「企業変革」におけるマネジメントの最新潮流 チェンジマネジメントフォーラム2019

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テクノロジーが急速に進展を続け、グローバル化も加速している現代の事業環境の中で、企業は変革を迫られている。止まることもリスクだが、不確実性を増すVUCA(ブーカ)の時代の変革も、またリスクを負わざるをえない。東京・港区で開かれた「チェンジマネジメントフォーラム2019」には、多くの経営者・経営幹部らが参加。企業変革のリスクを適切にマネジメントするための手法や、社員の共感を引き出し、変革を実現していくリーダーシップのあり方について考察した。

主催:東洋経済新報社
特別協賛:インテグラート、マネジメントソリューションズ

オープニングスピーチ

事業投資業務システム、コンサルティング、研修を通じて、事業価値評価と事業リスクマネジメントを支援するインテグラートの小川康氏は「不確実な世の中の不明瞭な課題は、従来のマネジメントの仕組みでは解決できない」という認識を提示。こうした新たな状況に対応するためには、リスクを取って変革を続けていく必要があるとして「リスクマネジメントの仕組みを取り入れ、変革を推進するリーダーシップが求められる」と訴えた。

特別講演I
チェンジマネジメント
― 自ら挑戦し、切り拓く、リーダーに求められる変化への感度

コニカミノルタ
取締役会議長
松﨑 正年氏

コニカミノルタの松﨑正年氏は、社長を務めた2009年から5年間に取り組んだ「持続的に成長できる会社」への変革について話した。デジタルカメラの普及で、06年に創業事業である写真フィルム・カメラ事業からの撤退を余儀なくされた経験から「トップは、事業周辺の変化への感度を高め、変化の意味を考えなければならない」と述べ、複合機中心のオフィスサービスをITサービスと結合したソリューション提供ビジネスに転換するなどの事業変革を進めた。実現には「トップの問題意識、成長のストーリーを社員に説明することが大事」と強調。変革リソース獲得のため、外部人材採用のほか、10年以降84件のM&Aを実施した。また、継続的イノベーションを起こす“型”として、イノベーションプロセスを策定。プロセスを実践する場として、新R&D棟への投資や、世界5カ所にビジネス・イノベーション・センター(BIC)設置を進めた。M&Aは比較的小規模な会社を中心に、BICも大きな構えにしなかった。松﨑氏は「変革にはリスクを取ることが必要。だが、想定どおりにいかなくても、会社を揺るがさないよう、リスク管理することが大切」と語った。

チェンジマネジメント 課題解決と実践
なぜ、日本企業はカイゼンができて、変革ができないのか?

マネジメントソリューションズ
マネジメントコンサルティング
事業部長
和田 智之氏

ITプロジェクトや新規事業のプロジェクトマネジメントを手がけるマネジメントソリューションズの和田智之氏は、日本企業が変革できないのは、戦略自体の問題ではなく「不確実な時代に合った戦略実行のマネジメントができていないから」と語った。目標に向けてぶれずに進むことを強みにする日本企業は、撤退すべき時に、テコ入れをしてしまい、損失拡大を招くなど、変化への柔軟性を欠きがち。また、マネジャーらに過剰な負荷をかけてクリエーティビティーの発揮を妨げていると課題を指摘した。そこで、成功するとは限らないことを前提とし、人のパフォーマンスを引き出すことに着目したマネジメントシステムを提案。そのポイントとして、従来の長期一括の意思決定をやめ、変化に合わせ再評価しながら進む段階的意思決定を推奨。マネジャーの内的動機を引き出し、チャレンジできる環境の整備を求めた。欧米では、成果を報酬に直結させる成果主義がモチベーションを下げるとして、廃止の動きがあることにも言及。「制度・ルールを柔軟に運用して、会社全体で新しい価値を生み出せるよう、組織と個人を誘導するマネジメントが求められる」と訴えた。

チェンジマネジメント 計画とリスク予測
過去を見るのではなく、未来を見続ける組織への変革

インテグラート
代表取締役社長
小川 康氏

インテグラートの小川康氏は、新規事業投資やM&Aのリスク評価の仕組みとして、国内でも実績がある「仮説指向計画法(Discovery -Driven Planning:DDP)」を説明した。不確実な時代の事業計画は、ビジョンなどを説明できても売上利益予測の根拠は不明瞭になることが多い。意思決定後も、事業チーム任せで、失敗しそうになっても軌道修正が遅れてしまう、といった課題がある。仮説指向計画法では「仮説」を「ゴール達成の必要条件」と定義する。そして、「事業は、仮説が外れると失敗する」と説明する。数値算出の根拠となった仮説の管理者を置き「仮説はまだ生きているのか」を事業部門に問い続ける。外れが察知されれば、仮説を改善し、致命的失敗に陥る前に軌道修正―という手順を繰り返すことで、より高い成果を目指す。「うまくいかなければ、早く別の方向に進めるので、リスクを取った事業の管理に効果がある」と話す。同社は、このDDPのポイントになる、コミュニケーションの促進、仮説管理・修正の継続、成功・失敗からの組織的学習を支援する経営管理システム「DeRISK」を提供している。「コンサルティングや研修も行い、経営目標達成のために伴走します」と呼びかけた。

特別講演II
「優れたリーダーはみな小心者である」
~変化を起こし、変革をリードする組織への進化とリーダーの役割~

ブリヂストン
元社長/CEO
荒川 詔四氏

元ブリヂストン社長の荒川詔四氏は、リーダーのあり方について語った。荒川氏は入社2年目にタイ工場に赴任。労働者がなかなか出勤しないといった労務の問題の解決に奔走する中で「自分で考え、仲間の賛同を得て行動することを学んだことが、会社人生のスタートになった」と振り返った。1988年のファイアストン買収では、当時の家入昭社長の秘書として実務を担当。赤字企業の高額買収には批判もあったが、長年、業界ポジションなど同社の「理想形」を考え続け、タイヤ業界が不況に陥った「変化点」を捉え、この買収で組織文化を変え、理想形を実現しようという決断をした家入社長のリーダーシップを間近で見た。こうした経験から、リーダーの役割は「理想形」を描くこと、仕事を面白くすることにあり、共に仕事をしたいと思われることが大事と強調。目指す未来を起点に、今、何をすべきかを考えるバックキャスティングで物事を考え、理想を語ってメンバーの共感を得て、目標を達成することが大切とした。また、心配するから思考が深まり、大きな決断ができるとして「真の小心者が最強のリーダー」と主張。「優れたリーダーに必要なのは豪胆さではない。繊細な神経を束ねた者こそが強靱なリーダーになる」と語った。

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