「2025年の崖」の衝撃から1年 待ったなし。デジタル競争、勝者の条件は?
主催 東洋経済新報社
協賛 アマゾン ウェブ サービス ジャパン
基調講演
DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例から見えてきた成功パターンとデジタルプラットフォーム戦略
DXレポートをまとめた経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長で、南山大学教授の青山幹雄氏は、「崖」には、レガシーシステムの保守コストの増大が会社全体の経営負債になる問題とDXを推進してデジタルを有効に活用しなければ成長を阻害される問題の2つの側面があると指摘した。
DXは、データを分析して問題を予測・発見することから価値を創出することを目指しており、業務にソリューションを提供して効率化する従来のITとは異なる。顧客の問題を発見して、それを解決する新たな製品・サービスを開発する動きも進んでいる。
青山氏は、「DXはすでに起きている。データを活用した新たなビジネス機会は存在しているので、迅速に対応すべき」と強調。経営、事業部門、IT部門の3者の連携や、経営のリーダーシップ発揮を訴えた。経産省は、2018年末に「DX推進ガイドライン」、19年7月に「DX推進指標」を公表し、客観的な視点からの自社の取り組み状況把握をサポートする。最後に「指標は、段階的にDXを進めるロードマップにもなるので利用してほしい」と語った。
課題解決講演
DXの成功を支えるカルチャー変革とテクノロジー活用
アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンの岡嵜禎氏は、DX推進について、企業文化とメカニズム、最新テクノロジーと人材・体制づくり、経営のコミットメントが重要として、「DXの成功が今後の生命線」と語った。
アマゾンでは、製品・サービス企画の際に、提供価値を明確にするために、プレスリリースを書くことから始めるなど、顧客視点を重視。主体性、自立性を持った10人前後の小さなチームからなる迅速に動ける組織――といった企業文化・メカニズムでDXを推進している。クラウド利用のメリットについては、システムへの先行投資が不要になり、リスクを抑えた実験が可能だ。そのためサーバー保守などの手間を省き、アプリケーション作成など、ビジネスの本質に時間、人材を集中できる。
岡嵜氏は「実験でうまくいったら素早く規模を拡大して展開できる」と説明。専門知識がなくても、AIや機械学習などの最新テクノロジーを使えるAWSのサービスを紹介した。ビジネスや組織の仕組み、企業文化の「変革を迅速に進めるにはトップのコミットメントが不可欠」と強調した岡嵜氏は、AWSが用意している、DX取り組み事例紹介の施設や、アイデア創出法、クラウド技術を学ぶプログラムにも言及、活用を呼びかけた。
Case Study (1)
大企業でのDX実践 - 同期を取りながら人・物・金すべてをシフトせよ!
クレディセゾンの重政啓太郎氏は「DXの本質は事業転換。会社全体が変わる必要がある」と述べ、ビジネスに貢献するIT部門変革の取り組みを紹介した。同社は、APIなどのシステム連携基盤開発や、システムの耐用期間を見越して計画的に検討をしながらクラウド化を推進。また、デジタルサービスの専門部署も設置した。が、デジタル部門と、基幹・コア業務システムを運用する既存IT部門との連携不足から、サービス開発のスピードが出ず。両部門を1つにして、事業側がやりたいことと、システムで実現できることを垣根なしに調整できる密連携した連続組織の実験をしている。
また、業務とIT、両方の知識を持つハイブリッド人材育成にも取り組む。IT投資は、要望に基づいてコストを積み上げる方式から、戦略的に配分を決めるトップダウン型に転換することを指向。人材ポートフォリオ、システムアーキテクチャー、IT投資の「人・物・金のリソース配分のあるべき姿を描いて、DXを進める」と語った。
Case Study (2)
周回遅れからのスタート!!森永乳業が取り組む「攻めのIT組織」への変革
森永乳業の浜田和久氏は、既存のレガシーシステムの保守に終始していたIT部門の改革について語った。3年前から、経営陣を巻き込んで、IT部門をITの活用により全社業務改革を牽引するIT改革推進部と既存システムを管理する情報システムセンターに再編。「守りのIT」基盤整備のため、外部データセンター化とクラウド化を検討し、約60%のコスト削減効果を見込めるという検証結果を得て、19年からAWSを第1候補として、社内サーバー約300台のクラウド移行を進める。
さらに、ITをビジネスに戦略的に活用する「攻めのIT」も推進。IT部門のメンバーで、クラウド活用推進専門組織(CCoE)を設立し、AWSのサービスでできるビジネス部門の要望実現を検討してみたところ、半年で環境会計の可視化などの実装に成功した。「CCoEとAWS、外部の開発支援会社との協業で、これまで対応できなかったビジネス部門の要望をかなえることで、攻めのイノベーションを推進。守りの改善と合わせて、経営と事業に貢献していきたい」と語った。
ディスカッション
最後にDXやクラウド化の進め方について、登壇者が話し合った。クレディセゾンの重政氏は、DXには全社的な取り組みが必要として、出発点でIT側と事業側がパートナーになって議論し、サービスやビジネスを構想していくことを推奨。クラウド化はコストが下がるとは限らないので「ベネフィットを見極めるべき」と述べた。
森永乳業の浜田氏は「事業部門を巻き込むには、IT部門の熱量がまず必要」と述べ、ITが役立つことをわかりやすく示し、社内の親近感を得ることも大切と述べた。また、中長期的にITに求めることを事業部門に聞くことがクラウド化の推進につながると述べた。
AWSの岡嵜氏は、ビジネスでのDXに対する関心の高まりを指摘。顧客ニーズを知るビジネスでのオーナーシップに期待を示した。クラウド化は、社内意識を変える効果もあり、アプリケーション刷新などに合わせて決断することで進む、とした。モデレーターの南山大学、青山幹雄氏は「本日の話がDXを進めるモチベーションを高めるきっかけになれば」とまとめた。