デジタル変革時代の食品流通 物流改革フォーラム 食品流通業界編

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ドライバーらの人手不足の影響はますます大きくなり、労働集約型とされてきた物流の効率化は、喫緊の課題となっている。東京・中央区で開かれた「物流改革フォーラム 食品流通業界編」では、人手不足による物流コストの上昇に加えて、低い販売単価、高齢化・人口減少に伴う市場の縮小、インターネット通販で食品を購入するECの伸長による宅配・ラストワンマイル物流の増大、消費期限の制約、2019年5月公布の食品ロス削減推進法で求められるフードロス削減など、さまざまな課題を抱える食品流通に焦点を当て、より効率的な物流に変革するためのヒントを探った。
共催:東洋経済新報社、野村総合研究所
協賛:野村不動産

開会の挨拶

野村不動産
執行役員
都市創造事業本部
物流事業部担当
山田 譲二氏

テナントの入れ替わりに対応する汎用性を備えつつ、業種特有のオペレーションの最適化を実現するカテゴリーマルチ型物流施設「Landport」シリーズを展開する野村不動産の山田譲二氏は「食品は生活に不可欠な商材だが、現場は低い単価、配送時間の制約に苦労している」と指摘。「紹介する取り組みをヒントにしていただければ」と語った。

イントロダクション
日本におけるフードチェーンのデジタル化展望

野村総合研究所
グローバル製造業コンサルティング
上級コンサルタント
岩村 高治氏

野村総合研究所の岩村高治氏は、日本の食品業界は1人当たり付加価値額が伸び悩み、設備投資が遅れたため、効率化の余地が大きいと指摘。

食品の消費期限に関する商慣習に伴う返品で年間約15百億円、コンビニエンスストアの廃棄で年間約30百億円近い食品ロスが発生する背景には、時間経過とともに、鮮度や栄養価などの価値が目減りしやすい食品の特性があるとして、原料生産から加工、流通、小売り・外食に至るフードチェーンをデジタル化して適切に管理、価値の低減を防ぐ必要性を訴えた。

米国では、食品情報をブロックチェーン技術で共有、追跡を可能にして、産地偽装防止や食中毒の原因特定に役立てる仕組みが登場していることを紹介。今後は日本でも、こうした情報基盤上で、食品の画像から成熟度や鮮度を数値化する技術を使って得られるデータを共有し、フードチェーン内での最適な温度管理の徹底に活用して鮮度を長く保持すれば食品ロス削減につながる、と語った。

事例講演(1)
AI時代の食品物流改革~トライアルグループの物流改革のパートナーとしての取り組み~

ムロオ
代表取締役社長
山下 俊一郎氏

全国のメーカーや産地と、卸・量販店などの配送センターを結ぶチルド混載便や、物流センターの運営受託をしているムロオの山下俊一郎氏は「物流は、複数の会社が協調して全体最適化を図ることが必要」と語った。

同社は、全体の物流コストを下げるため、運賃が上昇しているトラックの長距離輸送を避けるために物流センターの分散を提案した。小売り、物流などを手がけるトライアルグループに対して、福岡県の大規模物流センターの配送エリアを九州一円から北部九州に縮小。「物流は他社と競争するのではなく、協調すべき領域」として、物流センターの空いたスペースを、競合のスーパーやドラッグストア、卸事業者に利用してもらい運用改善を図る。

ムロオの自社物流センターでも、配送トラックを共用化してコスト削減を推進している。同社本社は広島・呉市。「人口が減り、物流の維持が厳しさを増す地方から、互いに協力して生き残る物流を提案していきたい」と話した。

事例講演(2)
物流省力化を目指す食品卸~変化対応の歴史と今後の展望~

三菱食品
執行役員
ロジスティクス本部長
千田 建氏

三菱食品の千田建氏は、食品流通の主導権が、卸売業から製造、小売りを経て生活者に移行してきた歴史を振り返り「卸売業はIT化や物流高度化などの変化で問屋不要論を払拭してきた」と語った。

物流センターも、地域型物流センターから、地域型と前線型物流センターの連携、特定顧客の専用物流センターへと変遷。現在は汎用、専用、多温度帯、パッキングや総菜加工などを複合した総合型センターのニーズが高まっている。同社では、労働人口減、高齢化、女性や外国人の増加を受け作業の省人化、自動化、単純化を推進。ロボットや、フォークリフトの稼働状況を監視するIoTなどを積極的に導入してきた。製・配・販連携では、製造終了商品を最終日まで欠品させずに納品する商習慣の見直しを提案。無駄な返品を削減して、2018年の「食品産業もったいない大賞」の農林水産省食料産業局長賞を受賞。「製・配・販だけでなく、同業との協調も模索したい」と述べた。

物流施設のご紹介
Landportによる食品業界へのアプローチ~食品業界向けカテゴリーマルチ型物流施設のご提案~

野村不動産
都市創造事業本部
物流事業部
事業二課長
稲葉 英毅氏

野村不動産の稲葉英毅氏は、大規模高機能型物流施設「Landport」について説明した。同シリーズは、顧客ニーズを把握して用地選定、物件コンセプトを決定。企画設計、開発、運営まで野村不動産グループで、一貫して手がける。

マルチテナント型と、専用のBTS型双方の長所を併せ持つ、同社のカテゴリーマルチ型の施設コンセプトは、食品物流で必要な冷蔵冷凍設備を見込んだ床や壁の仕様、特別高圧受変電設備等を準備することにより、入居テナント各社の初期コスト削減に貢献できる施策を展開。さらに3温度帯を盛り込むことも検討可能だ。

立地は、消費地へのアクセスのほか、雇用確保を左右する周辺労働人口も視野に選定。ロボットや自動化設備提供の研究も進め、単なる保管空間にとどまらない付加価値創出拠点を目指している。首都圏、関西・中部圏で26棟を開発・運営。22年までに33棟に増やす予定で、新規テナント募集中のランドポート習志野、越谷、上尾、岩槻(さいたま市)の4棟を紹介した。

テクノロジー講演
変革期における食品流通の自動化と輸送のスマート化

豊田自動織機
トヨタL&Fカンパニー 物流エンジニアリング部
エンジニアリング室長
熊倉 孝氏
トヨタモビリティサービス
フリート営業企画部
担当部長
黒野 英明氏

物流ソリューションのさらなる事業拡大を狙う豊田自動織機の熊倉孝氏は、物流センター自動化の今後のあり方を語った。マテリアル・ハンドリング・システムは、アイテム数や在庫量の増加に対応する拡張性と、入出荷量の増加に対応できるフレキシブル性がカギであり、複数のユニットが稼働し、1台が故障しても出荷継続が可能な仕組みが大切と説明。食品業界は物流インフラがシェアされる将来を見据える必要があると述べ、同社が買収したオランダの物流ソリューション事業会社、ファンダランデ社の技術で、増設できる棚の中を自動搬送台車が走行して搬入・搬出を行うADAPTOなどを紹介した。

トヨタモビリティサービスの黒野英明氏は、店舗や周辺道路のリアルタイムの情報提供などドライバー支援機能の提供、ピークの異なる貨物で車両をシェアする高積載効率化の仕組み構築などを紹介。CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)と呼ばれるテクノロジーを活用するため、車両の提供だけでなく、食品物流の課題解決提案に、トヨタグループ全体が連携して取り組む姿勢を示した。