PDCA進化論

変化する企業だけが勝ち続ける

デジタル技術の進展やビジネスのグローバル化など、加速する事業環境の変化に対して、企業はスピード感をもって変革、経営戦略を進めていくことが求められている。だが、多くの組織で実践のためのPDCAプロセスは機能不全に陥りがちだ。東京・港区で開催されたカンファレンス「PDCA進化論」では、組織変革や成長を実現してきた経営者や識者が登壇。企業経営に必要な戦略のあり方や、企業変革で実践した具体的な取り組み、さらには、戦略を実行可能にするため、組織の仕組みとして「PDCA」プロセスを回せるように進化させた「鬼速PDCA」について解説した。会場を埋めた中堅・中小企業を中心とする経営者、経営幹部らが熱心に聞き入っていた。

共催:ZUU 東洋経済新報社

基調講演&ワークショップ
『鬼速PDCA』組織変革論
〜売上5倍、利益10倍を実現する、成長戦略の描き方〜

ZUU
代表取締役
冨田 和成氏

「ZUU online」など金融メディアを展開するZUUの冨田和成氏は、売り上げと利益を飛躍的に伸ばす「鬼速PDCA」について説明した。冨田氏の著書『鬼速PDCA』は、シリーズ累計20万部超と反響を呼び、同社では、現場・個人向けだった鬼速PDCAを、会社組織として回す仕組みを開発。金融機関の紹介などを通じ、企業にサービスを提供している。

その仕組みは、最初に、計画(P)の段階で、現状と目標とのギャップを生む課題を特定。営業部門の場合なら、プロセスをアプローチ(アポ獲得)、プレゼンテーション、受注などの工程に分け、各工程から次工程に進む遷移率を改善する。そのための課題を明確にするために、工程の「因数分解」を行い、「プレゼンテーション工程のデザインに問題がある」といった、重要な課題因子発見まで深掘り。そのうえで、結果指標(KPI)を設定、重要度の高い課題に対する解決策を、優先順位をつけて実行(D)する。「課題の質が低かったり、絞り込みが不十分だと、解決策の効果は薄くなる」と、課題特定の重要性を強調した。Dの段階では、例えばKPIのアポ獲得件数が未達の場合、獲得率だけでなく、行動件数不足が原因の可能性も高いため、KPIと分けて行動指標(KDI)を設定。KDIの優先度に沿った行動に時間(資本)を投下することがポイントと指摘した。

ZUU
シニアマネージャー
染谷 滉二氏

ZUUの染谷滉二氏は、同社の「鬼速PDCAエンジニアリングサービス」を説明。「組織の改善力、資本力を向上させるPDCAの理論の浸透と、鬼速PDCAシステムの構築をサービスとして提供する」と語った。

特別講演&対談
常勝経営を仕組み化する!無印良品のPDCA

良品計画 前会長
松井オフィス社長
松井 忠三氏

無印良品を展開する良品計画は2000年代初めに急激な業績悪化を経験した。それをV字回復させた前会長の松井忠三氏は「負けた構造」の問題は、セゾングループの特色である文化や感性を重視するあまり、企画に偏って実行力に欠けた企業風土にあったと分析。店長の経験に頼る商品陳列は、売り場の出来栄えが店によってバラバラになるといった課題があることから、経験主義を捨て、マニュアル化の徹底によって「勝ち続ける構造」に転換した。マニュアル「MUJI GRAM」は13冊2000ページに及び、業務全般を標準化。社員の意見を反映して毎月20ページ程度を見直し、変更のたびに現場で徹底される「使われるマニュアル」にした。

これにより「PDCAのうち、大半のPとわずかなDしかなかった組織で、CとAも機能するようになった」と話す。マニュアルは教え込まなくても、隣の人の仕事を見ればわかる「空気のような」存在になっている。とくに社員の入れ替わりが激しい海外では、つねに見直される「MUJI GRAM」が退職による経験値の喪失を防ぎ、持続可能なオペレーションとなっている。

さらに、実行力のある企業風土づくりのため、職場をきれいに保つクリアデスクルール、定時退勤を徹底。朝のあいさつのルールは、松井氏自ら本社入り口に立って率先垂範した。また、締め切りを定めて業務を指示、完了確認するシステムの導入や、内部監査による現場確認も行う。「戦略を日常業務レベルに落とし込み、実行を徹底することで、社内にやりきる風土を浸透させた」と振り返った。

クロージング特別講演
経営戦略におけるPDCA

神戸大学大学院
経営学研究科
教授
三品 和広氏

神戸大学の三品和広氏は、自身が行ってきた高収益や継続的成長を実現している企業の研究の結果に基づき、経営戦略の3つの基本――経営トップがよい「事業立地」を選択する、バリューチェーンなどの「構え」や「製品」の次元で競争戦略を駆使して新規参入を抑止する、現場での「管理」の次元でPDCAを回しコスト優位を構築する――を示した。写真フィルムの事例を用いて、「事業立地」が衰退すると、参入阻止やコスト優位の獲得に成功したとしても、収益を獲得することができず、トップは過去に得た利益を原資に新たな事業立地を開拓することが求められるという戦略の重層構造について説明した。

PDCAが最も効果を発揮するのは、現場の「管理」次元である。標準作業書を作成してベストプラクティスを共有する事例を挙げ、「コストは裏切らない」と、競合他社へのコスト優位性の大切さを強調した。しかし、重層構造のほかの層、とくに企業全体の戦略において、従来型のPDCAを適応しようとすることにはミスマッチがあるとも指摘した。現場のアクションからのフィードバックから得られる情報は、非常に範囲の狭い視点であり、そこから練り出されるプランが全体最適につながりにくいためである。しかし、日本企業の多くは、中期経営計画を作成し、部分最適の集合から戦略をつくろうという考えが根強く残っていると指摘した。

一方で、企業全体において回すべきPDCAとは、こうした戦略そのものを計画するというものではなく、誰を戦略的なポジションに就かせるかという人材選びと育成のサイクルであるとした。三品氏は「戦後70年を経て立地が衰退した日本企業は多い。傾きかけた事業を守るより、立地の置き換えの長期サイクルを回すため、長期視点を持つ人材を育成することがカギ」と語った。そのための人材の選定(Picking)、開発(Developing)、実際に新規事業を起こさせ(Calling)、それを評価する(Assessing)というサイクルを回すことが企業戦略におけるPDCAの役割であると述べて締めくくった。

スペシャル対談
神戸大学大学院 経営学研究科 教授 三品和広氏 × ZUU代表取締役 冨田和成氏

この後、ZUUの冨田氏と対談した三品氏は、長期視点を持つ人材の育成法について「優秀な人材を、本業から離れた傍流の事業に配置することで、会社の現状に対する問題意識を育めるのではないか」と提案。冨田氏は「成長し続ける企業は、メインの事業・商材が変化している」と、立地転換の必要性に同意。「目的が違えば、課題も解決策も異なり、PDCAの回し方も変わる。ゼロから1にする局面、1から10の局面、事業転換の局面と、それぞれに合ったPDCAがあると思う」とまとめた。

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