信頼の技術力+顧客体験で商売繁盛

下町工場の事例にみる製造業成長の条件

モノづくり日本を支えてきた中小製造業を取り巻く環境は厳しさを増している。成熟する経済、労働人口の減少、モノ消費からコト消費へと変化が加速する令和の時代。「いいモノを作れば売れる」「待っていればお客はやってくる」といった発想を転換し、顧客を理解して、マーケティングを考えることが、製造業にも求められている。商売繁盛に御利益があるとされる神田明神の文化交流館(東京・千代田区)で開催された「東洋経済ビジネスカンファレンス 信頼の技術力+顧客体験で商売繁盛」では、中小製造業、下町工場が、その技術力を生かすため、いかにして顧客と向き合うべきなのか、について検討した。

主催:東洋経済新報社
協賛:セールスフォース・ドットコム

基調講演
令和の時代も輝き続ける下町工場、ニッチトップになるための条件
~『下町ロケット』に学ぶ、中小企業の知財経営戦略~

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士・弁理士
鮫島 正洋

『下町ロケット』に登場する弁護士のモデルで、中小企業の知的財産(知財)戦略に詳しい弁護士の鮫島正洋氏は「開発した技術を収益化することが知財戦略の本質」と語った。技術をライセンス供与せず、自らモノを作って収益化する場合、どのマーケットに訴求するかを選ぶマーケティング、売れる製品の開発、量産体制の整備、販路開拓の4要素が必要になる。自前でカバーできなければ、他社や外部研究者らと連携して不足要素を補う。さらに、ヒット商品の後発模倣品による利益率低下を防ぐには特許を使う。ただし、特許の対象は、公知(守秘義務のない者が、その発明の技術内容を知得していること)でないことが前提なので、特許出願、技術情報公開の時期に注意。中小企業が、大市場で大企業と競合するのは難しいため「中小企業は、小さな市場を数少ない特許で独占するニッチトップを目指す」戦略を提案した。また、外部と連携する場合の契約や、特許申請のクレーム(説明文書)を適切な内容にするには、高度の専門性が求められるので、知財専門家に相談すべきと指摘。今後の日本は、中小・ベンチャーの発明・発見を、資金力のある大企業が収益化するという対等な役割分担にすることで、幅広い領域で技術集積を持つ強みを生かすべきと、オープンイノベーションによるグローバル競争力強化を訴えた。

課題解決講演
「営業」に「カイゼン」を!
~職人営業体制からの脱却~

セールスフォース・ドットコム
コマーシャル営業 第1営業本部
ストラテジック第2営業部 部長
寺本 裕一

セールスフォース・ドットコムの寺本裕一氏は、生産現場では当たり前のカイゼンを営業現場で実施するやり方を紹介した。従来、営業の業務は担当者の経験値が物を言う職人的な仕事とされてきた。しかし、雇用流動化が進むと、営業人材とともに属人的な情報・経験が失われるリスクが高まり、時間をかけて経験を蓄積させる若手育成法も機能しにくい。そこで、営業担当個人が持つ情報を会社の資産として共有、活用する仕組みが必要になるとした。寺本氏自身が実践する取り組みとして、商談中の顧客との折衝件数、新規顧客との接触件数などの行動情報、受注件数や保有案件数などのデータをシステムから把握して、営業会議での現状報告を廃止。代わりに、来月の売り上げに見込める案件が少ないなど、現状と目標が乖離したデータの「異常値」対策を会議のテーマにしている。これにより、会議では報告されにくい失注情報などもわかり、カイゼンすべきポイントも明らかになる。また、人材育成については、顧客の課題について議論ができ、複雑性の高い商材でも結果を出せるチャレンジャー(論客)タイプを育成すべきと強調。経験の浅い営業担当でも、多くの情報を得られるよう、社内情報検索や、顧客企業ごとに情報を整理するシステムの整備を提案。営業担当の武器となる情報提供の充実を訴えた。

事例講演
お客様からの問合せをフル活用したしくみ作りで売上を倍増
ー弊社セールスフォースCRMの活用事例ー

トヨックス
執行役員
海外事業統括部長
能沢 裕人

産業設備の配管用ホース・継手メーカー、トヨックスの能沢裕人氏は、顧客のベネフィットを理解し、営業提案に活用するための取り組みを紹介した。同社は2008年、顧客データを一元管理するため、カスタマイズも容易なセールスフォースを導入。顧客からの問い合わせ対応を徹底するため、問い合わせ内容をコールセンター、お客様情報室でまとめてセールスフォースに入力、各担当部門の対応状況を見える化した。さらに次の段階で、集まった顧客の声を分析。例えば、顧客が柔らかく折れないホースを求める背景に、設備の間隔を狭くして生産効率を向上させたい狙いがあるとわかれば、ほかの工場への提案営業に活用できる。また同社では、ホームページへのアクセス履歴などから、顧客が関心を持っているテーマを把握。関心テーマに合わせて、より精度の高い情報提供を行っている。こうした顧客のベネフィットを把握する取り組みの結果、セールスフォース導入5年目ごろから、代理店・販売店経由の販路以外に、顧客から自社に直接、寄せられる注文も増えた。営業効率も上がり、売り上げも順調に伸ばしている。能沢氏は「受注を待つだけでなく、メーカーも積極的にユーザーを獲得する営業、マーケティングが必要。先に全体の戦略を描くことがIT導入の成功のポイント」と語った。

特別講演
“日本のモノづくり×テクノロジー”で100年続く産業構造の変革に挑む
~モノづくり産業のポテンシャルを解放するために~

キャディ
代表取締役
加藤 勇志郎

メーカーと町工場を結び、金属加工品などの受発注プラットフォームを運営するベンチャー企業、キャディの加藤勇志郎氏は、製造業の総生産額約180兆円の3分の2を占める調達市場にイノベーションを起こす革新的なサービスを説明した。同社は、切削、板金の金属加工領域で事業を展開。メーカー側が発注したい部品の設計図をシステムで解析し、全国約160の提携町工場の能力とマッチング、即座に見積もりを算出する。町工場は、保有する加工機械や、技術によって得意領域が分かれているが、調達現場では、付き合いのあるメーカーから受注した下請け会社が、自社でできない分を外注したりするので、コスト高になる構造がある。キャディは、設計解析から、必要な加工を得意とする工場に発注。さらに、金属板などの材料を使いきれるように注文をまとめることで、材料の無駄を省く。品質保証はキャディが負い、発注側は品質を維持してコストダウンできる。一方、受注側の町工場も見積もりの手間がかからず、メーカー側の無理な要求もないので、黒字を確保して請け負うことができる。「将来は、生産管理、ファイナンスも含めた製造業のサプライチェーン全体をカバーするインフラを提供して、日本のモノづくりの可能性を引き出したい」と語った。

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