売上拡大のためのデータ活用戦略 事業成長の鍵を握る、顧客体験管理(CXM)
主催 東洋経済新報社
協賛 アドビ システムズ
オープニング
アドビ システムズのプラブネ・マニッシュ氏は、出身地インドの買い物風景を紹介して、顧客の家族構成や好みを把握し、パーソナライズした提案をする商売は昔からあったと指摘。今こそ「原点に戻って考える時期」と述べた。デジタル技術の進展で、購入前・中・後のデータから消費者の意向をくみ取ることは可能で、「人となりを理解して、顧客体験の提供を考えることが大切」と訴えた。
事例講演1
KDDIが取り組むデジタル×顧客体験×経営戦略
~新たなる通信時代に向けて~
KDDIの井上慎也氏は、「つなぐ」をキーワードにしたデジタルマーケティング部の取り組みを語った。通信を軸に、金融、エンタメ、コマースなどのサービスを展開するauの事業は、契約の継続によって収益を上げるリカーリングモデルで、顧客との関係をつなぐことが重要。顧客体験の向上が生み出す価値の可能性は大きいが、会社への貢献がわかりにくいのも事実で、同部では、顧客に同社の価値を再認識してもらう、多様なサービスの中から必要なものを顧客につなぐ、顧客がサービスをスムーズに使えるようにする顧客努力の低減、顧客接点の強化――などをポイントに取り組んでいる。
例えば、弊社の通信の安定接続に関する取り組みと思いをお伝えする「ずっと、もっと、つなぐぞ。」キャンペーンにおいて、電波状態が悪い時にご連絡を受けてから24時間以内のご連絡を行う「電波サポート24」や「災害時の取り組み」など従来から続けていた取り組みをテレビCMやソーシャルメディア、オウンドメディアで紹介。海外旅行者や海外出張するビジネスパーソンに人気の、Wi-Fiルータの代わりにいつものauスマホがそのまま海外で使える定額サービス「世界データ定額」を、海外旅行に興味を持つ人にパーソナライズ広告を展開している。顧客のデジタル体験向上のためには、社内の異なる部門同士が協働することも必要で、社内向けにデジタル変革を促し、サイロ化された組織を融合する役割も今後は重要性を増すと予想した。
また、高速・大容量の5G通信網の実用化で、通信を介したサービス提供の可能性が広がることから「皆さんの製品・サービスと顧客を通信でつなぐアイデア創出のお手伝いもしたい」と語った。
事例講演2
事業成長の鍵を握る「お客さま第一主義」:三井住友カードが取組むデジタル変革
盛り上がりを見せているキャッシュレス化の推進に向けて、三井住友カードの佐々木丈也氏は、デジタル活用、顧客起点での取り組みを話した。同社では、依頼に基づき掲載してカオス状態だったWebサイトをアクセスデータ分析などのテクノロジーを用いて最適化して、カード申し込みの転換率向上などに結び付けた。Webサイトを皮切りにチャネルを横断した顧客体験(CX)の提供を推進。
まず、顧客接点や、提供できる顧客価値をカスタマージャーニーに沿って洗い出し、各場面での最適なコミュニケーションを検討した。カード入会直後は、利用の基本情報をしっかり伝え、その後は、eコマースで利用した顧客に、街中のコンビニエンスストアなどでカードを利用するメリットを訴求するなど、利用状況に応じたコミュニケーションを、マーケティングオートメーション(MA)ツールを使って実施。利用率や利用単価の向上につなげた。
また、経営会議にて検証結果を報告し、社内のCXへの意識を高めた。アプリも顧客の使いやすさを追求したデザインにリニューアル。Web上の行動分析から、情報を探している人にメールを送るなど、「電話をかけずに済む状況」づくりを目指し、コールセンターが受ける電話の数、コストの削減にも取り組んでいる。佐々木氏は「CX推進には、社内の意思統一が非常に大事。まずは、マーケティング統括部による最適なCXの提供で、マーケティング活動を進化させたい」と語った。
プロダクトセッション
顧客価値を創造する カスタマー・エクスペリエンス管理プラットフォーム
アドビ システムズの安西敬介氏は、「データを駆使して最適なパーソナライズ体験を提供する」ことの重要性を訴えた。企業がすべきこととして、顧客情報で顧客を理解、AIなども使った最適体験の提供、パーソナライズ効果の検証、多様なチャネルに合わせた最適なコンテンツの提供――の4点を列挙。
顧客情報は、属性より、会員登録なしで取得できるWeb閲覧データの活用を推奨。閲覧した商品や記事に基づくレコメンドが高い効果を上げている事例を紹介した。また、人が設定したルールに基づくパーソナライズは、自社戦略に合わせられる長所がある一方で、バイアスがかかるおそれを指摘。最適体験の提供にはAIや機械学習も活用することを促した。実際、人が設定したルールベースより、AIのほうが効果が高いというデータもあり、パーソナライズの効果を検証すべきと強調。PC、スマホ、アプリ、家電などのIoTといった多様なデバイスをまたいで最適なコンテンツを提供するため、IDを使って統一した体験を提供する仕組みや、アプリを店頭での体験の向上に使う事例も紹介。「Adobe Experience Cloud」は、パーソナライズされた顧客体験を演出する製品をそろえているとアピールした。
パネル・ディスカッション
最後に、講師4人が登壇して、最適な顧客体験のための組織、カスタマージャーニー、テクノロジー活用を議論した。
KDDIの井上氏は、社内が顧客体験の提供で協働できるように、目的や評価指標のKPIを明確にしたプロジェクトを各専門部署のメンバーをミックスしたチームで推進することを意識しているとした。テクノロジーは「機能ベースで考えると、目的と手段がバラバラになるおそれもある」と指摘。
三井住友カードの佐々木氏は、カスタマージャーニーの立案、施策、チューニングのサイクルを回してきたことで、商品開発などでも「ジャーニーの検討が定着してきた」と述べ、「システムはベンダーによって異なる特性を見極めて選定すべき」と語った。
アドビ システムズの安西氏は、プライバシー保護規制に対応したデータガバナンスや、ほかのシステムとつながるオープン性などのポイントを押さえ、顧客体験管理プラットフォームを提供したいと強調。
モデレーターの同社、マニッシュ氏も「弊社は、海外顧客も含むさまざまな事例を蓄積しているので相談してほしい。2020年3月末から、米・ラスベガスでマーケティング業界向けのアドビサミットも開催されるので参加の検討を」と呼びかけた。