渋谷再開発、多様な世代が過ごせる街に更新 板谷由夏さんも期待「未来の渋谷のまちづくり」
なぜ今渋谷は大人の街をキーワードに開発が進んでいるのか。「私にとって、東京といえば渋谷」と話し、青春時代の多くの時間を渋谷で過ごしたという女優の板谷由夏さんと、渋谷桜丘口エリアの再開発に留まらず、周辺の表参道や青山、恵比寿など、渋谷を補完するさまざまな文化を育む街を広域渋谷圏として、一体的な街づくりを進める東急不動産の執行役員で渋谷再開発に深く携わる鮫島泰洋さんが語り合った。
渋谷が元気を取り戻すカギは“多様性”
板谷 私が所属するアミューズが桜丘にあるのもあって、渋谷は本当にいくつもの思い出があります。私は1996年に福岡から上京してきたのですが、その頃の渋谷ってすごくとんがっていて。ファッションや音楽と、数多くの渋谷発のカルチャーがありましたよね。
鮫島 おっしゃるとおり、その当時の渋谷は情報の発信地。当時は東急グループでいえばSHIBUYA109や、旧セゾングループさんのパルコが中心となって若者の文化を発信していて、そこから渋谷=若者の街のイメージが定着しました。
ところが、バブルが弾けて、個性豊かなお店がどんどんなくなってしまい、同じようなお店が多くなってしまった。街が均一化してしまったことで感度の高い人たちが離れていってしまい、渋谷の元気がなくなってしまったように思います。
板谷 小さな映画館やライブハウスもなくなってしまいましたよね。
鮫島 そうですね。渋谷のよさって、いい意味でカオスなことなんですよね。ただ、渋谷はライフステージに合わせて楽しめる場所が減ってきており、また、地形が原因で高低差があるけれどバリアフリー化も進んでいないという課題もありました。若い頃を渋谷で過ごし、今子育て世代になっている人たちにとっては、子どもを連れてベビーカーで気軽に行きづらい場所になってしまったんです。本来、この街は老若男女はもちろん、日本人だけでなく外国の方など多種多様な人々を受け入れる器があると思うんです。
板谷 確かに、私たち40代の中には、街の変化で一度渋谷を離れてしまった人もいましたけど、最近の再開発で、また戻ってこられる街になっているように思います。
桜丘口エリアが目指す“懐かしさと新しさが融合した暮らしを楽しむ街”
鮫島 「戻ってきてもらえる街」は、今とても重視している点です。駅周辺は街の“更新”の観点で、大型施設の建設や、バリアフリーを意識した歩行者デッキなどを整備しています。
ただ、全部が全部そうしたらいいかというと、決してそうではないんです。渋谷には、センター街やスペイン坂、渋谷百軒店など、エリアによってさまざまな表情があります。これらの場所すべてに大型施設があるといいかというと、そうではないですよね。
また、渋谷は1駅離れたところにも原宿や恵比寿、代官山と、個性豊かな街がある。そうしたところに楽しみながら歩いて行けるというのも、大きな特徴です。渋谷の駅前を再開発で行き来しやすくすることで、周辺エリアにも安全かつ楽しみながら歩いて行きやすくなる。実際、明治通りなどは家族連れで歩く人も増えています。実は、7年前くらいにはそうした様子を見ることが少なかったように思います。街は、歩いて立ち止まってと、人の行き来でリズムが生まれその結果、いいお店やモノ・コトが生まれていくんです。
板谷 ほんと、渋谷は歩き回って楽しい街。私も渋谷から歩いて原宿や代官山に行ったりします。お話を伺っていて、六本木ヒルズができるときに、麻布十番の商店街とどう融合するか、が話題になっていたのを思い出しました。街として面白さがありますよね。
鮫島 まさに今進めている桜丘口の開発は、六本木同様に懐かしいものと新しいものが融合することを目指しています。高層の建物も建ちますが、歩行者デッキで建物同士をつなぐことで、ビルの中の店舗だけでなく、路面店としても楽しめるようにしたいと思っています。お店だけでなく、オフィスや住宅、保育園、憩いの広場などもつくり、そこでの暮らしを楽しめるように1つの街をつくっていくイメージですね。
板谷 保育園も! 私は、街は変化していくものだと思っているのですが、せっかく変化するなら、わくわくしたい。それが渋谷なら実現可能な気がします。懐かしさがありつつも、新しい出合いもある。
さまざまな年齢層の大人が楽しめる社交場「東急プラザ渋谷」
鮫島 再開発は、あくまで街の更新であって、壊してはいけないんです。今いる「渋谷フクラス」には、長年多くの人に愛されてきた東急プラザ渋谷(※1)が再び開業しました。
建物内にはかつての東急プラザの外壁の一部を再利用したり、東急プラザ渋谷のモチーフとして外壁に飾られていた「ムラサキツユクサ」という花のエンブレムを、柱のレリーフに生まれ変わらせて再活用したりしています。新しい施設であっても、ゼロからつくるのではなく、以前あったものの空気感が残ることを意識しました。
板谷 え! それは見ないと。そういえば、この前驚いたんですけど、「渋谷フクラス」に車をとめたら、他の商業施設で買い物した金額も合算してくれる(※2)駐車場サービスがあるんですね。主婦からすると、駐車時の買い物って「何時間で出ないと……」っていう気持ちになっちゃうんですよ(笑)。でも、合算してもらえるなら、あっちで買い物して、ここも見て……と楽しめる。家族で来たときに、とくにうれしいです。
鮫島 まさに、そうした楽しみ方をしてもらえるのはうれしいですね。駐車場サービスは渋谷ヒカリエなどと連携して渋谷の
東急プラザ渋谷内のテナントも、ほかの商業施設にはないお店を選んでいます。それは、先ほどの話にも通じますが、とにかく渋谷の街を歩いて楽しんでもらいたいからなんです。それぞれの商業施設に違うお店があれば、あちらこちらに足をのばしたくなりますよね。
新たに生まれ変わった東急プラザ渋谷は、以前の東急プラザ渋谷をご利用いただいていたお客さまを思い浮かべて計画をしていました。バスターミナルが目の前にあることもあり、バスをご利用になる世田谷などにお住まいの方で、少し年齢層が高めの方がお買い物にいらっしゃることが多かった。そうした方たちにまた来たいと思ってもらえるように、「食」「健康」「美」「趣味」「ライフプラン」をキーワードに、上質でこだわりのあるテナントや空間を意識しています。
その1つが、今お話ししている「CÉ LA VI(セラヴィ)」(※3)。これまでの渋谷は、大人の社交場と呼べる場所がなかったように思います。ここはクラブラウンジでありレストランでもあるので、おしゃれをして遊びに来てくれるお客さまが多くいらっしゃって。スクランブル交差点を見下ろすこともでき、夜景は圧巻です。
板谷 まさに“大人の社交場”ですね。
私は東急プラザ渋谷がオープンしたテープカットのときに、ほかのエリアは拝見したのですが、ここは今回が初めてで。入ったとき、「すごい!」って驚きました。夜の様子はまだ見ていないので、来るのが楽しみです。
今の若者もかつての若者も“渋谷らしさ”を楽しめる街へ
鮫島 街は、働く・暮らす・遊ぶ、の3つが近くにあることが大事なんです。
渋谷の最後のピースとして、先ほどもお話しした桜丘口エリアがあります。このエリアはもともとマンション含めた住宅も多くあったので、生活感がある。再開発後はファミリーも楽しめるエリアになっていく予定です。
板谷 私は今渋谷周辺を離れて暮らしていますが、若い頃、東横線や田園都市線沿いに住んでいた昔からの友人たちは、家族になっても、住まいのサイズを変えながら、変わらず沿線に住み続けている人が多いんです。
私のように年齢を重ねて環境が変わっても、多感なときに過ごした街って、いくつになっても好きなんですよね。ライフスタイルが変わっても遊びに来たいし、ここで過ごしたい。
そうした渋谷に、子どもたちと一緒に来やすくなるのは、すごくうれしいですよ。
鮫島 板谷さんのような子育て世代にも過ごしてもらいやすいよう、桜丘口エリアは噴水などのある広場を作り、子どもたちが遊びながら、大人も憩うことができる場をつくりたいと思っています。
渋谷はいい意味でカオスな街。かつての渋谷もよかったけれど、今の渋谷もいい。そう言ってもらえるように、エリアごとに、さまざまな人がさまざまな形で“渋谷らしさ”を楽しめる街にしていくことができたらと思っています。
板谷 かつての若者も戻ってきて楽しめる。今後の渋谷の変化に期待しています。
※1 「東急プラザ渋谷」は「渋谷フクラス」内の商業施設
※2 提携駐車場は、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、渋谷ヒカリエ
※3 シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズのルーフトップナイトクラブなどを世界各所で展開するエンターテインメントレストラン。日本初上陸。