「データ駆動型ビジネス」で進化するIT戦略 クラウドが企業にもたらす価値とは?
ヴイエムウェア講演
国内企業ユーザーのクラウド移行の現状とVMware Cloud
コンピューティング、クラウド、ネットワーク、セキュリティー、デジタルワークスペースなど多岐にわたる分野でソフトウェア製品・サービスを提供するヴイエムウェアの神田靖史氏は、国内企業ユーザーのクラウド移行の現状や、同社のハイブリッド クラウドとネイティブ パブリック クラウドのアプリケーション ポートフォリオ全体を管理するVMware Cloudの特長、マイクロソフトとのパートナーシップについて話した。
まず、パブリッククラウドやプライベートクラウドなど企業におけるクラウド活用の現状を解説。サービスごとに異なるスキルセットや管理ツール、セキュリティー制御など一貫性のない運用管理により、サイロ化が進んでおり、「一貫性のあるインフラと運用管理の自動化を、どう進めるかが課題になる」と指摘した。その課題に対応するのが同社のハイブリッドクラウドプラットフォーム「VMware Cloud Foundation」(VCF)だ。
オンプレミス環境でVMwareソリューションを利用する国内企業ユーザーは多い。VCFをベースとするクラウドサービス「VMware Cloud」を利用することにより、コストや期間を圧縮しながらクラウド環境へ移行できる。そして、VMwareはさまざまな特長と専門知識を持つ世界中のクラウドサービス事業者と連携したエコシステムを提供しており、国内ではそのクラウドサービス事業者数は約160社にのぼる。中でも注目されているのが、マイクロソフトの新サービス「Azure VMware Solutions」(以下、AVS)だ。
ユーザー専有型のVMware Cloud FoundationをMicrosoft Azure(以下、Azure)に拡張。「ポータルを介してAzureとのシームレスなサービス連携が可能になる」と新サービスの意義を話す。そして、オンプレミスのvSphere環境をクラウド環境に移行する際のソリューションとなる「VMware HCX」を紹介。オンプレミスとクラウド間のマイグレーションやデータセンター間をつなぐL2延伸、インフラストラクチャのハイブリッド化の促進といったHCXの特長を説明した。AVSについて「オンプレミスでVMware環境を運用し、クラウドはAzureを利用したいという企業は多く、AVSへの関心は高い。ネットワークを含め、両社のパートナーシップを強化していく」と述べた。
日本マイクロソフト講演
Azure VMware Solutionsで訴求するクラウドの価値とは?
少子高齢化による市場の縮小、生産性向上に貢献する新テクノロジーの導入など、日本企業を取り巻く環境が大きく変化する中、日本マイクロソフトの佐藤壮一氏は「情報システム部門は柔軟性、迅速性、継続性を備えたITインフラを全体最適化するモダナイゼーションが必要になる」と指摘。まず、現状のITインフラのアセスメントを行い、最新環境への移行モデルを作ることがポイントになるという。
マイクロソフト自身がITインフラをAzureに移行した経験を踏まえ、クラウド化で既存ITインフラを棚卸する機会になることや、Webアプリケーションなど比較的容易に移行できるものから着手することなどを助言した。そして、汎用ワークロード、仮想マシンをクラウドへ移行する利点として、世界のどこでも必要なサービスを使え、いつでもサービスの開始・停止が行えるスケーラビリティを挙げる。
Azureは世界で50以上のリージョンがあり、、グローバルスケールのデータセンターインフラを柔軟性高く利用できるというメリットだけでなく、その裏側にある Azure のバックボーンを活用するという視点も今後のITインフラの全体最適においては必要な発想になるだろう。クラウドへ移行する際、「Azure IaaSとAVSのどちらを選べばいいのかと質問されることが多いが、実際には両方を選択することが正解であることも多い」と強調する。新しい仮想マシンはIaaSで稼働する一方、既存オンプレミスで稼働し、保守切れや改修の難しいワークロードを迅速にクラウドに移行したいという要件においてはAVSに移行すると いうように、「現状のITインフラをしっかり把握、棚卸し、企業競争力を高めるためITインフラを全体最適化する。AzureのポートフォリオにAVSの選択肢が加わり、企業のIT戦略の幅が広がる」と話した。
マイクロソフトコーポレーション講演
Azure VMware Solutions最新情報
マイクロソフトコーポレーションの前島鷹賢氏は、クラウドサービスの選択肢の1つとして期待が高まるAVSの特長を説明。AVSは、VMwareプライベートクラウド環境をAzure内のサービスとして提供する。高い互換性により、既存オンプレミス環境からほとんど変更を加えることなく拡張や移行が可能だ。他方、Azure VMware Solutions はマイクロソフトが開発・提供するソリューションであることから、Azure 上の他のサービスとの統合や連携性も高く、AVS 上で稼働するシステムを補佐する周辺システムをPaaSを利用したクラウドネイティブなサービスとして開発することも容易になると説明する。
AVSのユースケースとして最も多いのが、データセンターで構築・運用してきたオンプレミスのVMware環境から、AVSのプライベートクラウド基盤に移行するケースだ。「全面的に移行するのではなく、システムのピーク時のみAVSを併用するといったハイブリッド化により、システムの負荷を軽減するといった使い方も可能」と説明する。また、災害対策としてメインのITインフラは既存のデータセンターを使い、サブにAVSを使うことで運用コストを抑えながら、万一の際の災害対策、事業継続が行うことができる。
そして、アプリケーションのモダナイゼーションにAVSを利用する方法もある。AzureはITインフラのモニタリングやセキュリティー、バックアップなどさまざまなPaaSを用意しており、オンプレミスでは手間のかかる運用管理の効率化が可能だ。
続けて、前島氏は「AVSならではの価値」を解説した。まず、日本リージョンのAVSからバックボーンネットワークを介して、世界各地のAzureにアクセスできる「グローバル展開」が特長の1つ。2つ目の特長は、既存のVMwareプライベートクラウド環境との高い「互換性」である。VMwareの運用機能はもちろん、VMwareエコシステムで提供されるツールやネットワーク仮想化との互換性を持つ。さらにAVS が提供する特権アクセス機能により、「オンプレミス環境と同様にベアメタルのVMware ESXiを直接操作する ことができ、IT技術者が培ってきたスキルセットや、スクリプトなどの資産を有効活用できる」と前島氏は互換性のメリットを説明する。
3つ目の特長は「クラウド統合」だ。VMwareの運用機能とAzureの運用機能を統合し、AVSの仮想マシンのモニタリングやログ管理、セキュリティーなどの機能をポータル画面でクリック操作するだけで利用できる。さらにライセンス特典による「コスト削減」、VMwareのサポートを含めマイクロソフトを窓口とした「一貫性」のあるサポートについて説明。「Azure IaaSとAVSを適材適所に活用することで企業のクラウド活用の選択肢が増える」と強調した。
パネルディスカッション
エンタープライズクラウドの今後を展望
ヴイエムウェア・神田靖史氏とマイクロソフトコーポレーション・前島鷹賢氏などをパネラーに、「エンタープライズクラウド」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。モデレーターを務める日本マイクロソフト・佐藤壮一氏の「クラウドに対する企業ニーズは」との問いに対し、前島氏は「クラウド化でシステムの運用管理を楽にしたいというニーズが高い。だが、既存の運用管理ツールに比べるとクラウドは機能面で十分とは言えない。100点満点は難しいが、20点、30点でも効果が発揮されるように、企業のIT技術者と話し合いながら最善策を提示している」と述べた。
また、神田氏は企業のニーズの変化を指摘。「オンプレミスのシステムは償却期間の5年先を見通して設計する。一方、クラウドはHCXやAVSのように技術、サービスの進歩が目覚ましく、企業ニーズに応えられるよう絶えず進化させる必要がある」と話した。
続いて、佐藤氏は「企業ITの課題をクラウドですべて解決できるわけではない。全体最適に向けた今後のIT戦略をどうするかが重要になる」として、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドに向けた今後の展望と期待について問いかけた。前島氏は、さまざまなクラウドサービスが提供され、企業の選択肢を1つに絞ることはできない。ただ、クラウドサービスの特性に合わせて運用方法を変えていくのは現実的ではなく、「他社のハイブリッドクラウド、マルチクラウド環境でも同じコンセプトで運用できるような仕組みを提案していきたい」と語る。
神田氏は、ユーザー自身がマルチクラウドを管理する仕組みともに、「クラウド事業者向けにマルチクラウドのマネージドサービスを提供できる仕組みを準備している」と述べた。佐藤氏は「一貫性のある運用サービスが必要になる。日本でもAVSが提供され、企業のIT戦略、クラウド化を支援していく」と言い、パネルディスカッションを締めくくった。
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