仕事に潜む「プレッシャー」を乗り越えるには 気鋭の経営学者はこう考える!

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気鋭の経営学者、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏
ビジネスは、ストレスやプレッシャーと無縁ではいられない。しかし、それらにとらわれすぎてしまうと、自分を見失ってしまうことになる。では、どのように対処すればいいのだろう。助言を求めたのは、世界の経営学に精通する気鋭の学者であり、ビジネスのトップランナーを知る入山章栄氏。現代を生き抜くビジネスパーソンが、ストレスやプレッシャーとどう向き合えばよいのか聞いた。

やりたくない仕事がストレスの種になる

――入山先生が仕事でストレスやプレッシャーを感じるのは、どのような場面でしょうか?

入山 実のところ、ストレスやプレッシャーを感じる場面がほとんどありません。なぜかというと、基本的に好きなことしかやっていないから。遊びと仕事の境界線がない生活を送っているんですよね。

私ストレスをあまり感じないんですけど…大丈夫ですか?と苦笑いの入山先生。下記はプロフィール
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 19年から現職。近著に経営理論の解説書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

――それは、うらやましい限りです!

入山 ただ、ストレスやプレッシャーって、ネガティブに捉えられがちですが、そうとも限らないと思うんです。ポジティブなストレスやプレッシャーとして挙げられるのは、「自分を成長させる『知の探索』の過程において発生するもの」。平たく言うと、新しくてワクワクすることを経験するときに緊張するといったタイプのストレスやプレッシャーです。

ちなみに私はアメリカの大学院へ留学していたことがあるのですが、そこでは、膨大な論文を読んで難易度の高い試験を通過しなければならず、何人も途中で退学を余儀なくされるような過酷な環境でした。あまりに勉強が大変すぎてノイローゼになる人もいたほどです。もちろん私もプレッシャーを感じていたのですが、これは自分にとっては認知が広がる、やりたい方向のストレスだったので、苦になりませんでした。

しかし、問題なのはもう1つの「自分を成長させない『ルーチン』をこなしているときに発生するもの」。こちらは、多くの人にとってやりたくないことであり、それ故しんどさを伴うと思います。

「ルーチンだと思ってしまうと退屈ですよね」と入山先生

――つまりルーチンから逃れて、やりたいことをやれていれば、ネガティブなストレスやプレッシャーとは無縁の生活を送れるということでしょうか。

入山 基本はそうです。とはいえ、企業に属しているビジネスパーソンのほとんどは、上から降ってくる仕事をこなさなければならない場面も多いとあって、ルーチンを避けることは難しいはず。そこで重要なのは、そもそも自分が何をしたいのか、どんなことをしているとハッピーなのかを自分自身が理解することです。 しかし、日常がルーチンで忙しくストレスにまみれてしまうと、自分が望んでいることがわからず、迷子になりがちです。

――そういう人はどうしたらいいのでしょう。

入山 まずは、いろいろな経験をすることです。といっても、いきなり旅に出なくてもいいんです。例えば、帰り道でいつもと1つ違う駅で降りて家に帰ってみるとか。あるいは、日ごろ読んでいる本となるべく違う本に目を通してみるのも1つ。私のオススメは書店に行って目を閉じて本棚の前を歩き、止まったところで手を伸ばし、最初に触れた本を最後まで読んでみることです(笑)。

人間というのはさまざまな経験を重ねて、「本当にやりたいこと」が見えてくるものです。そして、やりたいことが見つかったとしても、それは自分の中の漠然とした思い・感覚であることも多く、簡単に言語化できません。だからこそ、とりあえず何かやってみることが重要なのです。ちょっとでも自分に変化を起こしてみる、その行為を常態化させることが大切です。

今日はいつもと違う道から帰ってみようと思います

やりたいことが見つかれば、あとはできる限りそれに関わることをいろいろとやっていく。これがネガティブなストレスとプレッシャーの回避法として有効だと思います。

ビジネスシーンにおける自分の役割を意識する

――ただ、いくらやりたいことができたとしても、仕事に失敗はつきものです。そして、失敗はストレスやプレッシャーの引き金になりがちです。私たちは失敗とどう向き合えばいいでしょうか。

入山 失敗でストレスを感じるのではなく、「失敗は自分を成長させてくれるチャンス」と考えるべきです。でも、人間の脳の機能には「認知」と「感情」があります。いくら成長のチャンスだとわかっていても、「嫌だ」「つらい」といった気持ちが優位になってしまった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。それは「認知」が「感情」に支配されてしまうケースです。しかし、大きな成功を手にしている起業家や経営者で、失敗をしていない人はいません。それは、失敗によって自分が「認知」している世界が狭いことを知り、謙虚に知の探索を続け、失敗を糧に成功をたぐり寄せてきたからです。

一方、「感情」のコントロールはより難しいもの。それであれば、「失敗したときは好きなものを買ったり食べたりしてお祝いする」といったマイルールを作ればいいんです。そうすることで、マイナスな「感情」にうれしいというプラスの「感情」が上書きされます。私も失敗したら、その時だけは高級ワインを飲むことを習慣にしています(笑)。「失敗したら今日はケーキを食べられる!」とすれば、認知を広げつつ、感情とうまく付き合えるようになるはずです。

ワインが大好きな入山先生

――仕事内容もさることながら、ビジネスでは対人関係がうまくいかず、ストレスを抱えてしまう人も少なくありません。入山先生は、ビジネスシーンのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

入山 「コミュニケーションは他者がいて初めて成立する」という前提を意識し、自分の役割を踏まえて「その場の全員がハッピーになる方法」を考えます。とりわけ、コミュニケーションの関係性における自分の役割は重要視していますね。自分が話し役のときもあれば、つなぎ役のときも、聞き役のときもある。コミュニケーションはいわばチームプレーなので、自分だけがベストなパフォーマンスを披露しても意味がありません。チーム全体でどういう成果が出せるかを見据えて、自分の役割を全うすることが大切だと思っています。

――役割を理解しても、うまく立ち回れるかはまた別問題ですよね。

入山 そうですね。自分の意思を伝えることに注力するのではなく、その場にいる人の表情や反応に目を向けることが大切です。それを癖づけることで、自分の中に「他者視点」が生まれ、相手の立場になってコミュニケーションが取れるようになるはずです。いずれにしても、さまざまなコミュニケーションの場に身を置く経験が必要ではないでしょうか。

――ビジネスシーンにおいては言語コミュニケーションだけではなく、非言語コミュニケーションも大切であるといわれています。

入山 そのとおりです。経営者はもとよりビジネスの最前線で活躍するビジネスパーソンは、当然のように見た目に気を使っています。とくにこれからの時代はテレワークの浸透により、非対面の機会が増えることが予想されます。逆にいえば、一度きりかもしれない直接対面での印象が、相手により深く刻まれるようになってくる。そこで気をつけるべきは五感の存在です。ビジネスシーンでは、とりわけ視覚・聴覚・嗅覚が重要で、そこで相手を判断しているはずです。

視覚・聴覚・嗅覚…!

――中でもニオイは、自分ではわからないためケアが難しいところです。最近ではビジネスパーソンが気をつけるべきニオイとして「ストレス臭」というものがあると聞きました。

入山 えっ、ストレスを感じたら出るものなんですか? 私はもちろんですが、確かに周囲でもニオイを気にする人が増えています。ビジネスパーソンならもちろん、ニオイや清潔感を含めて自分がどう見られているか、不快なノイズになっていないかを気にすることも、コミュニケーションの役割を全うするためには非常に重要であると思います。

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