公的医療機関が「カード決済」を導入できたワケ 奈良県総合医療センターが語る「導入の道筋」

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2019年、奈良県の地方独立行政法人である奈良県総合医療センターが、公的医療機関ではこれまで難しいといわれていたコーポレート・カードの導入を、例えば汎用医療材料やME(Medical Engineering:医用工学の技術を用いた機器)・透析関連などの資材調達を病院向けに共同で行う一般財団法人日本ホスピタルアライアンス(以下、NHA)を通じて開始した。民間経営の医療機関であれば当たり前に行われているカード決済。しかし、実は公的医療機関は「カード決済」にもとても複雑な規約があり、導入に高いハードルがあるという。どういった課題があり、そしてどう乗り越え導入を実現したのか。奈良県総合医療センターに話を伺った。

複雑な工程で多忙な経理業務、資材取引での振込手数料

前身の大学付属病院から、2014年には地方独立行政法人として発展してきた奈良県総合医療センター。18年には、救命救急の拡充や周産期医療、がん医療に対応する科を新設。総面積約8ヘクタールという広大な敷地に地上7階、地下1階、540床の新病院を建設した。災害医療への体制も拡充、救命救急の受け入れ体制も整え、まさに地域の中核病院としての役割を担っている。

奈良県総合医療センター 特命院長補佐
法人理事 村田庄司氏

診療科目は多岐にわたり、県内でも充実した専門科がそろう中で、当然、資材購入などの取引先も膨大な数に上る。その中で、「なぜ公的医療機関であると、コーポレート・カードが利用できないのか?単純に疑問に思いました」と語るのは同センターの特命院長補佐、法人理事の村田庄司氏だ。

同センターではNHAを通し、加盟病院のスケールメリットを生かして調達資材のコスト削減を実施してきた。但し、煩雑さを極めていたという経理業務は以前から課題だった。共同購入価格の調整はNHAが行っていたが、経理処理はあくまでも個々の調達先企業との対応が必要。調達先の数は100社以上にもなり、各社への振込手数料だけでも相当の金額になっていたという。また調達項目の内訳を経理担当者が手作業で仕分けするなど、経理処理業務自体に大きな手間がかかっていた。NHAは共同購入とともにカード決済を導入することで病院経営に大きな効果が得られることに着目し、検討を重ねトライアルとして導入をNHA加盟病院である同センターで試みることとなった。

「細かな点で言えば、カード決済ができないということは、ETCも使えず割引料金を適用できないということです。少しでも無駄を省いた病院経営が求められるにもかかわらず、カード決済が行えないことでのデメリットが多くありました。民間の医療機関では当たり前にコーポレート・カードの導入が行われているものの、公的医療機関で行えないのはなぜなのだろうか?前例がないという理由だけできちんとした議論の対象にもなっていない状況でした」(村田氏)

しかし、時代はキャッシュレス化の流れを確実に歩んでいる。これから先を考えた場合にはどこかで誰かがきちんと公的医療機関にもカード決済の道を開くべきと考え、村田氏はアメリカン・エキスプレスと共に、導入の道筋を探ったという。

ポイントがかえって邪魔になる?

なぜ、公的医療機関ではカード決済が導入されてこなかったのだろうか?例えば公的医療機関では、資材は一部公的資金で購入することになる。当初は「ポイント還元」もうまく活用できないのではないかという懸念もあった。「資材の購入のために公的資金を活用しているが、そのポイントで別を経費に充当することは認められない」からだ。結果、発生したポイント(※)は同じ項目の経費に充当するというルールを設け、コスト削減を図ることができるようになった。

(※)アメリカン・エキスプレスの法人専用のポイント・プログラム「コーポレート・メンバーシップ・リワード®」プログラムによるポイント

また、奈良県総合医療センターの会計規定では、病院独自の経費精算プロセス、経費計上に含まれる課税・非課税などの取り扱いに複雑な項目が細かく定められており、カード決済にもその対応が必要だった。登録法人と会計権限を委託されている病院との名義が異なるため、そもそもカードが作成できないおそれもあったという。

このように、一般企業とは異なる課題が横たわっていたが、村田氏の強い意志のもと、1つずつ課題をクリアし、コーポレート・カードの導入を実現した。NHAは導入に向けて、ほかのカード会社も検討したが、現実的な対応が行えたのはアメリカン・エキスプレスだけだった。そこで、同センターにトライアルとして提案し、村田氏の強い協力を得て導入となり、NHAとしてアメリカン・エキスプレスを推奨カードとして選定した。

アメリカン・エキスプレスの法人営業事業部では、営業が窓口となり会計規定の変更や法務審査などの各種変更手続きをサポートするなど、各お客様企業の状況に合わせて課題の解決や最適な提案が行える強みがあるからだ。

今後は、出張経費の支払いもカード化を検討

奈良県総合医療センター 財務課長 古澤文康氏

「現在はスタートラインに着いたばかり」と言うのは、財務課長の古澤文康氏だ。同センターでは、まずは社用車におけるETCの利用、そして取引先との決済で一部カード導入を実現。携帯電話などの通信費の支払いもカード決済に切り替えている。次のステップとしては、電気代などの光熱費をすべてカード決済に切り替えることも検討している。

「大型の医療センターだけに、電気代だけでも月間約2,000万円になります。これがカード決済になるだけでもポイント還元などでメリットが出てくると見込んでいます」(古澤氏)

そのほか同センターでは、ゆくゆくは出張費用に関する事務処理手続きもコーポレート・カードを通じて簡略化していく構想だ。「医師や看護師などは学会などで出張に行く機会がかなりあります。その出張費も、現在は個人がいちいち金額を入力して申請しなければなりません。もちろん、経理側もそれらを1つずつ確認する手間がかかります」(村田氏)

例えば、出張費をまとめて旅行代理店に任せ、カード決済にすることでコストと手間の削減を図れる。また、こうした手続きをまとめることで、来月発生する出張費用などもわかるため、経費予測が立てやすいメリットもある。経費申請者が忙しくなるとどうしても、申請が滞りがちになり2カ月分、3カ月分とまとめて経費精算が行われがちだが、カード決済にすれば個人の立て替えの負担もなくなり、随時、正確な経費精算が実現可能になる。

1日約1150人来院する病院

「病院の診療の支払いにもカード決済を導入し、患者の待ち時間をなくすなど、さまざまな経理作業効率化のアイデアが考えられます。本業の医療を充実させるためにも、経理に関わる作業を効率化できれば働き方改革にも対応できるはずです」(村田氏)

経理作業の負荷軽減や手数料を削減するには、今後、カード決済ができる加盟店が増えなければいけない。アメリカン・エキスプレスは奈良県総合医療センターと協力して、地域の取引先などの加盟店拡大を図っている。

また、同センターは学会などで経費や仕入れに関するコーポレート・カードの導入事例の情報を発信。今まで無理だと思われてきた公的医療機関の働き方と経費処理の効率化が、カード決済導入によって大きく前進するかもしれない。

奈良県総合医療センター

1964年、前身である奈良県立医科大学付属奈良病院が開院。その後、2014年に地方独立行政法人化をして、奈良県立病院機構奈良県総合医療センターに改組。18年に現在の奈良市七条西町に移転。病床数540床。臨床研修病院や、奈良県災害拠点病院などの指定を受ける。敷地面積は7万9635㎡、建物面積は1万4089㎡。1日平均外来患者数は1150人。

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