ダイキン、「重要特許を無償開放」の衝撃

「誰1人取り残さない」環境志向の新・特許戦略

特許といえば、企業にとって欠かせない知的財産。日本企業、とくに高い技術力を誇るメーカーでは、開発した技術や商品の特許を取得し、自社の事業・ブランドを守る障壁として活用する考え方が根強い。しかし今年7月、ダイキンが特定の「冷媒」を使ったエアコンに関する一部特許を、なんと全世界へ無償開放した。はたしてダイキンの“斬新な決断”の裏には、どんな狙いがあるのだろうか。

夏場の生活インフラとして私たちの快適な暮らしを支えるエアコン。その内部にあって、空気を冷やしたり暖めたりするのに欠かせない材料が冷媒だ。エアコンは室内機と室外機を結ぶ配管の中を冷媒が循環して空気中の熱を運ぶ仕組みとなっている。

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過去に冷媒として長年使用されてきた特定フロンは、オゾン層を破壊する性質を持つことが判明し、オゾン層に影響を与えない代替フロンへの切り替えが進んできた。しかし、代替フロンも万能ではなく、地球温暖化に与える影響が問題視されるようになっている。

地球温暖化による気候変動は、私たちの生活に直結する重要な問題だ。近年では酷暑や豪雨、山火事など、世界各地で気候変動の影響が目に見える形で増加している。こうした環境への影響を抑制するため、対策の必要性が世界中で叫ばれている。

異色の「特許権不行使宣言」をした理由

これまでも、1987年に採択された「モントリオール議定書(※1)」、97年に採択された「京都議定書」、2015年に採択された「パリ協定」などに準じ、世界各国で冷媒やCO2排出に関するさまざまな規制が実施されてきた。また16年にはモントリオール議定書の締約国会議で「キガリ改正」が可決、19年1月に発効することとなった。

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CO2排出抑制の目標達成には、新興国の影響も大きい

キガリ改正では、冷媒による温暖化影響を段階的に削減していくことが合意された。具体的な数値やスケジュールは途上国と先進国で異なるが、先進国は19~36年の間に、フロン類の二酸化炭素(CO2)換算による温暖化影響を11~13年比で85%、段階的に削減することが義務づけられた。

こうした流れの中で今年7月にダイキンが発表した、冷媒「HFC-32(以下、R32)」の特許権不行使宣言は衝撃的なものだった。特許は、企業の競争力の源泉となる重要な財産。それを無償開放するという判断の裏には、いったいどのような意図があるのだろうか。

同社でCSR・地球環境センター担当部長を務める山中美紀氏は、決断の狙いについてこう語る。「当社は総合空調メーカー。エアコンと冷媒の両方を開発・生産している、世界でも稀有な企業として、冷媒による環境問題とは切っても切り離せない関係にあります。当社の狙いは、R32を世界中に普及させて地球温暖化の抑制につなげること。温暖化影響の低いエアコンの普及をさらに加速させたいと考え、今回の宣言に至りました」。

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ダイキンは冷媒メーカーとして、機器メーカーとして、ステークホルダーと一体になって、複合的な視点から冷媒に関わっていく

ダイキンは、キガリ改正の発効を受けて高まる環境負荷削減のニーズをくみ、速やかな対応が望ましいと判断したわけだ。もちろんダイキンはこれまでもR32の普及を推進してきた。R32の基本特許を11年に新興国へ、15年には先進国はじめ全世界に無償開放した経緯がある。こうした動きはR32の普及に大きな役割を果たした。しかし書面による契約が必要であったため、交渉の煩雑さゆえ躊躇する他社もあり、R32の使用に二の足を踏むケースも見られた。

一方で近年、気候変動への対応が差し迫ってきており、キガリ改正の発効をきっかけに、「待ったなし」の状況となっている。また、11年以降に出願した特許についても他社の関心が高まっていたことから、新たな開放スキームを検討するに至ったのである。

※1:オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書

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