人生を左右する「大腸劣化」と、その改善方法 まずは毎日の「ヨーグルト選び」から

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ビフィズス菌の電子顕微鏡写真。近年の研究で、整腸作用だけでなく全身の健康状態に影響を与えることがわかってきている
仕事もプライベートも充実させるには健康であることが第一だ。そして健康を実現するには、”要”ともいうべき器官がある。それが「大腸」だ。近年、大腸の研究が進み、その重要性に改めて注目が集まっているが、数ある器官の中で、なぜ大腸が健康を大きく左右するのか。そして、大腸をいい状態に保つにはどうすればいいか。カギとなるのは意外にも、おなじみの”ビフィズス菌”だった。

なぜ「小腸がん」はないのか

大腸の特性を知るうえで1つのフックとなるのが、大腸がんの存在だ。国立がん研究センターの統計によると、日本人の大腸がんによる死亡率は年々上がっていて、1958年と2017年とで比べると男性で約9倍、女性で約7倍にもなっている。今や大腸がんの死亡率は、がん全体の中で男性3位、女性1位(17年)という高さ。現代人は、生活スタイルの変化などから、気がつかないうちに「大腸劣化」に陥っているのかもしれない。

一方、対照的に劣化が起きにくいのが、「小腸」だ。がん・感染症センター都立駒込病院消化器内科部長で、日々、大腸疾患の診断・治療を行っている小泉浩一氏はこう話す。

「大腸がんは近年、外科手術数が胃がんを上回るほど増加しています。私どもの病院では、大腸がんの外科ならびに内視鏡手術を年間約700件行うのに対し、小腸がんは年間1、2件です」

同じ「腸」という名前が付き、隣り合っているにもかかわらず、小腸がんが希少なのに対して、大腸がんが死亡率上位にいるのはなぜなのか。

がん・感染症センター都立駒込病院
消化器内科部長
小泉浩一医師

「人が口から食べた物は食道、胃、小腸を通って大腸へ運ばれていきます。大きな違いは、小腸は栄養分を吸収しますが通り道のようなもので、大腸は食べ物が滞って腸内細菌に分解されるので食べ物という外部からの『異物』、さらには細菌(悪玉菌)による毒素にさらされている時間が長いんです。また、小腸に関しては、免疫の働きが著しく高いという特性も関係しているかもしれません」(小泉氏)

老廃物をためて排出するという、人間にとって欠かせない働きをする大腸だが、そもそも人体の構造上、不具合が起きやすく劣化が生じやすいパーツともいえる。老廃物からは体に悪影響を及ぼす毒素が発生しやすいため、大腸がんをはじめとして、潰瘍性大腸炎※1やクローン病※2などの病気にも注意が必要となる。

さらに警戒したいのは、大腸で発生した毒素は血液を通し全身に広がるということ。大腸はさまざまな体の不調や病気を呼び起こしやすいと指摘するのが、消化器内科を専門とする順天堂大学・佐藤信紘名誉教授だ。

「大腸のトラブルは便秘や下痢、大腸ポリープや大腸がんといった腸の疾患につながるだけでなく、肌荒れ、肥満、アレルギー、さらにはうつや認知症など多くの症状に関連することがわかってきています。最近ではある種の腸内細菌が糖尿病や心臓病、脳血管障害などとも関係しているらしいという研究報告も出てきています」

だからこそ、健康を維持するには、大腸をいい状態に保つことがとても重要になってくる。逆に考えれば、病気の源となりやすい器官だけに、そこをケアすることで、症状が出てからの対症療法だけでなく、症状が出る前の「予防」ができることにもなる。

※1 大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患。国が定める「指定難病」
※2 非連続性の病変を特徴とする、大腸および小腸の粘膜における慢性の炎症または潰瘍。国が定める「指定難病」

スーパー物質「短鎖脂肪酸」

では、どうすれば大腸をいい状態に保てるのか。そのカギとなるのが、「腸内細菌」の存在だ。大腸には数百種類、数十兆個にも及ぶ腸内細菌がすんでいて、そうした腸内細菌群は“腸内フローラ”と呼ばれている(「フローラ」は「花畑」の意)。

腸内フローラ内の善玉菌の働きでとくに重要なのが、スーパー物質とも呼ばれる「短鎖脂肪酸」をつくること。短鎖脂肪酸とは、炭素(6個以下)が鎖のようにつながった構造を持つ脂肪酸のことで、酢酸、酪酸、プロピオン酸などがその代表だ。

順天堂大学
佐藤信紘名誉教授

「善玉菌がつくる短鎖脂肪酸は、大腸内を弱酸性にすることで、悪玉菌やその毒素を抑制します。また大腸の上皮に作用し、水分や塩分の吸収を行い、細胞の増殖や粘液の分泌を促してバリア機能を高める。それ以外にも短鎖脂肪酸は血流を通じて全身に運ばれ、筋肉などのエネルギー源となったり、免疫機能を高めたり、代謝に影響を与え肥満を抑えたり、さらには脳を活性化することもわかっています。このように短鎖脂肪酸は、人が健康に生きるうえで非常に重要な働きを担っているんです」(佐藤氏)

実は「大腸劣化」が起こるポイントはここにある。

食生活の変化や無理なダイエットによる短鎖脂肪酸不足がそのまま劣化につながるという指摘だ。高脂肪で悪玉菌が優勢になりやすい欧米食をはじめ、糖質制限やタンパク質の過剰摂取などの偏った食生活が現代人の腸内に悪影響を及ぼし、その結果、「大腸劣化」が引き起こされているのだ。

そうであれば、「短鎖脂肪酸を多くとればいい」ということになるが、それ単体を摂取することは難しい。一方で、“ある善玉菌”によって短鎖脂肪酸が産生されることがすでにわかっている。それが「ビフィズス菌」だ。

ビフィズス菌には整腸作用や、免疫力向上・アレルギー予防、ビタミンの生成といった機能とともに、食物繊維などをエサにして短鎖脂肪酸(酢酸)を産生する働きがある。つまりは食べ物を通して食物繊維やビフィズス菌をとることによって、大腸内で短鎖脂肪酸が産生され、それが健康に寄与してくれるというわけだ。

勘違いが起きやすい「ビフィズス菌」

ここまで読んで、「ビフィズス菌が体にいいなら、ヨーグルトを食べよう!」と考える人も多いと思うが、ちょっと待ってもらいたい。あなたはビフィズス菌を乳酸菌の仲間と勘違いしていないだろうか。この2つはまったく異なる種類の菌で、ヨーグルトをつくる菌として乳酸菌はすべてのヨーグルトに入っているが、実はビフィズス菌が入っているヨーグルトは意外と少ないのだ。

そもそも乳酸菌とビフィズス菌は何が違うのか。まず、体の中で乳酸菌が作用するのは、免疫のバランスをつかさどる小腸だ。近年、免疫に効果があるとされ人気のヨーグルトがあるが、特殊な乳酸菌が小腸で働くからだと考えられている。

一方、大腸をケアしたいのであれば、ビフィズス菌を摂取すべきだろう。大腸内での乳酸菌とビフィズス菌の割合は、ビフィズス菌99.9%に対し、乳酸菌はわずか0.1%※3となっている。

そして何よりも、ビフィズス菌は短鎖脂肪酸をつくるが、乳酸菌はつくらない。つまり大腸を健康に保ちたいなら、同じヨーグルトでもビフィズス菌入りのものがよりよい選択といえるのだ。

健康に悪影響を及ぼす「大腸劣化」は食べ物に気をつければ解消できるはずのもの。大腸をケアする「大腸活」がしっかり行き届けば、何よりも大切な「健康」に近づき、仕事やプライベートをより充実させることができるだろう。そのためには、いつもの売り場から「ビフィズス菌が入ったヨーグルト」を選び出すことが、大きな一歩となる。

※3 乳酸菌をLactobacillus(乳酸桿菌)に限定した場合
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