もしくは「加熱式たばこ専用喫煙室」を設置するか、店内禁煙となる。このように、都市によって条例が異なるので、各地域の条例を確認する必要があるといえよう。
喫煙者の生活はどう変わる?
こうした新たな喫煙ルールは、非喫煙者および喫煙者の生活や行動にどのような影響を与えるのだろうか。
まず非喫煙者は、たばこの煙に遭遇する機会をなくすことが可能となる。喫煙室が設置されている施設であっても、前出の技術的基準をクリアしているため、禁煙エリアに煙が漂ってくることがなくなる。従来と変わらない喫煙環境がある飲食店も、標識の義務化で入店する前にそれと理解できる。非喫煙者によっては、スモークフリーな生活が実現するだろう。
喫煙者はどうか。これまでも「喫煙は定められた場所のみ」というマナーはあったが、それがより徹底されることとなるだろう。なぜならば、改正健康増進法に違反すると罰則が適用されるため、新たな喫煙ルール順守が推進される。
また、飲酒の機会に喫煙する習慣を持つ喫煙者にとっては、飲食店の喫煙規制が厳しくなることでその習慣が変わる可能性もある。「加熱式たばこ専用喫煙室」ならば飲食もできるため、「普段は紙巻たばこだが、飲み会のときは加熱式たばこにする」といった使い分けが生まれるかもしれない。すでに、一部のカフェや居酒屋チェーンなどでは、こうした行動変容を見据えて「加熱式たばこ専用喫煙室」や「加熱式たばこ専用フロア」を設置する動きも出ている。
いずれにせよ重要なのは、改正健康増進法の目的でもある喫煙ルールをしっかりと守ることで、喫煙者・非喫煙者お互いにとって快適な空間がつくられることだ。スモークフリーな社会を、そして多様性を受容できる社会を実現するためにも、この新たなルールをしっかりと理解したいところだ。