日本初を実現したクラウドエンジニアの挑戦 ソフトバンク、MSPダブル認定取得にかけた想い

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ソフトバンクは2020年2月、「Microsoft Azure Expertマネージドサービスプロバイダー(MSP)」と、「Microsoft Azure Networkingマネージドサービスプロバイダー」の認定を取得したと発表した。2つの認定を取得したのは、日本の企業で初めて※1だ。取得までの道のりは決して平坦ではなく、2年もの期間を要したという。その苦労をいとわず、あえて挑んだ理由はどこにあったのか。そして直面した課題をどのように解決していったのか。ソフトバンクの担当者に聞いた。

2年をかけて2つの認定を取得

ソフトバンク
クラウドエンジニアリング本部
IoTサービス統括部
インテグレーション部 部長
石田 貴史

「2つの認定を取得するまでに2年がかかりました。日本初の挑戦とはいえ、当初の想定を上回る期間がかかりました」と振り返るのは、ソフトバンクのクラウドエンジニアリング本部の石田貴史氏だ。

マネージドサービスプロバイダー(MSP)とは、企業のITシステムの稼働状況の監視や運用・保守までをトータルで提供するサービスのことを言う。ソフトバンクでは、日本マイクロソフトが展開する「Microsoft Azure」をはじめとするパブリッククラウドの販売にあたって、関連するネットワークやセキュリティなどを包括的に提供し、トータルサポートを行なっている。

現在、同社が提供するMSPサービスでは、通信キャリアとしてのシームレスでセキュア、低遅延な運用品質で提供できる強みを持ちながら、従来のような部署ごとのシステム構築ではなく、会社全体として一元管理できるのが特徴だ。MSPサービスに含まれるクラウド管理プラットフォーム上では、全社で使用している複数のクラウドサービスの、セキュリティポリシーやコスト、使用状況などが、わかりやすく把握できる。

今回、ソフトバンクが認定取得したのは、「Microsoft Azure」のパートナー認定プログラムの最高位である「Microsoft Azure Expertマネージドサービスプロバイダー(MSP)」(以下「Azure Expert MSP」)と、Microsoft Azureのネットワークサービスに特化したパートナー認定プログラム「Microsoft Azure Networkingマネージドサービスプロバイダー」(以下「Azure Networking MSP」)だ。

いずれもその認定取得は容易ではない。世界中にマイクロソフトのクラウドパートナーは約7万社あるとされるが、そのうち「Azure Expert MSP」の認定パートナーは同社を含め数十社、「Azure Networking MSP」の認定パートナーは同社を含め十数社しかない。さらに両方の認定を受けているところとなると、日本ではソフトバンクが唯一、それ以外はインドに1社、米国に1社があるだけで、合わせて世界で3社しかない。極めて狭き門なのだ。マネージメントサービスに加え、ネットワーキングにおいても認定を受けたことは、MSPサービスにおいて一気通貫で高品質なサービスが保証されたということにほかならない。

「『Azure Expert MSP』は2017年にスタートしたプログラムで、文字どおり最高位のMicrosoftパートナー認定プログラムです。当社も2018年の春に、マイクロソフトから認定の取得を勧められました。当時、当社はクラウドの実績もだいぶ増え、テクノロジーの点でもノウハウが蓄積できていたことから、監査への準備をするぐらいで、認定を受けられるのではないかと考えてたんです」と石田氏が話す背景には、同社のマルチクラウド戦略がある。

ソフトバンク
クラウドエンジニアリング本部
クラウドエンジニアリング統括部 PaaSエンジニアリング部 第4課課長 和田 正紀

ソフトバンクというと「白戸家のお父さん」のCMで携帯電話サービスをイメージする人が多いかもしれないが、旧・日本テレコムを母体としており、法人向けサービス・ソリューションでも長年の実績がある。

クラウドエンジニアリング統括部課長の和田正紀氏は「とくにパブリッククラウドの活用では、黎明期から携わっており、Microsoft Azureだけでなく、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Alibaba Cloud、IBM Cloudなど、主要なクラウドへアクセスできるゲートウェイサービスも幅広いお客様向けに提供しています」と紹介する。

メガバンクなども含む大手企業における、基幹システムのクラウドへの移行や、ビッグデータ活用、グローバル規模のクラウド活用などでも豊富な実績がある。

チェック結果に落胆、組織体制の課題に直面

ところが、同社が2018年に『Azure Expert MSP』の事前のチェックを受けたところ、予想外の結果が待ち受けていた。「さんざんでした。監査項目の中には0点が付いたものもあり、話にならないという状況でした」と石田氏は当時を振り返る。

そこには「Azure Expert MSP」ならではの厳しい要求があった。というのも、同認定を取得するためには、技術や専門知識などの要件のみならず、セキュリティ、ガバナンス、コンプライアンスなど幅広い領域において、64もの項目について第三者機関の監査を受け、そのうちの9割以上に合格しなければならなかったのだ。

石田氏の悩みもそこにあった。「監査では、将来にわたり安定的に運用できるのかといったBCP(事業継続計画)や人材育成、さらには企業の財務体質までもが問われます。監査の面接を乗り切ると言った付け焼き刃の対応では話にならないと感じました」(石田氏)

ここから、同社における「Azure Expert MSP」認定取得のための一大プロジェクトがスタートした。

「さらに、高品質で一気通貫なサービスをお客様へ提供するためには部門をまたいだ強力な連携が必要であり、ソフトバンク自身が変わらなければ、『Azure Expert MSP』など取れるはずがないんだと危機感を強くしました。というのも、当社はさまざまな企業が合併して成長してきた経緯もあり、部門ごとに、提供する基盤やアプリケーション、SIベンダーが異なるといったケースも珍しくなく、さらには目標や文化の違いもありました。しかし、お客様は特定のソリューションではなく、ネットワークからクラウドまでの、まさにマネージドサービスを求めているわけです。縦割りになっていたら、とても対応できない。この課題を解決するためにサイロ型の組織を改め、横串型の組織に編成し直しました」と石田氏は話す。啓蒙にとどまらず、外部からの採用や組織の再編、積極的な若手の登用などを進めていった。

サービス品質向上に必要だったチームの意識改革

急激な変化に社内の抵抗がなかったわけではない。

「お客様がビジネスのスピード感を求めている中で、当社の意思決定にスピードがなければ価値のあるサービスも提供ができません。『これまでの常識では通用しない、意識を変えなければならない』と社内の関係部署との会議や打ち合わせでは指摘し続けました。最初は『何を言っているのか』という反応の社員も多かったのですが、徐々に理解されるようになってきました」と石田氏は振り返る。

和田氏は、「従来はメニューが豊富でも、部署ごとの連携ができておらず、個々のソリューションを導入しておしまいということがほとんどでした。しかし、クラウドの導入から運用までをフルサポートする、お客様にとってより良いサービスを提供するためには、部署間の壁をなくし協力しあうことが必要不可欠でした。社員の意識改革に加え、MSP認定を目指すという共通目標ができたことでモチベーションアップにつながり、現在は、コンサルティングから導入支援、アフターフォローまで含めたサイクルが一貫して提供できるようになりました。このサイクルの重要性を社員一人ひとりが認識し、従来の殻を破って新しい組織管理のあり方やサービス提供の仕組みを作り上げたことが認定にもつながったと考えています」と話す。

ソフトバンク自身がこうした改革を経たことで、かつてのような「組織の論理」優先ではなく顧客視点に立った柔軟で包括的なサービスを提供できるケイパビリティができたと言える。めまぐるしく変化するビジネス環境において、新しいビジネスを仕掛けていくには、日々進化するクラウドを有効に活用していくことが不可欠だ。そうした点で、煩雑になりがちな管理・運用を安心して継続的に一任できるソフトバンクは、ビジネスを加速させ、DX推進を目指す企業にとって頼もしいパートナーになりそうだ。

石田氏と和田氏率いるチームメンバーのエンジニア達。上司も役職名で呼ばないほど風通しの良いワンチームの強さがサービスのクオリティにもつながっている。

クラウドは「誰に相談するか」でビジネスが変わる時代

日本マイクロソフト
パートナー事業本部
シニアビジネスマネージャー
輪島 文

企業を取り巻くビジネス環境が変化している中で、ますますその変化への迅速な対応が求められています。クラウドが注目されるのもそこに理由があります。ただし大切なのは、クラウドを導入すること自体を目的にするのではなく、DXを進めるための投資を行うことで競争優位性を発揮することです。

例えば、クラウド活用の大きなベネフィットの1つに、ビジネスのアジリティ(敏しょう性)向上がありますが、これも単にインフラをクラウド上に乗せるだけでは真の価値が発揮できません。開発から運用までを一体となって行う新たなプロセス、それを支えるマネージドサービスとその品質がカギになります。

その点では、外部のパートナーについても、誰に相談すべきかが問われる時代になってきていると言えるでしょう。私たちは「Azure Expert MSP」および「Azure Networking MSP」の認定企業をお客様にとってのトラスティッドパートナーと位置付けています。ソフトバンクはまさに、当社にとって信頼してお任せできる存在であり、お客さまにとっても、一気通貫で、安心して相談できるパートナーです。ソフトバンクのサービスを導入することで、各企業の皆様は競争の差別化につながる、ビジネスに直結する部分に集中していただくことができるのは大きなメリットではないでしょうか。

お客様もパートナー企業もパラダイムシフトを迎えています。従来とは異なるやり方を進めないと、DXは実現しません。ソフトバンクはまさに、今回の認定取得にあたって、組織の管理の考え方を変え、ノウハウや学びをお客様に提供できる体制へと変革をしました。お客様のニーズは高まる一方です。ぜひ、一緒に連携してご支援していきたいと考えています。

※1 出典……パートナー総数(マーケットプレイス概要)
https://azure.microsoft.com/en-gb/blog/enhancing-microsoft-commercial-marketplace-for-partners/
Expert MSP認定事業者一覧
https://azure.microsoft.com/en-us/partners/
Networking MSP認定事業者一覧
https://docs.microsoft.com/en-us/azure/networking/networking-partners-msp