日本で決済革命が進まぬ「構造的」な理由 キャッシュレス先進国との決定的な違い

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野村資本市場研究所シニアフェロー 淵田 康之氏
世界中でキャッシュレス決済の波が広がっているが、なぜ日本はキャッシュレス「後進国」とされているのか。人手不足が進む中、現金管理や支払いにかかるコストの削減を実現するキャッシュレス化の推進は急務だ。諸外国のキャッシュレス決済の現状を踏まえつつ、日本が抱える課題とこれから進むべき道を探る。

――キャッシュレス決済のこれまでの歴史はどのようなものでしょうか。

淵田 その原点はツケ払いと銀行預金です。ツケ払いは個々の店舗が昔から独自に利便性を追求していましたし、銀行預金は勘定の記録を付け替えることで、現金を渡したのと同じ効果を持つという意味で優れていました。それから近代に入り、キャッシュレス決済が普及するきっかけとなった出来事は3つあります。1つ目は、1950年代のクレジットカードの登場。ツケ払いのように個々の店舗の仕組みに依拠するのでなく、1枚のカードが多くの店舗で使える、という点が革新的でした。2つ目は、インターネットの登場。オンラインショッピングが可能になると、オンライン上で便利かつ安全に決済する手段が求められ、さまざまなベンダーが台頭しました。そして3つ目は、スマホの登場です。スマホ決済が可能となり、配車サービスのように、スマホで利用から支払いまで完結するサービスも生まれました。

――セキュリティや安全性への懸念が、キャッシュレス決済を利用する障壁になっているともいわれています。

淵田 キャッシュレス決済が現金に比べてリスクが高いかといえば、必ずしもそうではありません。現金は紛失や盗難のリスクがありますが、スマホを落としてもロックが掛かっていますし、クレジットカードも電話1本で停止でき、不正な利用への補償制度もあります。結局、現金に慣れた人々が新しいものを導入することに抵抗があり、それを乗り越えるだけの利便性が十分に訴求されていない、ということでしょう。

また、消費者保護の観点から、統一的な法制や業界としての規律も必要です。日本ではそのような枠組みが十分ではなく、企業がそれぞれ独自の基準を設けていますが、そのクオリティーはまちまちです。理想的なのは、統一のルールに基づきつつ、それぞれが努力してより一層安全性を高めていくという状況です。

――日本でキャッシュレス決済をもっと普及させるためにはどうすればよいでしょうか。

淵田 日本が抱える大きな課題として、互換性を欠くサービスが次々と登場していることが挙げられます。解決法は2つあります。1つは、決済サービスの法制や規格を統一し、サービス間の互換性を確立すること。多種多様な決済サービスがある中でも、統一の規格があればどの店舗でも使えるようになり、より多くの人が利用するようになります。これにより、市場規模も大きくなるため、ベンダー側のコストが下がり、店舗の手数料も下げられ、導入もますます進むでしょう。

2つ目は、中国のように、少数の有力ベンダーへの集約化を早期に実現すること。この場合、ユーザーも店舗もシェアが大きい決済サービスだけに対応すれば済むようになります。そのようなベンダーは決済だけで利益を上げようとはせず、自社の他サービスを利用してもらうための「入り口」として位置づける傾向もあるため、店舗側の手数料が抑えられます。

ベンダー同士がバラバラでは普及しません。国も企業もより機動的に動き、横断的で統一的な仕組みづくりをしていくことが求められています。