紳士服地に婦人服ブランドを付けて売り込め!
商標権取得で広がる総合商社のブランドビジネス
伊藤忠商事
商品の輸入ビジネスをしているだけでは商社の立場は弱い。需給関係に振り回され、口銭(手数料)を値切られ、中間業者を省く「中抜き」で飛ばされる憂き目に遭うこともしばしばだ。1970年代後半、伊藤忠商事の繊維部門で、英国、イタリアからオーダーメイド紳士服用の毛織物を輸入する部隊は、いかに独自の付加価値を付けて主導権を握るか、頭を悩ませていた。
ある日の老舗テーラーの受注会。店主とお客さんが世間話をする脇で、お客さんの妻や娘が服地の品定めをしている。会場にいた商社マンがそのことに気付いた。「購買意思決定権を握っているのは女性である」――それが伊藤忠ブランドビジネスのきっかけになった。
女性の目を意識した紳士服地のマーケティング戦略として始まったのが、紳士服地の輸入毛織物に、パリやミラノで活躍する有名な婦人服デザイナーのブランド名を付けるというやり方だった。第一号はフランスのイヴ・サンローラン。このブランド戦略が、他社の追随を許さない付加価値となる。毛織物メーカーから直接買い付けるのではなく、デザイナーと共同開発したブランド服地をOEM生産することで、メーカーに品質、デザイン、価格を競わせることもでき、商社側が主導権を握れるようになった。