「働き方改革」現場をシラけさせない意外な方法 「削減」を目的にしていると見失う価値とは?

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縮小

働き方改革を行うことで、生産性の向上を図る動きが強まっている。一方で「働き方改革=労働時間削減」、と杓子定規に捉えてしまい、残業時間削減に取り組む企業が見られるのも事実である。目先の効率性を追い求め、残業時間短縮にこだわるあまりに重要なリソースを削ってしまうと、長期的には縮小均衡を招きかねない。生産性を高めつつ、持続的に成長していくためにはどうすればいいのか。エプソン販売のユニークな取り組みを紹介する。

働き方改革は、どの企業にとっても喫緊の課題だ。新宿に本社を置くエプソン販売も、働き方改革を推進している点においては例外ではない。だが、同社では残業時間削減やワークライフバランス促進という一般的な取り組みに加え、あるユニークな施策が社内でちょっとしたブームになっているという。

手書きで「いいね!」を送り合うサンクスカード

「PaperLab」で再生した紙を使った「ミライイネ! カード」

エプソン販売では人事部主導の働き方改革のほかに、若手を中心とした組織横断型の働き方改革プロジェクトがある。そのチームが打ち出したのが、「働くを楽しむ」というテーマだ。そのテーマに沿った具体的な取り組みの1つとして、社員間で感謝や賞賛の思いをカードで送り合う「ミライイネ!」という活動が誕生した。この働き方改革プロジェクトのリーダーであり、エプソン販売東日本量販営業部・関東量販営業二課の田之口智美氏は、次のように説明する。

エプソン販売
東日本量販営業部
関東量販営業二課
田之口 智美

「これは社員同士が、いつでも好きなときに、上司や部下、同僚など誰にでもいいので手書きで感謝の気持ちを書いて渡すというサンクスカードの一種です。2019年9月頃から段階的に開始し、現在では、社長も新入社員も同じカードが手元にあり、全社員が参加できる状態になっています。対象が限られてしまう社内表彰制度ではなく、褒めるのも全社員、褒められるのも全社員という誰もが気軽に取り組めるところが肝です」

エプソン販売人事部課長の青木晋平氏は、人事の立場から、このプロジェクトがいかに働き方改革の本質にアプローチするものであるかを語る。

エプソン販売
経営推進本部 人事部 課長
青木 晋平

「働き方改革って上司に早く帰れと言われるイメージが強いですよね。全然ワクワクしないから現場も盛り上がらない。労働時間を短縮したり、在宅勤務制度を拡充したりというのは、あくまで手段であって目的ではありません。私たちは何のために改革しているのだろう? ワークライフバランスのワークが充実するってどんな状態だろう? と現場の若手社員が悩み考えた結果、『誰かの役に立っている』という貢献感を持てることが重要だという結論に至りました。実際、導入後に職場でワイワイ言いながらカードのやりとりをしている光景を見て『これだ!』と確信しました」

成果をもたらした再生紙の利用

このプロジェクトを支え、働き方改革の推進にも大きく貢献しているのが、同社が展開する「環境配慮型オフィスプロジェクト」である。先に紹介したサンクスカードのような取り組み自体は珍しくなく、システムを使ってポイントやギフトを送り合うサービスもある。しかし、同社ではあえて、一手間かけて紙のカードに手で書くということを選択した。「この取り組みは、環境配慮型オフィスだからこそ実現できた」と、青木氏は分析する。カラフルでさまざまな模様があるこのカードは、実は、同社の製造する乾式オフィス製紙機「PaperLab」で再生した紙を使用している。

エプソン販売
経営推進本部 総務部 部長
関口 佳孝

「新品の紙なら、『もったいない』という心理が働いてブレーキがかかってしまう。しかし再生紙なら、社員は遠慮なく積極的にカードを書けるのです」(青木氏)

セイコーエプソングループとして取り組んでいる「環境配慮型オフィス」は、まさに、同社のプリンター事業を持続的なものにするための両輪を成すものだ。1980年代に日本で初めてフロン全廃を打ち出すなど、同グループは以前から環境問題には熱心に取り組んできた。環境配慮型オフィスも、その延長線上にある。総務部部長の関口佳孝氏は、その経緯をこう明かす。

「例えば、印刷ひとつとっても、環境への負荷や印刷コストといったマイナスの部分にばかり注目してしまうと、印刷を手段として何ができるのかというプラスの部分が見えにくくなってしまいます。私たちはプリンターでビジネスをしている企業として、紙をリサイクルして、ずっと使っていくことで、そのハードルを払拭したうえで、プラスの部分を実現していきたいと考えました。それがこの取り組みのきっかけです」

社員の意識も向上、そして新しい企業価値創造へ

JR新宿ミライナタワー29階の本社では、「環境配慮型オフィス」の展示を行なっている

環境配慮型オフィスの大きな目玉が、先ほどの「ミライイネ! カード」にも使われていた再生紙を製造する乾式オフィス製紙機「PaperLab」の導入だ。これは一度使用した紙を、大量の水を使わずに再生紙にする。同社は2019年7月に2台目を設置して、オフィス内に「環境配慮型オフィスセンター」を開設。これまで使用済みの紙は外部の業者に処理を依頼していたが、社内で回収から再生、そして再利用のサイクルを回せるようになった。総務部の望月美奈子氏は、導入後の社員の意識の変化に驚いたという。

エプソン販売
経営推進本部 総務部
望月 美奈子

「再生するには、まず使用した紙の回収が必要です。業者に頼む場合はホチキスがついていても問題ありませんが、自社での再生はそのままではダメ。そういった手間もあって、最初は面倒だという声もあったんです。でも、自分たちで手をかけて回収するうちに、『このオフィスは環境にいい』と自信を持って言えるようになりました。今では胸を張って当センターをお客様に案内する社員も増えてきました」

センターでは導入後1年で130万枚の再生を目標にしている。半年の段階で約70万枚が再生され、進捗率は上々。約70万枚で、木材換算43本、水換算749万本(ペットボトル500ml)、CO2換算2.0tの環境効果があるという。

環境配慮型オフィスの具体的な取り組みのもう1つは、レーザー式からインクジェット式へのプリンターの置き換えだ。レーザー式は、吐き出された紙が熱を持つことからもわかるように、印刷の電力消費量が大きい。それと比較してインクジェット式の電力消費量は圧倒的に少ない。そのため、新宿ミライナタワーにある本社オフィスはすべてインクジェット式になった。

同社のインクジェット式製品による消費電力量効果は、レーザー式を使い続けた場合と比べて、累計で約11万kWhに達している。東京タワーの照明3.5カ月分に相当するというから驚きだ。ただ、環境負荷が少ないだけでは、真の生産性向上とは言いづらい。関口氏は、インクジェット式の実力をこう明かす。

「インクジェット式は印刷スピードが速いだけでなく、その機構上、部品が少なくメンテナンスが簡単。インクの交換頻度もレーザー式に比べて少なく済みます。業務効率性が高まると同時にゴミの量も減る。まさに効率性と持続性の両方を満たす取り組みです」

SDGsや働き方改革に関して、目先の削減目標だけを追い求めてしまい、「何のために」やるべきかを見失っている企業も多いのではないだろうか? エプソン販売では、働き方改革を推進しながら、持続性の高い職場環境を実現することで、高い生産性やイノベーションにつながる仕組みを生み出している。大切なのは、効率化の先に新たな価値を創造することだということを常に留意しておきたい。

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新宿の本社にある「環境配慮型オフィスセンター」では、エプソン新宿オフィスで実践する環境負荷低減と紙資源循環の活動現場の見学が可能。詳しくはこちら

※記事の内容・肩書などは、2020年2月25日現在のものです。

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