ペイパルが描くキャッシュレス決済の理想像 銀行口座対応で新たなビジネスチャンス創出
昨今「キャッシュレス決済」が注目されているが、「フィンテック」という言葉が登場する前から、ITによる決済の変革に取り組んできた企業がある。1998年に米国で創業、現在は全世界でデジタル決済サービスを展開する、ペイパルだ。
元祖フィンテック企業としてのペイパル
「フィンテックという言葉が現れたとき、ようやくわれわれのサービスを的確に説明できる言葉ができた、と思いましたね」
そう語るのは、ペイパル東京支社でカントリーマネージャーを務める瓶子昌泰氏だ。同社は1998年の創業以来、デジタル決済のイノベーションに努め、世界で2億7700万人が利用するサービスにまで成長を遂げた。日本でも1年間に1回以上利用するアクティブユーザー数は、2017年の200万人から翌18年に260万人と30%増、19年も順調に伸びている。
なぜペイパルが支持を広げているのか。それは「利便性」だけでなく「安心・安全」な決済を行えるということが大きなポイントだ。カードの個人情報を店に伝えることなく決済ができるほか、「売り手保護」「買い手保護」といった制度があり、取引を行ううえでのリスクヘッジも万全だ。
例えば、商品の送付や支払いに問題が発生した場合、一定の条件を満たせばペイパルから返金対応がなされる。顧客対応を行う窓口の設置はもちろん、AIを活用した独自の不正防止モデルで24時間モニタリングを行い、取引を守る仕組みがある。
「店舗にとっては、クレジットカードのように審査がないため、すぐに、気軽に試せます。もともと海外向け通販が中心でしたが、最近では、デジタルエンターテインメント、航空会社、ホテルなどのエリアでも導入が進んでいます」
銀行口座支払い対応が生み出す意外な効果
従来、日本で連携できるのはクレジットカードのみだったが、2018年から銀行口座での支払いにも対応。これが「カードを使いたがらない」日本市場の開拓に大きな役割を果たしている。
総務省の調査(*)によると、オンラインショッピングの決済方法(複数回答)として、「クレジットカード払い」(72.7%)が割合としては最も大きいものの、「コンビニエンスストアでの支払い」(34.0%)、「代金引換」(29.6%)など、現金で支払われている割合は決して低くないのだ。
「銀行口座対応は、カードを使わない方にもデジタル決済の利便性を提供できるうえ、加盟店にとっては、これまでリーチできていなかった潜在層の獲得にもつながります。ある加盟店では、銀行口座からの支払いが9割を超えており、しかもほとんど新規のお客様のご利用だった、という声もあります」(瓶子氏)
キャッシュレス決済戦国時代とも評される現代だが、ペイパルは創業時からの理念を今も貫く。それは、「お金のやり取りをもっと自由に、もっと安全にする」ことだ。
「キャッシュレスはあくまでも”目的”ではなく、”手段”。お金をやり取りする摩擦がなくなり、もっと自由に、 ストレスフリーに支払いができる世界を目指しています」(瓶子氏)
元祖フィンテック企業の見据えるビジョンは、決して揺らがない。
(*)出典:総務省「平成30年版 情報通信白書」