「食べても太らない人」と腸内細菌の意外な関係

中高年になるとなぜ太りやすくなるのか

たくさん食べているのに太らない人。片やいろいろなダイエットを試すも、なかなかやせられない人。自分の意志ではどうにもならないと思っていたこの「体質」に、腸内細菌が深く関わっていることが明らかになってきた。太りやすい体質を太りにくい体質に近づけることも不可能ではないという。はたしてその方法とは?

腸内細菌によって肥満が抑えられる可能性

腸内フローラの乱れが、肥満体質を生む。そんな研究が注目を集めている※1。この研究によれば、まず無菌マウス(腸内に細菌がいないマウス)を2つのグループに分け、一方にはやせている人の腸内フローラを、もう一方には太っている人の腸内フローラを移植。そして約1カ月間、同じエサと運動量で育てた。すると、やせている人から腸内フローラを移植したグループに対し、太っている人から腸内フローラを移植したグループは明らかに脂肪の量が多かったのだ。

なぜ2つのグループに違いが生まれたのか。分析の結果、やせている人の腸内フローラにいる特定の種の腸内細菌が、太っている人の腸内フローラには極端に少ないことがわかった。ではなぜその種の細菌が少ないと、太ってしまうのか。腸内細菌の機能に詳しい伊藤裕・慶應義塾大学医学部教授はこう話す。

「その細菌によって生み出されるのが、短鎖脂肪酸という物質です。この短鎖脂肪酸は、脂肪が体に吸収されにくくし、さらには脂肪の消費を促す作用があることがわかっています」

慶應義塾大学医学部
腎臓内分泌代謝内科教授
伊藤裕

つまり、やせている人の腸内フローラには、肥満を抑える作用を生み出す腸内細菌がすんでいるために太りにくいと考えられるのだ。さらに伊藤氏は、腸内細菌の「種類の多さ」も重要な要素だと言う。

「多くの人の腸内フローラを遺伝子解析したところ、腸内細菌の種類が少ない人たちのほうが肥満の人が多く、同じカロリーを摂取しても太りやすいという結果が出ました。つまり太りにくい体質であるためには、腸内に多種の腸内細菌がいること、つまりは多様性があることが重要なんです」(伊藤氏)

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多様性がある腸内フローラほど太りにくい

では腸内細菌に多様性があると、なぜ太りにくいのか。その大きな要因と考えられるのが、さまざまな細菌がいることで腸内フローラが活性化することだという。

「いい働きをする菌を善玉菌、悪い働きをする菌を悪玉菌と呼んだりもしますが、実際は善玉菌だけでは体にいいことはできないし、悪玉菌だけでも悪さができません。なぜなら腸内フローラは、特定の菌さえいればOKというのではなく、菌同士がさまざまな連携を図りながら作用しているからです。

例えば、ある細菌Aが消化できない食べ物Xというものがあります。細菌Bは食べ物Yを消化でき、Cという物質に変えます。そのCであればXを消化でき、それをZという物質に変える。そんな具合です。多様性があるほうが組織として健全かつ強靭というのは、アリやハチ、ひいては人間の社会にも通じるものがあります」(伊藤氏)

さまざまな菌がいることが「バランスの取れた腸内環境」の条件となる

とはいえ腸内フローラは、幼少期にその細菌構成の大方が決まるといわれる。太りにくい腸内フローラを手に入れようにも、大人になってからでは不可能なのではないか? ところが、腸内フローラは決して変えられないわけではないという。

「腸内細菌の種類が多いグループと少ないグループに分け、カロリーを制限した食事を6週間取ってもらいました(男性・1日1500キロカロリー、女性・1日1200キロカロリー)。すると、腸内細菌の種類が少ないグループの菌の種類が増えたんです。しかもその後、普通食に戻しても6週間くらいは菌種が多い状態が続きました※2。要は食生活を変えることで、腸内フローラを変えられるようなんです。もちろん大人になってからでは、腸内フローラを根本的にガラリと変えるのは難しいでしょう。でも、ある程度であれば、後からでも変えられる。そしてその少し変わった部分が、健康の面で大きな意味を持ちうると考えられるのです」(伊藤氏)

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生活習慣で腸内フローラは変えられる

では、腸内フローラを改善して太りにくい体質にするには、具体的にどうすればいいか。まず腸内細菌の種類を増やすために大切になるのが、やはり多様な食べ物を食べること。それにより、多くの菌種のエサが体内に入るからだ。反対に、特定のものばかりを食べる偏った食生活は、腸内フローラの多様性を損ないかねない。

また、短鎖脂肪酸を生み出す善玉菌の餌になる「食物繊維」や、善玉菌を活性化させる「発酵食品」も積極的に取りたい。発酵食品といえば身近な1つにヨーグルトがあるが、とりわけ短鎖脂肪酸を産生する善玉菌の代表である「ビフィズス菌」そのものが含まれるヨーグルト製品はぜひ活用したいところだ。

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加えて伊藤氏は、生きた菌を大量に含む「生もの」(刺し身など)を取ることも多様性のある腸内フローラに寄与すると指摘する。「生ものは腐りやすいというけど、それはなぜかといえば菌が大量についているからです。ただ、腐ってしまったものを食べると、それは腹を壊しますので、要はバランスですね」。逆に腸内フローラのバランスを乱しやすい動物性脂肪を含む食品(肉、バター、ラードなど)は控えめにしたいところだ。そして、最後に伝えたいポイントは、腸内フローラは年齢とともに劣化していくということだ。

「腸内環境は、年齢を重ねるに従って少しずつ変わっていきます。ビフィズス菌は減るし、大腸菌は増えてくる。そういう変化があると、腸管の健康が保てなくなって、さらに腸内細菌もバランスが崩れて、崩れたら余計に腸管が悪くなるという、そういう相互関係の中で『腸の老化』が起こるわけです」

中高年になって太ってしまう人が多い理由は複合的ではあるが、腸内環境の悪化も理由の1つだと考えられている。だからこそ、腸にいい食事や生活習慣を心がけたい。

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※2 Nature 500:585, 2013
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