実は危険?過度な「糖質オフダイエット」の弊害 やせたとしても「不健康」では本末転倒だ
糖質オフによって食物繊維が不足する
米やパンなど炭水化物の摂取を制限することで減量効果が見込める「糖質オフダイエット」。ところが近年、その健康リスクの高さを指摘する専門家が少なくない。大腸疾患を専門とし、これまで4万件以上の大腸内視鏡検査を実施してきた松生クリニック院長・松生恒夫氏もその1人だ。
「糖質オフダイエットは、長期にわたって行った場合の効果や安全性が実証されておらず、続けることでさまざまな体の不調や疾患を呼び起こす可能性があります。実際に私のクリニックで腸の不調を訴える患者さんに聞いてみると、糖質オフダイエットを行っている、あるいは行っていたという方が少なくありません」
これらの患者は、過度な糖質オフダイエットによって大腸が不調に陥り、大腸の不調が体全体に及んでいる可能性がある(大腸の重要性はこちらを参照)。
大腸には無数の腸内細菌がすみ着き、腸内フローラを形成している。中でも善玉菌と呼ばれる腸内細菌が食物繊維をエサとして短鎖脂肪酸を産生し、その短鎖脂肪酸が体全体の健康に寄与すると考えられているのだ。
この一連の連鎖を考えるときに、上位にある食物繊維がないと、体内での好循環のメカニズムが働かなくなってしまうのだが、糖質オフダイエットが関わるのがまさにここだ。
「糖質オフダイエットは、糖質を多く含む米や小麦などの穀物を制限するのが一般的ですが、これらの食べ物には食物繊維も含まれています。ですから、必然的に食物繊維不足に陥りやすい。食物繊維が不足すると便秘などの排便障害が起こりやすくなり、腸に大きなストレスがかかります」(松生氏)
そもそも、炭水化物は糖質と食物繊維の総称。炭水化物には、食物繊維を多く含む食品もあり、炭水化物を制限すると、糖質だけでなく、食物繊維の摂取も制限されてしまうおそれがあるのだ。
加えて、高タンパク・高脂質な食生活になりやすいという問題もある。過度な糖質オフダイエットは、炭水化物を制限する代わりに、肉類などのタンパク質や脂質はいくら摂取してもOKとするものが少なくない。主食を食べないとなれば、必然的にこれらのウェートが高くなる。それにより、腸へのストレスがより大きくなるのだ。
「腸ストレスが増して腸内環境が悪化することで、大腸がんや脳梗塞、心筋梗塞といった病気のリスクが高まることがわかっています」(松生氏)
心身の健康の要である大腸に負担がかかる
近年、大腸の研究が進み、大腸が心身の健康の要となっていることが実証されつつある。それを踏まえると、大腸にストレスをかけたり、食物繊維不足で短鎖脂肪酸の産生を減らしたりする極端な糖質オフダイエットは、そうした近年の研究成果に逆行する方法ともいえるのだ。
もちろん、糖尿病などで糖質(炭水化物)制限が本当に必要とされる場合もある。しかし、そうではない人がやせるためだけに糖質を極端に制限すると、たとえそれで体重を減らせたとしても、見えないところで不健康になっている可能性もある。
では、メタボの改善や減量を実現しつつ、大腸の健康もしっかり維持するにはどうしたらいいのだろう。
「糖質をバッサリとカットするのは控えつつも、減量のためにある程度は糖分を減らす、ただしその分、不足する食物繊維をほかの食べ物で補う。そのように、うまくバランスを取ることが重要なポイントです。例えば、ご飯の量を少なくして糖質を減らしつつ、白米より食物繊維を豊富に含む麦飯を採り入れるといいでしょう」(松生氏)
行きすぎた糖質オフダイエットなどの極端な方法は、短期的には高い減量効果が見込めるかもしれないが、その分大きなリスクも伴いやすい。また長く続けることが困難だったりもする。大切なのは、自分の健康を長期的な目線で捉え、食のバランスが極端になりすぎないよう心がけること。そして、健康の要である大腸が元気になる食べ物をとること。それが「健康的にやせる」ための大きなカギといえる。