35歳引きこもり連れ去った「支援団体」の問題点 激しい恐怖のために「五感がなくなった」

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ウェブサイトによると、同センターは、子どもの引きこもりや家庭内暴力に悩む親と契約を結び、子どもを入寮させたうえで、カウンセリングや就労支援などを実施。個人差はあるとしながらも、3カ月程度で子どもの「完全なる自立」を達成するとしている。

だが、引きこもり当事者・家族でつくる団体「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の池上正樹・広報担当理事は記者会見に同席し「引きこもり支援は本来、当事者と時間をかけて丁寧に信頼関係を結んだうえで、彼らの意思に寄り添うことが必要。にもかかわらず、暴力や心理的な支配、嘘による連れ去りが起きている」と批判した。

原告側代理人を務める望月宣武弁護士も、「暴力的な支援施設は、家族の苦悩に付け込み、数百万円単位の高額の契約を結ばせる。だが連れ去られた本人は、かえって精神状態が悪化することも多い」と述べた。

さらに、池上氏によると川崎殺傷事件、元農林水産事務次官の長男殺害事件と「引きこもり」が取り沙汰される事件が続いた後、同種の「支援団体」が、引きこもり当事者を持つ親たちへの勧誘を活発化させているという。こうした団体を「引きこもりを社会復帰させた」と好意的に取り上げるニュース番組なども現れた。

原告女性は事件後、施設を称賛するかのような報道をたびたび目にして「PTSDやうつ症状がひどくなり、薬の量が増えてしまった」と話した。

当事者を傷つける暴力的行為

女性は、地元の警察署に被害届を出そうとしたが「家族の問題でしょう」などと言われ、受理されなかった。市役所などの行政機関にも相談したが、民間の支援施設を所管する部署がないため「消費生活センター」に回されてしまった。

女性の父親(66歳)は「人権に関わる問題が、商品・サービスの契約トラブルなどと同列に扱われている。早急にこうした施設へ、法的な規制を設けてほしい」と要望した。

望月弁護士によると、引きこもり当事者らを本人の意思に反して強引に施設へ連れ去る団体は、全国に複数存在し、脱走を希望する入所者の相談も多数寄せられているという。

また脱走者らの話から、引きこもりや家庭内暴力がなくとも、親子関係が悪化したり、夫婦のどちらかが別居や離婚を望んだりした場合に、「支援団体」が契約者の話をうのみにし、対象者を連れ去るケースもあることが、明らかになってきた。

2015年、別の団体に連れ去られたとして係争中の女性(当時20代)は、貯金があり海外旅行も楽しむなど、引きこもりではなかったにもかかわらず、母親のとのいさかいが原因で被害に遭ったという。

この訴訟については9月下旬に証人尋問が行われ、団体に医療・福祉の専門家がいなかったことや、入所者の約半数が脱走していることなどが、被告側の証言によって判明した。女性は「自立支援ではなく、当事者の心を深く傷つける、暴力的行為だ」と厳しい口調で語った。

KHJは今後、当事団体などと協力して支援のガイドラインや、当事者の人権を守るための「権利宣言」を作りたいとしている。また引きこもりに関する相談は、全国にある家族会の支部や、行政の「ひきこもり地域支援センター」に連絡するよう呼び掛けている。

【連絡先】
家族会支部 https://www.khj-h.com/meeting/families-meeting-list/
ひきこもり地域支援センター https://www.khj-h.com/media-administration/administrative-services/

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