経営をつなぐ、人・組織・風土づくり 経営者フォーラム2019

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経営者の高齢化による中小企業の休廃業が増える中、後継者不在に悩む企業の事業承継策として、また、事業成長を加速したい企業の経営戦略として、事業承継M&Aへの注目が高まっている。「経営者として大切にしたいこと、次世代に残したい想い 経営をつなぐ、人づくり・組織づくり・風土づくり」をテーマに、名古屋、大阪、福岡、東京の4会場で開催された「経営者フォーラム2019」には、2019年も多くの経営者らが参加。大切に育ててきた会社に対するオーナー経営者の思いを次世代に残すために考えるべきこと、その思いを受け継ぐことになる譲受企業がやるべきことについて考えた。

主催:東洋経済新報社
協賛:M&Aキャピタルパートナーズ

特別講演(名古屋/東京会場)
ヤオコーが元気な理由(わけ)

ヤオコー
代表取締役会長
川野 幸夫氏

食品スーパー、ヤオコーの川野幸夫氏は、30期連続増収増益の原動力になっている「志の高い企業哲学」と「明確な商いのコンセプト」について話した。消費者が求めるものを届けるには、生産側ではなく、消費者に最も近い小売業がサプライチェーンをコントロールする必要があるという流通革命の考え方に基づいて、「小売業は、国民の幸せのために大切な役割を担っている」と強調。目指すべきスーパーマーケット像については、生活が高度化・多様化した今、昔の「何でもある店」だけでは支持を得られないと指摘した。そのうえで、コモディティーを安く売る価格訴求型、好みに応じたライフスタイル商品を取りそろえる価値訴求型の2つの小売業のモデルを提示。後者を選択した同社は「豊かで楽しい食生活提案型」スーパーを目指すとした。また、地域によって異なる顧客ニーズに応えるため、各店の従業員が主体的に考える「個店経営」を推進。これにより、取り組みに対する客の反応が見える小売業の醍醐味、従業員のやりがいを引き出して「『日本一元気なスーパーマーケット企業』を支える力になっている」と語った。

特別講演(大阪/福岡会場)
私が社長です。

アパホテル
取締役社長
元谷 芙美子氏

アパホテルの元谷芙美子氏は、1994年の社長就任以来、北陸地方に数ホテルしかなかったホテル事業を、570ホテルまでネットワークを広げた25年間を振り返って、経営に対する考えを語った。アパグループは、71年に夫の元谷外志雄代表が設立。注文住宅からスタートして、不動産やホテル事業に進出した。ホテル会社社長になった芙美子氏は「やるからには世界一のホテルチェーンの社長になる」と宣言。「できるわけないと言われても、やりきる覚悟と自信で社長をしてきた」と語った。ゼロから出発したアパグループは当初から、実需を生み雇用を守ること、利益を出して納税義務を果たして、社会の信頼を得ることを重視してきた。また、自由な意思決定で経営をするために非上場を貫いており、「経営者は、自分が納得できる経営人生を送ることが大事だと思う」と訴えた。経営については「家庭教師」の夫の教えも得てきたが、「営業はトップの気概を持ってやってきた。広告塔の役割を引き受けてきたのも、その思いから」として「情熱をほとばしらせて戦った末にしか、達成感は得られない」と、会場の経営者らの奮起を促した。

課題解決講演
事業拡大・事業承継のためのM&A活用法

M&Aキャピタルパートナーズ
代表取締役社長
中村 悟氏

M&Aキャピタルパートナーズの中村悟氏は「夢や目標に向かって会社を成長させ、自分の体力・寿命を超えて会社を残したい」という経営者に共通する願いに言及。とくに、会社を残すためには「次世代に禍根を残さないためにも、将来の資本構成を決めておくことが大切」と強調した。後継者となる子どもがいない場合、経営幹部に引き継いでもらうにも、株式買い取り資金の調達や、個人保証の引き継ぎがネックになる。上場の際に社長が大きく株式を売り出すことは難しく、「承継」や「引退」には向かない。そこで「M&Aが大きな役割を果たせる場合もあることを知ってほしい」と述べ、高齢のオーナーが、将来の経営への不安から上場企業に株式売却した地盤調査会社の例などを紹介した。事業承継M&Aは、会社を残したい売り手の思いをかなえるだけでなく、会社を伸ばしたい買い手にとっても目標への近道だが、普及は進んでいない。費用のハードルがあると考える同社は、基本合意まで費用がかからず、成功報酬も、負債は計算に入れず、取引する株価のみから算定して、一般的なM&A仲介会社に比べて価格を抑えた独自の報酬体系を採用。「負担感を抑えて、裾野を広げたい」と語った。

経営者対談

ウィズリンク
会長
江口 歳春氏
M&Aキャピタルパートナーズ
池ヶ谷 博章氏
進行:エーアイプロダクション
伊藤 秋廣氏

国内外にラーメン店など90店舗をフランチャイズ方式で展開するウィズリンクの江口歳春氏が、19年春にM&Aで株式譲渡した体験を、担当のM&Aキャピタルパートナーズ、池ヶ谷博章氏と語り合った。江口氏は、55歳を迎えた約10年前から事業承継について検討。当初は、子どもに継がせることが最有力の選択肢だったが、海外展開を進める中、変化の激しい時代の経営は厳しく、重荷になるという思いから、M&Aに傾いた。池ヶ谷氏は、約1年かけて、事業理念への共感と、海外展開に理解のあることを重視した相手探しをして、最終的に吉野家ホールディングスへの譲渡が決まった。「M&Aは事業承継の選択肢の1つ。承継問題を満足いく形で解決できてよかった」と話す池ヶ谷氏に、江口氏は「時間がかかり焦りを感じたこともあったが、冷静に話を聞いて、じっくり進めるように助言してくれたことに感謝したい」と応じ、「いったん事業を整理できたことで、息子に継がせた後の心配もなくなり、今後の人生に気持ちよく進んでいける」と語った。進行役の伊藤秋廣氏は「守りたい思いを受け止めるパートナーの存在は大きかったと思う」とまとめた。

クロージング
M&A成功のポイント

M&Aキャピタルパートナーズの中村氏は、買い手企業に対して、「明確な将来像を持つことで、買収する企業は決まってくる」とアドバイス。交渉では、売り手企業に敬意を持って接し、揺れ動く相手の心情を理解して迅速に手続きを進めることを求めた。売り手側は、後継の子どもがいる、その子に意思と能力がある、継がせられる会社である、の3条件のうち、1つでも満たせなければ、M&Aも選択肢になると指摘。「買い手は、夢や目標に向けた成長機会を得られ、売り手のオーナーは創業利益、会社は永続性を手にして、全員が幸せになれる」と、M&Aの意義を訴えた。

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M&Aキャピタルパートナーズ