マンションの管理は質を問われる時代に

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マンションを終の棲家とする人は多い。そうであれば、長く快適に安心して暮らせることが何よりも大切になる。そのためには管理組合が主体となり、管理会社としっかりパートナーシップを築いて管理の質を向上させることが必要だ。築後30年40年の成熟したマンションが急増する中で、「マンションは管理の時代に入った」と言う明海大学不動産学部の齊藤広子教授は、「今こそ、管理のプロとしての管理会社の存在感が高まっている」と強調する。

マンションは、戸建て住宅と違って基本的にワンフロアのフラットな空間なので、高齢者や幼児も安心して暮らすことができます。高いセキュリティ、使い勝手のいい共用施設等々、ほかにも魅力は多いですが、私がすごいと思うのはコミュニティ力の強さです。

それは東日本大震災のときに明らかになりました。浦安市で行った調査では、安否を確認する、備蓄物を分け合うといった助け合いの行動は、戸建て住宅よりマンションのほうが活発だったのです。全員参加の管理組合があり、自分たちでコミュニティを育てていこうという意識があるから、日常的にも声を掛け合ったり情報を共有し合ったりしています。そういう良さが非常時にも発揮されたわけです。

日本もストック社会が浸透し、マンションを終の棲家と考える人は確実に増えています。だからこそ、マンションは日頃の管理が大事になるのです。管理の行き届いていないマンションでは、安心して快適に住まうことはできませんし、資産価値も下がっていく一方になってしまいます。希望する立地で新築マンションが見つけにくくなっている今、中古マンションを選ぶ人は増えていますが、中古マンションの場合は管理こそ最大の付加価値と言えます。これからは築年数が長くなるほど、管理がしっかりしているマンションと、そうでないマンションとの間で格差がはっきりする二極分化の時代になっていくでしょう。

しかも、その管理の質を評価できる時代になっています。共有部が汚れていたり、掲示板に古いものが貼られたままだったりしたら、管理が行き届いていない証拠です。もちろん、目で見てわからないこともたくさんありますが、それを知りたければ、過去の修繕履歴や管理組合の規約、総会の議案書などを見ることもできます。不動産業者に頼めば、管理会社が管理組合の許諾を得たうえで、そうした情報を開示してくれます。情報の中身も大事ですが、それがすぐに開示されるかどうかも大事です。管理組合と管理会社がきちんとコミュニケーションを取っていれば、情報の開示もスムーズに行われるはずだからです。かねて、中古マンションは管理を買えと言われたものですが、本当にそういう時代が到来したと言えるでしょう。

ただ、管理のスタイルは決して一様ではありません。居住者同士が集うイベントに魅力を感じる人もいれば、フロントマンが手厚いコンシェルジュサービスをしてくれるところがいいという人もいます。ですから居住者それぞれのニーズをつきあわせて合意形成を図りながら、それに対応した管理を求めていく必要があります。そのためには管理組合がリードし、居住者同士がお互いを知り合う機会を設けるなどの工夫も必要でしょう。

管理に対する関心の高さから、管理会社の存在感も高まっています。主体はあくまでも管理組合ですが、管理会社はホームドクターのような存在です。何か問題が起きたとき、他のマンションではどうしているのか、法的な問題はどうなっているのか、管理組合だけでは、知識も情報もノウハウも足りません。だから豊富な経験と専門的な知識を有するプロによるアドバイスが欠かせません。自分たちが住んでいるマンションを、より快適で安心なものに育てていくには、管理会社を上手に活用すること。そのためにも管理組合は、長期的な視点で管理会社と信頼で結ばれたパートナーシップを築いていくことが大切なのです。

 

明海大学不動産学部教授 齊藤広子 大阪生まれ。筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻卒業。不動産会社に勤務した後、大阪市立大学院生活科学研究科修了。ケンブリッジ大学研究員を経て2004年から現職。専門は住まい学(住居学、住居管理学)。「住環境マネジメント~住宅地の価値をつくる」「住まい・建築のための不動産学入門」「マンション管理方式の多様化への展望」など、著書多数。不動産会社が開発する戸建て住宅街のプロデュースなども行っている