非効率な職場の「謎ルール」はなぜ生まれるか? 原因はサラリーマン社会のヒエラルキーかも

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「女性は職場でメガネ禁止」「上司より先に退社禁止」「忘年会・新年会の幹事は若手に」……。過去の慣習や情報収集不足からくる思い込みが、未だに不文律としてそのままになっており「謎ルール」化されている職場も少なくない。複数の会社で社外取締役や顧問を務める経営コンサルタントの小宮一慶氏も、これまで数々の「謎ルール」に出くわしたという。

「ある会社で、役職名で呼ぶのを止めて“さん付け”に変えようという話になりました。これは社内の風通しをよくするためのルール変更です。ところが、これに社長が反対。結局、『役員は役職名。部長以下は“さん付け”』という中途半端なルールになりました。これではまったく意味がありません」

なぜ、こうした「謎ルール」が生まれるのか。背景にあるのは、サラリーマン社会のヒエラルキーだと小宮氏は指摘する。

「ある銀行では『赤い判子を押していいのは役職者以上』というルールがあって、平社員は黒のインクを使わなければいけませんでした。役職者と色を分けるのは、おそらく身分の違いを明確にするためでしょう。同じように、上に立つ人間が自分の権威を強化したり、優越感に浸ったりするためにつくられたルールは多いのではないでしょうか」

取締役会にもムダなルールがいっぱい

偉そうにする程度なら、実害はまだ少ない。厄介なのは、「謎ルール」のせいで余計な仕事が増えて、かえって非効率になるケースだ。取締役会に出席することが多い小宮氏がムダだと感じているのは、会議にまつわる「謎ルール」だ。

「ある会社の取締役会は“お手盛りシャンシャン”の取締役会にしたいため、事前に各事業部の担当部長がひっきりなしに根回しにやってきました。そのたびに時間を取られて、こちらは仕事にならない。取締役会で思わず『こんなに根回しするなら、取締役会で議論する必要はないんじゃないですか』と言ってしまいました」

根回しのかわりに、会議資料をどっさり送りつけてくる会社もある。「私は講演や会議で移動が多いので、そもそも郵送などで資料を受け取ることが難しい。運よく受け取ることができても、100ページ以上もある大量の資料になると、とてもすべてに目を通せません。会議資料をつくる経営企画部の社員は大変なはずなのに、『これが私たちの仕事ですから』と疑問を持たずに資料をつくっている。誰も幸せにならないのに、誰も止めようとしないのです」。

誰もがムダだと感じているのに、続けている理由のひとつに「決断力を持ってルール作りができる経営人材がいない」ことを小宮氏は挙げる。

「結局、ムダを指摘する人がいないのは、経営を理解したうえで、何を削減してどこを残していいかがわかる人材がいないことの裏返しです。若手のうちから役員会に出席させるなどして、訓練させておけば育成できたものの、権威重視のあまりにそれもしようともしない」

上が変わらないと「謎ルール」はなくならない

では「謎ルール」を撲滅するには、いったいどうすればいいのだろうか。小宮氏は「上の人間が意識を変えないと変わらない」と指摘する。

経営コンサルタント
小宮 一慶 (こみや かずよし)
小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行う。著書に『「なれる最高の自分」になる方法』『ビジネスマンのための「習慣力」養成講座』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(PHP研究所)など

「本当はおかしなことはおかしいと誰もが言える職場が理想的です。しかし、部下がルールのおかしさを指摘すると、何か軋轢が生じてしまう。それがわかっているから部下は口をつぐまざるを得ません。『謎ルール』を見直すなら、まず上から提案すべきです。権威付けのための『謎ルール』が多い会社では、上の人間、とくに社長は自らを律してルールを見直す必要があります」

ルールを直接的に見直すだけでなく、楽しく働ける職場づくりをすることも間接的に役に立つ。例えば、忘年会や社員旅行は、職場に居心地の悪さを感じている人にとっては、苦痛でしかない行事だ。しかも、「経費削減」と圧力をかけていては、なおさら社員のエンゲージメントは下がるだろう。

「結局、いい店に連れていっても、かかる総額はたかが知れています。細かいところをケチるよりも思い切って、記憶に残るようないい体験をさせたほうが会社を好きになり、結果、業務効率も自然と上がります」

さらに、人間関係が良好ならば、逆にいい福利厚生として受け止められる。同じ行事でも、いい職場かどうかで評価が変わるのだ。

「もちろん女子社員にお酌をさせるなどの時代錯誤な習慣は論外です。行事に自然と参加したくなるような職場づくりをしたうえで、行事からも理不尽なルールを排除していく。そうすれば、行事そのものが不要だと思われることもないでしょう」

経費より時間を節約できる見直しを

ツールの力を借りるのも「謎ルール」の見直しに効果的だ。小宮氏が社外取締役を務める某企業は、専用のタブレットで資料を見られる環境を整えたという。

「会議資料の受け渡しがなくなるだけで、かなり楽になりました。その会社はセキュリティの関係で専用タブレットを使っていますが、事前の情報はメールやファイル共有でもいいし、当日の会議もプロジェクターを使えば効率的です。また、会社法では本来、リモートで取締役会に出席してもいいことになっています。テクノロジーを活用して、非効率な習慣はどんどん見直したほうがいいでしょう」

生産性を高めるための設備投資をケチってはいけない。古い機器は接続に苦労したり、突然止まったりとストレスとなる可能性が高い。特に社内の若手は普段から個人的に最新機器に触れていることも多く、ストレスと思うことは多いだろう。最新の機器を使うことで、効率が上がり労働時間も削減されるのであれば、職場のストレスも軽減できる。

「先に述べた会社行事と同じで、細かい経費削減ではなく大きな意味での効率化を考えるべきです。経費節約のために『社内文書は白黒のみ』にしている会社もありますが、まさに『謎ルール』ですよね。読みづらい資料は読み手の時間を奪ったり、誤解を招いたりする場合もあり、浮いた経費以上の損失をもたらします。セコい節約をするくらいなら、低コストのカラープリンターを活用して生産性を高めるべきです」

実際、ビジネス用のカラーインクジェットプリンターならレーザープリンターに比べコストを大幅に削減できる。こうした数万円程度の投資で効率を上げられるアイテムであれば、すぐにできる改善提案としても受け入れられやすいのではないだろうか。

設備投資と収益は、鶏と卵の関係だ。設備投資をするから、効率が上がり、収益が生まれて、収益が生まれるからまた設備投資ができる。「謎ルール」がはびこっている職場では、これとは逆の悪い循環に陥っていないだろうか? ルールの見直しをきっかけに、ぜひいい循環をつくるべく、オフィス環境に今一度、目を向けてみてはいかがだろうか。

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