日本が世界に誇れる「空気オタク」3人の情熱 蒸し暑い夏を救う、たった1つのこだわり

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「高温多湿」で知られる日本の夏。ジメジメ、ムシムシした夏の空気から私たちを救っている生活インフラといえば、エアコンだ。日本の高機能な空調機器はいったいどんな考えのもとに作られているのか。滋賀県にあるダイキンの開発拠点を訪ねたところ、まず何より強烈だったのが、心地よい空気づくりに心血を注ぐ開発者たちの「空気オタク」っぷりである――。

自宅のあらゆる場所に温度計と湿度計を…

空調専業メーカー・ダイキンは、業界で唯一、給水なしで加湿できる機能を持つルームエアコン「うるさら7」などが有名。まさにこれらの看板商品を担当する、同社空調生産本部の仲田貴裕氏が「空気オタク」の1人だ。

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「自宅のありとあらゆるところに温度計と湿度計を置いています」と、空気への熱いこだわりを語る。人が快適さを感じる温度・湿度を解明するべく、昼夜問わず糸口を探し続けているのだとか。「とにかく家中に置いているので、家族にあきれられています。冷凍庫に入れた湿度計は、さすがに壊れてしまいました」と苦笑する。

除湿乾燥機「カライエ」や空気清浄機を担当する同部の小西良氏もまた、自宅のさまざまな場所に粉塵(ふんじん)計を設置して数値を観察している。「空気清浄機に表示される数値を、スマホアプリから随時確認しています。どんなときにどのくらい、部屋にほこりが漂っているのかチェックするのが毎日の楽しみなんです」(小西氏)。

空調生産本部 小型RA商品グループ
グループリーダー 主任技師
岡本高宏

そんな2人を見て、「私たちはみんな、空気にこだわり抜く『空気オタク』なんですよ」と笑うのが同部の岡本高宏氏だ。岡本氏自身、クリスマスの夜にわざわざ同僚と高級ホテルに泊まり、機材を持ち込んで快適な環境とはどういうものなのかを徹底的に調べ上げたという逸話の持ち主。同部の開発者たちが顔を合わせると、自然とこうした“空気談議”に花が咲くのだという。

世界トップレベルとされる日本の夏の蒸し暑さ(下図参照)から生活者を救うべく、商品開発に日々情熱を傾けている空気オタクたち。それもそのはず、日本と他国で1年間の気候を比較すると、日本の夏の高温多湿ぶりは一目瞭然だ。時期によっては、なんとフィリピンやハワイよりも気温や湿度が高いという驚きの結果である。

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日本の7~8月は、熱帯性気候に位置するフィリピンと同等の蒸し暑さ

室内の適切な湿度の目安は「40~60%の間」とされている(東京都福祉保健局「健康・快適居住環境の指針」)が、東京がこの範囲に収まっているのは、1年のうちなんと1~2月の2カ月間だけ。一方、6~9月の平均湿度は軒並み80%近くになっており、夏場の湿度の高さがうかがえる。

これほど過ごしにくい夏に、心地よい空気をつくり出すコツはどこにあるのか。空気オタクの彼らに聞いてみると、実にはっきりとした答えが返ってきた。「いちばんのカギは、『湿度コントロール』にあります。空調の質を決めるのは『温度・湿度・気流・空気清浄』の4要素ですが、中でも、快適性に影響を与えるのが『湿度』。同じ気温でも、体感温度は湿度によって大きく変わりますから」(岡本氏)。

空調生産本部 小型RA商品グループ
仲田貴裕

気温が同じ場合、一般的に人は湿度が高いほど暑く感じ、湿度が低いほど涼しく感じる。しかしこれまでのエアコンでは、湿度をコントロールすることが難しかったのだと仲田氏は語る。

「エアコンをつけた直後は、温度と湿度がぐっと下がるので、とても涼しく感じます。しかし従来のエアコンでは、いったん設定温度に到達すると設定温度を維持する運転に切り替わり湿度はケアしなくなるため、徐々に湿度が上がってしまうのです。『エアコンって使い始めは涼しくなるけど、しばらくするとまた暑くなる……』とストレスを感じた経験がある方も多いのではないでしょうか」(仲田氏)

湿度が重要視される背景にはもう1つ、住環境の変化もある。「日本古来の木造家屋では、壁や戸に小さな隙間があり、そこから自然に部屋の湿気が抜けていきました。しかし最近は、建築技術が向上して気密性の高い住宅が増え、湿気がそのままとどまるようになってしまった。昔よりずっと、湿度コントロールの必要性が高まっているといえます」(岡本氏)。

空調生産本部 住宅用空気商品グループ グループリーダー 主任技師
小西良

昔と今では、ユーザーのニーズにも違いがある。小西氏は「エアコンが日本の市場に出始めたころは『冷たい風をしっかり体感できること』が求められていました。しかしエアコンが普及しきった今では、より自然に体感温度を変える『快適な空調』が求められています」と語る。

高気密住宅の増加、そして生活者ニーズの変化もあって、湿度コントロールの重要性は高まるばかり。そこで彼らが挑んだのは、単なる除湿・加湿にとどまらない、より高いレベルの「湿度コントロール」で快適さを追求することだった。

「運転開始から時間が経っても快適な空気を維持したい。これを目標に据えて、湿度コントロールを3段階に分けて行う機能を開発しました」(仲田氏)

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湿度コントロールを3段階に分けて行い、空気の状態に合わせて各段階を自動的に変化させる

まず運転開始直後(1段階目)は温度・湿度の両方を下げて、体感温度を下げる。そして温度が設定温度付近に達すると(2段階目)、除湿のみに移行。さらに深夜など温度が下がり湿度が高いときには、室内機に吸い込んだ空気を暖めて放出することで、温度を下げずに除湿をする(3段階目)。この3段階を自動で切り替えながら、快適性を長時間維持するという仕組みだ。

この機能は、すでに「うるさら7」などに搭載されている。「従来の技術と組み合わせることで、少ない消費電力でも十分な除湿が可能になりました」(仲田氏)。これほどこまやかで質の高い湿度コントロールは、空調専業メーカーだからこそ生み出せた技術といえよう。

AIでかなえたい「その人だけの快適さ」

自他共に認める「空気オタク」の開発者たち。彼らが生み出した湿度コントロールの技術を、さらに一歩前進させるのがAIの存在だ。

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エアコンをつけてから3時間以上経過した後に、設定を変更している人が多い

「リモコンを手にして操作するということはつまり、その温度・湿度では快適ではないということ。リモコンの操作内容にはユーザーのニーズが如実に表れると考え、最新のエアコンには、リモコン操作の内容とそのときの温度や湿度、壁の温度からの快適性を記録する機能、そしてAIを搭載しました。データを基に、その人に最適な温度や湿度をAIが学習し、快適な空調を提供するという仕組みです」(仲田氏)

湿度コントロールができるエアコンは、日本以外にも東南アジアの国々などで需要がありそうだ。

「ただ東南アジアの大半の国では、最近ようやくエアコンが普及し始めたばかり。今はまだ、冷風をしっかり感じたいというニーズが高い段階です。今後エアコンの普及率が上がるにつれて、日本のように、湿度コントロールをはじめとする快適な空調が求められていくでしょう」(小西氏)

「長年積み重ねてきた空調のノウハウ、それからグローバルな事業展開が当社の強み。これらを基に、世界各地域・各国のニーズに合わせた製品を提供していきたいと思っています」(岡本氏)

世界でも類を見ないほど高温多湿の日本で、空気オタクたちがたどり着いた空調の極意。今年もいよいよやってくる盛夏を快適に過ごす秘訣は、どうやら「湿度コントロール」にこそありそうだ。

心地よさを長続きさせる、ダイキンならではの技術

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