「書類を取りに出社」の無駄がなくならない理由

今や8割の仕事はテレワークでも問題なし

働き方改革関連法が施行され、2020年春にはいよいよ残業時間の上限規制が中小企業にも適用される。これまでのように、労働集約型のビジネスモデルに頼っていては中小企業は生き残れない。人手不足や生産性の向上など慢性的に抱えている課題に本腰を入れて向き合わなければならなくなってきた。

日本の会社の9割以上が中小企業といわれている。そして2020年春、いよいよ中小企業にも、働き方改革関連法による残業時間の上限規制が適用される。違反した場合、企業は罰則を受ける必要がある。

しかし人手不足や資金不足といった慢性的な課題を抱える中小企業にとっては、単純に労働時間を短くするというのは決して簡単ではない。それには生産効率を上げ、労働集約型の働き方を改善することが不可欠となってくる。

(※)出典:平成26年企業活動基本調査より

では、どうすれば生産性を上げられるのか。有力な選択肢の1つとなるのが、設備投資だ。図のとおり、中小企業の中にも、生産性の高い“稼げる企業”は存在する。そしてこうした企業に共通するのが、成長投資に積極的に取り組んでいることだ。もちろん業績が上がっているから設備投資を行えるという面もあるのだろうが、いずれにせよ、生産性と設備投資は密接に関係していることがわかる。

コンセプトがあれば、少資金でも改革が可能

とはいえ、むやみに設備投資すればいいというわけでは決してない。とくに資金が限られる中小企業としては、効果が確実に上がる部分に的を絞って投資したいところだ。そこで中小企業でも可能な費用対効果の高い設備投資法を、オフィス環境の改善と生産性の関係に詳しい経営学者・関西学院大学総合政策学部教授の古川靖洋氏に聞いた。

関西学院大学 総合政策学部 教授 学部長
古川 靖洋(ふるかわ やすひろ)氏 

まず、設備投資をするうえでの大前提となるのが、「コンセプトがあること」だ。

「確かに設備投資は、生産性向上の起爆剤となり得ます。でも、やれば必ず生産性が上がるというものでは決してありません。重要なのは、会社としてこの部分を伸ばしたいというコンセプトがまずあり、それを実現するための設備投資であることです」

例えば、社外の人と積極的に関わることで新しい価値を生んでいきたいというコンセプトがまずある。それなら、社外でも作業できる環境を整備するべきだ。だからノートPCに関する便利で強固なセキュリティシステムを導入しよう。目指すべきは、そんな手順だ。これなら優先事項も明確になり、限られた資金であっても的を絞った集中投資が可能になる。

そんな前提のうえで、古川氏が「ここに投資すれば、まず効果が出る」と言うのが、パソコン、タブレット、スマホといった情報関連機器だ。今や仕事中の大部分の時間がこれらの機器とともにある。それだけに、その性能の良しあしは仕事効率にダイレクトに反映される。

「情報関連機器への投資により、社内外での有用な情報交換が大きく促進されるというデータも出ています。スペックの高い機器には、働くモチベーションを上げる効果もあります」(古川氏)

近年は最新でも安価で買えるパソコンは少なくない。また機動性の高いタブレット1つで、かなりいろいろなことができる。ただしこれらの機器に関して、注意しなくてはいけない点が1つあるという。

「機器のグレードやバージョンを、ある程度高めておくことが大切です。社員が個人で使う機器より機能がガクッと劣っていては、仕事効率はとても上がりません」(古川氏)

今や7~8割の仕事はテレワークにできる

そして中小企業にとってもう1つの大きな選択肢となるのが「テレワーク」だ。

「テレワークであれば社員の通勤の負担が減り、場所の制約を受けずに働けるので、1日24時間をとても有効に使えます。子育てや介護と組み合わせて働くこともできるので、離職率の低下や新たな人員の確保にも直結します」(古川氏)

テレワークは助成金をはじめ、さまざまな国の支援制度が充実しており、それも中小企業の導入を大きく後押ししてくれる。導入に当たってはこれまで、出退勤管理やセキュリティの整備がネックとされてきたが、そこもハードルはかなり下がっているという。

「パソコンやスマホの顔認証機能の普及で、今や出退勤管理の技術的ハードルはだいぶ低くなっています。社内データのセキュリティに関しても、データをクラウドで管理していれば、デバイスにデータを落とし込んでの情報漏洩リスクはあまり高くありません。もちろん会社でしかできない類の仕事もありますが、感覚的には今や7~8割の仕事はテレワークが可能でしょう」(古川氏)

加えて、もう1つ有効な選択肢がある。オフィスに固定の席を設けず、働く場所を社内で自由に選択できる「フリーアドレス」だ。フリーアドレスのメリットの大きな1つが、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすいことだという。

「社員間のコミュニケーションが活発化されるのはもちろん、あまり関わったことのない人とも関わるようになり、今までになかった相乗効果が生まれやすいんです。とくに5人くらいまでの少人数でフランクに打ち合わせできるスペースを多めに設けると、創造的な発想が生まれやすくなるでしょう」(古川氏)

フリーアドレスを導入する際は、資料を広げられるような少し広めの作業場を用意する、個で集中できるボックス型シートを設けるといった工夫をすることで、フリーアドレスが抱える弱点もカバーできるという。スペースを有効活用するためにも、設備の見直しが必要だ。コピーやプリント、スキャンといったビジネスに欠かせない機能を1台で担うコンパクトなプリンターを導入することも、環境を整える一歩となるだろう。

“紙のデータ化”が全体の効率化を底上げ

そしてテレワークにしてもフリーアドレスにしても、重要なポイントとなるのが、紙の削減だ。紙への依存を大幅に減らさないと、テレワークもフリーアドレスも物理的にやりづらく、紛失などのセキュリティリスクも高まる。「あの書類が会社のデスクにあるために、本来は行く必要がないのに出社せざるをえない……」といった非効率な事態も往々にして発生しやすい。

紙への依存をなくすには、個人ではなく会社全体のプロジェクトとして取り組むことがキモになる。

「社内の紙文書は基本はスキャンしてデータ化しておくのがいいでしょう。表計算やプレゼンテーションソフトなどで作った会議資料は、事前に参加者にデータで送っておき、『当日、紙では配りません』と伝えておく。そうすれば紙をコピーして配るという手間も省けるし、全員がいつでもどこでも簡単に共有できます。

資料がデータ化されれば、テレワーク先からビデオ通話で会議に参加することも容易になります。紙でしかない会社の重要資料なども、スキャニングしてデータ化しておくのがいいでしょう」(古川氏)

今や、サイズの異なる紙の束であっても自動でまとめて読み込んでくれる高機能スキャナーが、それほど高くない価格で買える。今後、スキャナーによる文字認識技術も進み、データ化することの優位性はますます高まるだろう。また、自宅やシェアオフィスなど、さまざまな環境が仕事場となりうる中、小型化かつ軽量のモバイルスキャナーのような置き場所の確保に困らない製品を活用するのも一手だ。

自社の本質的な価値を見極め、それを高めるための設備投資に力を注げば、少資金であっても生産性の向上は十分に果たせる。まずは、そうした見極め=コンセプト作りから始めてみてはいかがだろう。

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