収益性と社会性が融合した企業こそ生き延びる SDGsへの取り組みで求められる思考と行動
リスクがますます大きくなり、経済優先の活動を改める時期に
――「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を日常的に見かけるようになってきています。企業でも統合報告書などで、SDGsに言及するところが増えています。
河口 SDGsは、2015年9月の国連サミットによって採択され、気候変動などの環境課題、貧困撲滅など社会課題、尊厳ある働き方やイノベーションなどの経済課題を含む30年までに達成すべき17のゴールと169のターゲットの達成を目指しています。
SDGsが世の中に出てきたときには、企業のCSRの担当者などからは「いいものができた」という声が多かったのですが、企業経営者や一般のビジネスパーソンも含めてここまで広がるとは考えていませんでした。「他社がやっているならうちも」という日本企業の横並び的なところもあるかもしれませんが、多くの人が関心を示すようになったのは基本的にはいいことだと思っています。
――背景にはどのような理由があるのですか。ビジネスを取り巻く状況が変化しているということでしょうか。
河口 一言でいえば、これまでの自社の経営を優先する考え方や行動が通用しなくなりつつあるということです。
例えば地球温暖化の課題については、1995年から毎年、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されています。当時からすでに地球は「待ったなし」の状況に陥っていたにもかかわらず、その取り組みはなかなか進んできませんでした。一方で、近年では国内でも大規模な自然災害が頻発するなど危機感を肌で感じるようになっています。
多くの企業は基本収益優先ですから、あまり環境問題を本業として取り組んできませんでした。最近になってようやく環境問題はビジネスリスクでありチャンスと考える経営者が出てきました。
ESG投資も活況。ステークホルダー資本主義へ
――企業にとっては経済優先、利益優先という意識を改める必要があるということでしょうか。ただ、「株主価値の向上」を目標に掲げている企業も少なくありません。SDGsと矛盾するものではないのでしょうか。
河口 これまで、資本主義とは株主の利益を最優先するものだと定義されてきました。消費者に安く大量に商品を売り、それで利益を上げて株主に還元するのが企業の存在意義だったわけです。しかしそれにより環境問題や社会課題がビジネスや生活に影響を及ぼし始め、最近では、米国ですら株主至上主義経営でいいのかと疑問を呈する声が高まっています。
2020年1月に開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でも、資本主義の再定義がテーマになり、株主だけでなく、従業員、社会、地球環境などさまざまなステークホルダー(利害関係者)に配慮する「ステークホルダー資本主義」を重視すべきだとされました。
――「環境(E)、社会(S)、ステークホルダーと企業の関係(G)」を重視するESG投資も拡大しているようです。
河口 投資家の意識も変わりつつあります。数年前であれば、運用会社や機関投資家がESGの観点で投資をしようとしても「環境や社会課題は企業のコスト。ファンドマネジャーの理念や価値観で利益を犠牲にするな」などと言われたものです。ところが最近では「なぜESG投資をやらないのか」とまったく逆になってきています。ESGを評価することが収益向上につながるからです。ESG投資がデファクトスタンダードになっているのです。
企業においても、かつてはCSRなどはコストと考えているところが多かったのですが、今ではSDGsを戦略の1つと捉え、経営企業マターとして取り扱うところが増えています。
収益性と社会性を両立させることが重要
――投資家の運用方針の変化などに伴い、企業の取り組みも変わりつつあるということでしょうか。さらにSDGsを推進するために、どのような課題がありますか。
河口 日本の場合、残念ながら消費者の知識と意識がまだ低いと言わざるをえません。消費者がSDGsに配慮した商品を望んでいるとなれば企業も変わるはずです。最近ではエコバッグやマイボトルを持っている人も珍しくなく、フェアトレードやオーガニック製品も増えています。日本の消費者は変わるときには一気に変わりますから。
――逆に言えば、その潮流に備えておかないと企業の経営にインパクトを与えると。
河口 そのとおりです。ある日突然、消費者にそっぽを向かれることになります。とくに若者はそのあたりに敏感ですから、これからはSDGsに配慮してない企業は人材が確保できなくなるでしょう。
かつてのCSRのように、本業とは別に「これは社会的コスト」と切り分けるのではなく、自社の戦略の中でどうSDGsに取り組むかを経営者が率先して考えるべきです。その結果、安価なものを大量に生産する方式から、少量生産になるかもしれません。それでも、消費者に支持されれば単価を上げ、利益率を高めることもできるでしょう。
その点では、収益性と社会性とを融合した企業でなければ生き延びることはできないと言えますが、日本企業にはまだまだやれることも多いと思います。大いに期待しています。