"ありがとう"と時価発行新株予約権信託® 社内を活性化させた新たな取り組みとは?

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東日本大震災の被災地に太陽光発電を設置するボランティア活動から誕生したLooop。2016年から電力小売事業を開始し、急成長を遂げている。将来のIPO(新規株式公開)を目指す同社ではストックオプション(自社株購入権)制度を導入している。ここまでならスタートアップ企業としては珍しくないが、同社がユニークなのは、従業員同士で感謝する出来事があった際に「ありがとう」の気持ちをポイント化し、それらがストックオプションに変換されることだ。しかも、役職者だけでなく若手社員や新入社員にも付与されるという。この新しい取り組みを可能にしたのが「時価発行新株予約権信託®」というスキームだ。Looopの中村創一郎氏と、同スキームを松田良成弁護士(漆間総合法律事務所 所長)と共同で組成したプルータス・コンサルティングの野口真人氏がその狙いや手応えについて話し合った。

ストックオプションの発行で従業員のモチベーションを高める

―― 役員や管理職ではなく、新入社員など若手社員にもストックオプションを付与するというのはどういう思いがあったのでしょうか。

株式会社Looop
代表取締役社長 CEO
中村 創一郎氏

中村 当社の創業のきっかけは2011年に発生した東日本大震災の被災地で太陽光パネルを設置するボランティアを行ったことです。大きな自然災害でしたが、逆にこの自然の力の可能性を感じ、太陽光発電を中心に、風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギービジネスに取り組もうと考えました。2016年の電力小売り自由化以降は家庭向けの「Looopでんき」も提供し、おかげさまで順調に成長しています。

ただし、私たちの事業は1年、2年で決まるものではありません。発電所を造れば最低20年は見守っていかなければなりません。そうなると、従業員にとっては「そんな先の話、わからないよ」となります。そこで、もっと長いスパンで会社を見て企業価値の向上を意識してほしいという考えからも、ストックオプションの発行を考えました。

野口 ストックオプションというと何か特殊なもののように思う人もいるかもしれませんが、一口に言えば、株券と同じような有価証券です。法的には新株予約権という株を買う権利です。大きな違いは株券のように最初から価値があるわけではなく、今より株価を上げて初めて価値が出るということです。

また、ストックオプションを付与する大きな特長は、経営者と従業員が同じ方向を向くということです。給与なら、経営者は「こんなに払うのか」と思いながら払うこともあるかもしれませんが、ストックオプションなら、価値が上がれば双方がメリットを得られます。

中村 ただ、実際にストックオプションを発行しようとすると、すごく制約が多いですよね。たとえば、付与対象者や付与数を発行時に決めなければならない。これだと、5年前に入った人にストックオプションを付与するのと、今年入った人に付与するのとでは意味合いが変わってきます。社歴の古い従業員の既得権益のようになってしまってアンフェア(不公平)な要素がでてきます。

株式会社 プルータス・コンサルティング
代表取締役社長 CEO
野口 真人氏

野口 ストックオプションの権利行使価格はその発行時点の時価となりますから、入社のタイミングの違いで付与額に差が出ることにもなりますね。

中村 もちろん、5年前に入った従業員でも経営に貢献していてくれる者はいます。ただ、後から入ってきた従業員が「私はこんなに貢献しているのに」とモチベーションが下がるようなことは避けたいと思いました。

独自のポイントをストックオプションに換算できるスキームを構築

―― Looopのストックオプション制度の大きな特長は、従業員同士がお互いに授受できるポイントがストックオプションに換算されるという仕組みになっていることです。

中村 当社では従業員同士で「LooopWayポイント」と呼んでいるポイントを送り合うことができるピアボーナス*のプラットフォームを構築しています。

経営者からしてみれば、誰が頑張っているのか、誰のロイヤリティーが高いかなかなか見えづらいのですが、「LooopWayポイント」のやりとりを見ていると、ホームランを打つ選手だけでなく、バントで確実にランナーを送る選手、守備で貢献する選手など、縁の下の力持ちにスポットライトを当てることができます。

ただし、「ありがとう」と言うだけでは、従業員のモチベーションは続きません。言葉だけでなく、このポイントをストックオプションとして付与することで経済的にも従業員をサポートしたいと考えました。

この仕組みを実現するためには、後から付与対象者や付与数を決定できるスキームが不可欠でしたが、これを構築してくれたプルータス・コンサルティングにはとても感謝しています。

*従業員同士がお互いに仕事の成果や貢献に対して賞賛したり認めたりするだけでなく、それと共に少額の報酬などを送り合う仕組みのこと。

野口 ありがとうございます。今回のスキームは「時価発行新株予約権信託®」と呼ぶスキームです。中村社長のようなオーナー経営者が信託によって資金を預け、従業員などの受益者に新株予約権を配ることができます。

当社は、有価証券の設計と評価というニッチな部分に特化した独立系評価機関として実績を積んでいます。企業の再建やMBO(マネジメント・バイアウト)*などの裁判案件で当社が評価を求められることも少なくありません。

「時価発行新株予約権信託®」は、発案者である松田良成弁護士と共同で3年以上もの検討を重ね商品化したもので、既に開発から5年以上経過し、現時点では導入実績も165件を超えています。

*経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得すること

中村 当社にとってはわからないことだらけでしたが、プルータス・コンサルティングは、当社の導入当時、「時価発行新株予約権信託®」だけでも100社弱の導入事例があり、「こんなことは大丈夫ですか」と私がどんな質問をしても、必ず明確かつ迅速に回答してくれました。そのため、安心してプロジェクトを進めることができました。

従来のストックオプションの課題を解決し企業価値向上につながる

―― 制度導入後の手応えをどのように感じていますか。

中村 当社は今、さらなる成長に向け企業理念の練り直しを行っているところです。「LooopWayポイント」の換算によるストックオプションの付与という新しい制度ができたことにより、多くの従業員が同じ方向を向いて仕事ができるようになったと自負しています。

野口 株価などの企業価値を高めていくためには、従業員全員が当事者意識を持って業務に取り組むことが不可欠です。ストックオプション制度はその一助になり得ます。

ただし従来の制度には、中村社長が指摘されたように、古参の従業員や一部の役員などが優遇されるという不公平なところがありました。その点で、今回のLooopの取り組みは、若手社員も含めて全員の意識付けに有効だと考えられます。御社のスキームは本当の意味で、上場してからが勝負だというマインドを共有することができるようになっています。そういったモチベーションを上場後に更に強めることができる点は、投資家にとっても心強いと思います。

中村 IPOが前提にはなりますが、IPOがゴールではなく、業績を上げ続けていくことが大事だと考えています。

野口 企業は上場がゴールではなく、スタートであるはずです。多くの経営者が証券取引所で鐘を突きながら「ようやくスタートに立ったばかり」と話します。ところが、一般的なストックオプション制度では、上場したとたんに有能な従業員が辞めていくといったことも珍しくありません。

その点で、御社のスキームは本当の意味で、上場してからが勝負といったマインドを持つことができるようになっています。

中村 私は、上場後もストックオプションを付与していきたいと考えています。そうなれば従業員も将来が明るくなりますよね。たとえば、社長の金一封に加えて、ストックオプションを付与するといったこともできると思います。新入社員の入社時の一時金、さらには賞与などにもストックオプションの付与を関係づけていきたいと思っています。

野口 モチベーションやロイヤリティーはなかなか定量的に可視化することが難しいところですが、それを実現するものになりそうですね。経営者の理念を従業員が共感することにもつながりそうです。

御社の取り組みは当社にとっても好事例になります。引き続き企業価値の向上に寄与するようなサービスを世に出していきたいと考えています。

中村 当社も現状に満足せず、さらに有機的に制度を進化させていきたいと考えています。経営者のためではなく、あくまでも従業員のための制度です。従業員に喜んでもらえ、使ってもらわなければ意味がありませんから。従業員の生活が豊かになって、より高いパフォーマンスを発揮できるよう、一丸となって会社を成長させていきたいと思います。

野口 貴社の成長に貢献できるよう我々も協力できればと思います。本日はありがとうございました。