普通は社外秘…ダイキン「商品情報を公開」戦術 「13年に1度しか会えない」顧客の声拾うには

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空調専業メーカーとして、今や世界中で知られる企業となったダイキン。変わらず好調を維持している同社だが、実は商品開発に際して、空調専業であるが故の「とある課題」に直面していた。その課題とは、そしてそれを乗り越えるためにダイキンが始めた斬新な取り組みとは。詳細を探ったところ、ダイキンの確かな「戦略」、そして新商品開発に懸ける熱い思いが見えてきた。

私たちにとってエアコンは、家庭にもオフィスにもある身近な家電だ。今や家庭用エアコンの普及率は9割以上、保有世帯当たりの平均保有台数も一家に約3台という状態(※1)。エアコンは、いわゆる「超成熟市場」なのである。

(※1)出典:内閣府「消費動向調査(平成30年)」

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ルームエアコンの平均使用年数は延びている

一方でエアコンは、身近にありすぎるために日頃意識されにくい家電であることも確か。さらに高機能化・長寿命化に伴って買い替えサイクルは延びており、一般に13~14年といわれる。単純計算すると、エアコンを主力商品とするダイキンにとって、1ユーザーとの接触は「13年に1度しか持てない」ということだ。

「エンドユーザーとのタッチポイントが少なく、ニーズを拾いにくい。これが、当社の抱えていた課題でした」と振り返るのは、同社空調営業本部の成実峻介氏だ。

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「エアコンを買い替えるまでの13年という時の流れの中で、人々のライフスタイルは大きく変わるはず。しかし使っているエアコンだけは13年前と同じままという状況が当たり前です。もし、変わりゆく生活シーンやライフステージに即した付加価値を持つ商品を提案できれば、エアコン本体の買い替えタイミング以外でも、ユーザーとの接点を増やすことができると考えました」(成実氏)と、「DAIKIN LAUNCH X」(以下、LAUNCH X)の開設に至った背景を語る。

成実 峻介
ダイキン工業 空調営業本部 事業戦略室 企画担当課長
商品戦略・アイデア商品創出プロジェクト

LAUNCH Xは、2019年11月に始まった同社のプロジェクトである。既存商品のみならず開発中の商品情報も一般に公開し、ユーザーから寄せられた意見を基に商品の仕様や発売の可否を決めるという斬新なもの。ユーザーの意見や評価を集める「READY PRODUCTS」と、実際に寄せられた声を反映して商品化したものを販売する「ONLINE SHOP」から構成されている。

次々とイノベーションを起こし、ユーザーが喜ぶような新しい付加価値を作り出すのは容易ではない。そこでダイキンは、「ユーザーは私たちが思いもよらないような使い方・アイデアで、当社製品の可能性をさらに広げてくれる」(成実氏)と考えた。外部ならではの豊かな発想で生まれるアイデアを、ダイキンの高い技術力と掛け合わせることで、新しい付加価値を生み出そうとする試みである。商品によってはクラウドファンディングを通し、支援者を募ってから生産を開始する仕組みも採用した。

今どき珍しくないマーケットイン、だけど……

「新しい空気の価値を創造する」手法として作られた、イノベーションプラットフォームがLAUNCH Xだ

今の時代、メーカーが消費者の声を商品に反映すること自体は、決して珍しくない。だが、通常はメーカーの機密情報である商品仕様をオープンにして、広く消費者の意見を求めるダイキンのやり方は異例だ。いうなれば、IT業界では常識となっているアジャイル型商品開発を、空調機器でやろうということ。単純なECサイトとは大きく異なる。

今まで2〜3年タームで商品開発に取り組んできた同社にとっては、大きな挑戦だ。開発のあり方からクラウドファンディングを用いた販売まで、家電業界では珍しい取り組みといえる。

「当社にはない技術・強みを持つ他社との協創(※2)、さらには複数の機器をつなげることも、新しい価値の源泉になります。LAUNCH Xを、『ユーザーとダイキン』『協創パートナーとダイキン』『機器と機器』それぞれが交わる場としたい。そして、機器単体の価値だけではなく、モノを買うこと自体を楽しむという体験価値を提供していきたいと考えています」と、成実氏は思いを語る。
(※2)外部の企業・組織との共同施策によって、イノベーションを創出すること

「Carrime」は、キッチンやガレージはもちろん、電源さえあればキャンプ場などの屋外にも持ち運べる。誰でも持てるよう、料理が入った鍋程度の重さ(約6キロ)となっている

LAUNCH Xではすでに、ポータブルエアコン「Carrime(キャリミー)」などについて、ユーザーの意見を募集した。Carrimeの開発に際しては、クラウドファンディング大手「Makuake」を協創パートナーとして選定。同社のクラウドファンディングで支援者を募ったところ、目標の300件を大幅に超えた支援数が集まり、2020年6月に発売することが決定した。

支援者も本気で、商品への要望を寄せる

実際、成実氏はユーザーのビビッドな反応とスピードに驚いている。「MakuakeにCarrimeのプロジェクトを掲載したところ、掲載についての発表会終了後、わずか5分後の時点ですでに50人もの支援をいただいていました。寄せられる要望もかなり具体的な内容です。例えば、キャンプをするときにテントの中で使いたいので、本体背面から出る排熱を処理する直径〇ミリのダクトホースを付けてほしい、など。かなり真剣に向き合っていただいていると感じます」。

ユーザーからの要望を受け、Carrimeにダクトホースを付けた試作の様子

商品設計の担当者もこうした声に応えるべく、支援者のニーズを反映した試作品を喜々として作っているという。「クラウドファンディングによって、資金もさることながら『ユーザーの生の声』を集められるのが最大のメリットです。これを出発点として、空調機器も用途や使われ方の変化に合わせて改良を加えていく、アジャイル型商品開発を加速させていきたい」と成実氏は抱負を述べる。

協創パートナーとしてMakuakeと組んだのにも理由がある。Makuakeには、企業の意欲的な挑戦を応援したいという気持ちを持って、新しい商品や珍しいものを買うという消費マインドを持つユーザーが多々集まっていおり、これはまさにダイキンがリーチしたいと考えるユーザー層と合致する。アジャイル型商品開発という、同社にとっての大きな挑戦を後押しする仕組みなのだ。

Makuakeの「Carrime」支援募集ページ(現在はクローズ)。使用シーンをイメージできるよう、動画を活用するなど工夫が凝らされている

「ものづくりの意味でも、Makuakeは最適でした。Carrimeは、コンパクト設計を実現するために、当社の空調技術を凝縮して作った商品。一方でLAUNCH Xで取り扱う以上、基本的に大量生産は考えていません。つまり開発にかけたコストや生産体制などを考えると、商品化のハードルがかなり高い商品なんです。そのため、資金に加えて支援者のリアルな意見を集められ、過不足ない生産台数を把握できるMakuakeのシステムがぴったりだと考えました。Makuakeからも『インキュベーターとしてダイキンに並走する』と、背中を押してもらいました」と、成実氏は協創に至った経緯を明かす。

今後もLAUNCH Xでは「空気の新たな価値の創造」を目指し、魅力的な技術や知見を持つ企業との協創を行っていく。すでに温めているアイデア、商品候補は20以上。意見収集の場をSNSに広げたり、ユーザー同士が集まって意見交換するリアルイベントも実施予定だ。

今や超成熟市場となったエアコン業界。こうした新たな取り組みによって、「ユーザー1人ひとりの理想の空間」の実現に少しずつだが確かに近づいている。今後もユーザーとメーカーの気軽なコミュニケーション、そしてこれまで考えられなかったような斬新な製品の誕生を期待したい。

>LAUNCH Xであなたの声を届けよう

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