社会課題解決と「本業の成長」両立するコツとは 社員1人ひとりが「自分ごと化」できてる?
「身近な成果」に結び付け社内に浸透させる工夫を
国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)が世界的な潮流となり、社会課題の解決に取り組む企業が増えている。とはいえ、環境保全やダイバーシティーの推進、地方創生など、社会課題のテーマはいずれも中長期的な視点で取り組むべきものであり、すぐに業績に結び付く成果が表れるとは限らない。
単なる「社会貢献」で終わらせないためには、社会課題を起点に新たな価値創造やイノベーション創出につなげていく発想が欠かせない。本業である事業活動を通じて社会課題を解決し、「企業価値」と「社会価値」の両立を目指すCSV(共有価値の創造)の考え方が注目されているのもそのためだ。
だが、社会課題解決型の新事業部門を立ち上げたのに、短期的なマネタイズにつながらないため、社内やステークホルダーの理解が得られないと悩む経営者は多い。活動の目的や理念が浸透しなければ、やがて形骸化してしまうおそれもあり、組織の活性化や社員のモチベーション向上など、身近な成果に結び付ける工夫が必要だ。そこでうまく活用したいのが、企業のさまざまな取り組みを評価する表彰制度である。
その1つに日本能率協会(JMA)が実施する「KAIKA Awards」がある。KAIKA(開花・開化)とは、「個人の成長・組織の活性化・組織の社会性」の3つの同時実現により新たな価値を生み出すという経営の考え方としてJMAが提唱しているものだ。この理念に基づき、経営・組織・人づくりに取り組む活動を評価、表彰するのが「KAIKA Awards」である。
きめ細かいフィードバックが成長の契機に
「KAIKA Awards」は、一般的な企業表彰制度とは一味違った特徴を備えている。最大の魅力は、人と組織の活動を幅広くサポートすることを目的としているため、すべての応募企業に対して丁寧なヒアリングとフィードバックを行っていることである。
例えば近年、障がい者雇用に積極的に取り組む企業が多く見られる。こうした企業が「KAIKA Awards」に応募した場合、障がい者の雇用数や雇用率、定着率などの外形的なデータが評価されるのではなく、検討委員が応募企業を訪問し、現地ヒアリングを実施。社内において障がい者雇用の理念がどれだけ浸透しているか、さらには、既存社員の意識や働き方など、組織全体にどんな変化が起こっているか、なども詳しく聞き取って評価していく。
そうして検討委員が持ち帰った内容や審査委員会で出たコメントは、事務局がレポートにまとめ、後日改めて応募企業を訪問してフィードバックする。活動に対してどのように評価されたのか、個人の成長や組織の活性化に一層つなげるには、どのような改善点があるか、などを客観的な視点で具体的にアドバイスしていく。JMAのKAIKA研究所 所長 近田高志氏は、こう説明する。
「つまり『KAIKA Awards』の応募から審査のプロセスには、いわば、専門家によるコンサルティングを受けるような効果があります。これまでの自社の活動内容や成果を整理し、客観的な視点からの質の高いフィードバックを受けることで、新たな気づきやヒントを得ることができます。審査を受けるだけでも成長の契機となるため、『きめ細かいフィードバックが得られて驚いた』『当たり前にやってきたことに大きな社会的価値があると気づけて、モチベーションが高まった』といった声をいただいています」
大企業からNPO法人まで多彩な顔ぶれの応募組織
応募企業の顔ぶれが多彩なのも「KAIKA Awards」の特徴といえる。大企業から中堅・中小企業、NPO法人まで、さまざまな規模や形態の組織・団体が参加している。上場企業の一地方事業所や一部門が単独で応募・受賞するケースもある。
このほど発表された「KAIKA Awards 2019」では、KAIKA大賞を3社、KAIKA賞を4社に決定。国内の災害復興に関連する優れた活動に取り組む2組織を「特別賞」に選出した。さらに応募の中から、テーマの重要性、取り組み方のユニークさを踏まえ、今後応援したい「特選紹介事例」として8つの企業・組織が選ばれている。2020年1月にはその表彰式が東京国際フォーラムにおいて開催された。
すべての活動内容は「KAIKA Awards」ホームページほか、JMAの広報誌などを通じて広く公表される。大賞受賞者はもちろんだが、特選紹介事例に選ばれるだけでも、組織内の一層の活性化につながり、企業イメージの向上や人材獲得などにも好影響が期待できる。
「KAIKA Awards」の概要や応募要項、過去の受賞事例などはHPで確認できる。他社の優れた取り組みを知るだけでも、自社の活動を見直すよい機会になるだろう。