SDGs経営で創る新たなビジネスと未来の社会 CSRやSDGsでビジネスに「差を付ける」時代

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SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが日本企業で本格化しているが、これまでのCSR活動とSDGsをどのようにつなげて考えればよいかわからないという声も多い。またSDGsへの戦略的な取り組みは、経営にどのような影響をもたらすのだろうか。近刊『Q&A SDGs経営』の著者でCSR・SDGsコンサルタントとして活躍する社会情報大学院大学客員教授の笹谷秀光氏に話を聞いた。

―日本企業のCSR、SDGsに対する取り組みについて、どう評価されていますか。

笹谷 廃プラスチックや気候変動などの問題がクローズアップされる中、日本企業は積極的な姿勢を示しているといえるでしょう。そもそも日本では、「三方よし」という経営哲学が歴史的に評価されてきました。これは売り手と買い手を満足させ、さらに社会に貢献できる商売こそ、よい商売だという考え方です。こうした考え方を多くの企業が共有しており、それがCSR、SDGsへの熱心な取り組みにつながっています。

―その一方で日本企業の課題とは何でしょうか。

笹谷 海外の企業と比べ、発信力が弱い。せっかくよい取り組みをしているのに、それが世の中にきちんと伝わっていないケースが多いと感じています。人に知られないように善行を施す「陰徳善事」という行いが日本では尊ばれますが、世界では何事も、発信しなければ理解されません。その意味では、積極的に取り組みをアピールする「発信型三方よし」の姿勢を取るべきです。そうすれば賛同する投資家などの仲間も増え、困難な課題を解決するイノベーションも生まれやすくなります。

―SDGsが大きくクローズアップされる中、これまで取り組んできたCSRについては、どのように捉えればよいのでしょうか。

笹谷 もともとSDGsは、社会と企業の正しいあり方を提唱するCSRの考え方を引き継いでいます。CSRにおいては、2010年にジュネーブの国際標準化機構がISO26000を打ち出しました。これは企業の社会的責任の項目をまとめたもので、このときにはすでに、本業の一環としてCSRに取り組むべきであるという考え方が提唱されています。ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱するCSV(共有価値の創造)という考え方も企業が社会課題の解決に対応することで経済的価値と社会的価値をともに創造しようというものです。

社会情報大学院大学客員教授
CSR・SDGsコンサルタント
笹谷 秀光
1976年東京大学法学部卒業。77年に農林省へ入省後、環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長を経て2008年に退官。同年伊藤園入社後、取締役などを務め、19年退社。同年より現職。最新刊として10月に『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版社)を上梓。笹谷秀光公式サイトー発信型三方良しー(https://csrsdg.com/

いわば、企業はその本業によって、社会的課題を解決するという重要な役割を担っているということなのです。既存のCSR活動も本業に取り込んで事業化していくことが、結果としてSDGsに取り組むことにつながっていきます。

―では、どのように本業化していけばいいのでしょうか。

笹谷 SDGsは持続可能な社会に向けた17の目標と169のターゲットから構成され、網羅的で幅広い分野を対象としており、ヒト・モノ・カネ・情報という企業の経営資源すべてに関係しています。

だからこそ商品やサービス、ブランディング、従業員や取引先、投資家、地域との関係などの幅広い観点において、SDGsとのつながりを創造することができるのです。

これまではある特定の部署だけで進めていくものと捉えられることも多かったCSRやSDGsですが、これからは「SDGs経営」として全社的に取り組むべきでしょう。そのためにも従業員一人ひとりがSDGsを理解し、重点課題を決め、経営計画に反映させるとともに、PDCAを回して、その成果について発信することが重要になってきます。

―そのためにリーダーはどのような問題意識を持つべきでしょうか。

笹谷 SDGsへの取り組みによって経営全体をトランスフォーメーションしていくという意識を持つべきでしょう。SDGs経営によって新たな事業を創出するなど、社内外に変革を起こし、本業を通じて未来の社会づくりに貢献することは可能です。

17年から政府がSDGsの優良な取り組みを表彰している「ジャパンSDGsアワード」では、SDGsをバリューチェーン全体に取り入れたり、自社の得意分野で活用したりする事例が紹介されています。主にメーカーが中心となっていますが、金融などのサービス分野でも熱心な取り組みがなされており、例えば、生保業界では人生100年時代に向けた働き方や健康促進といった分野でSDGsを生かした商品やサービスを開発しているケースも見られます。そうしたSDGsへの取り組みが、結果として企業のブランディングを向上させ、世界に向けた訴求力を高めることになるのです。

―他方、ESG投資についてはいかがですか。

笹谷 ESG投資は欧米だけでなく、日本国内でも勢いがついており、機関投資家を中心に主流化し始めています。とくにGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が積極的にESG投資を進めており、ほかの年金運用系の機関投資家も横並びで同様の動きをしています。海外の機関投資家もESG投資を行うべく日本企業の調査分析を強化しており、日本株式を見直す動きが目立っています。

―今後、SDGsはどのように発展していくのでしょうか。

笹谷 SDGsは30年を目標達成の期限としていますが、これから日本では大規模国際イベントをはじめ大阪・関西万博開催などに向けてSDGsへの取り組みがさらに活発化していくでしょう。国でも「SDGs未来都市」として自治体の取り組みを評価し、自治体のSDGs化を図っていますし、大学でもSDGsにまつわる教育プログラムを強化しています。企業はSDGsを、単なるブームではなく、ビジネスに不可欠なサバイバル戦略と捉え、実行していくべきなのです。

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