ダイキン「新工場のIoT化」に熱心な理由 第4次産業革命で勝ち残るのは誰だ

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生産ラインのすぐ横に設置された「工場IoTプロジェクトセンター」(ダイキン 堺製作所 臨海工場)
このほどダイキンは、国内で25年ぶりとなる新工場を大阪・堺に稼働させた。ビル用マルチエアコンを生産する新工場では、さまざまなモノがインターネットにつながるIoTを活用。顧客のニーズに応じた受注生産品を大量につくるマスカスタマイズ生産ができる体制を整えた。今後は、こうしたものづくりのやり方を根本から変える第4次産業革命の波に乗れるかどうかが、この先も競争力を持った企業でいられるかどうかの分かれ目になる。

IoTでものづくりが劇的に変わる

もはやIoTという言葉を聞いたことがないという人はいないだろう。IoT(Internet of Things)とは、一言で言えばパソコンやスマホといった情報通信機器のみならず、身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながること。それによって、モノ同士が情報を共有、連携して相互に制御する仕組みを指す。

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このIoTが、ものづくりの世界を大きく変えようとしている。これまで過去3回にわたって起きた産業革命は、いずれも社会に大きな変革をもたらした。蒸気機関の発明によって機械化を実現した第1次産業革命、電力によって大量生産が可能になった第2次産業革命、コンピュータによって機械の自動化が図られた第3次産業革命――それに続く第4次産業革命の主役の一つがIoTというわけだ。

産業構造が大きく変わろうとする中で、IoTをはじめとする情報技術分野が製造業の新たな競争ドメインになると見込まれている。それを見据えて、ドイツは「Industry4.0」、米国は「Industrial Internet Consortium」、中国は「中国製造2025」といったように国を挙げて産業政策を掲げ、ビジネスモデルの再構築を加速している。その波に乗り遅れれば、いま競争力を発揮している企業であっても生き残りは難しいかもしれない。

では、IoTによってものづくりはどう変わるのか。ダイキンの新工場の中身を知ると、そのインパクトの大きさが見えてくる。

新工場ではビル用マルチエアコン「VRV」を生産

今回、ダイキンが大阪・堺に稼働させたのは、国内シェア4割超のビル用マルチエアコン「VRV」、年間6万台の生産を担う堺製作所 臨海工場だ。ビル用マルチエアコンとは、1台の室外機と複数の室内機を接続することが可能な業務用エアコン。オフィスフロアなど広い空間を効率よく快適に空調できるのが特長で、ダイキンがグローバルで普及を目指す主力商品だ。

ここでは、すべてのモノがネットにつながるIoTの技術を取り入れ、顧客ニーズに応じてそれぞれの納入物件に合わせて仕様を変えた受注生産品を大量に生産するマスカスタマイズ生産を目指している。

パレットにIDカードを取り付け、1台ずつ異なる仕様の製品を1本のラインでつくり上げる

同一の製品を大量に生産するのが一般的な工場の生産ライン。しかし、この工場では、異なる仕様の製品をたった1本の生産ラインで、それも流れ作業で組み立てているのだ。

こうしたマスカスタマイズ生産を可能にしているのが、生産ラインを流れるパレットに内蔵されたIDカード。IDカードには機種仕様などが記録されており、その情報を基に生産ラインに作業指示が出され、製品が組み立てられるというわけである。

また、リアルタイムで生産状況を把握できるよう生産ラインにセンサーやカメラが取り付けられているのも新しい光景だ。

それらの情報すべてを「工場IoTプロジェクトセンター」に集約。生産状況の見える化を図るとともに分析を行って、設備の故障などの異常、生産の遅れを事前に検知する体制を整えている。生産ラインのすぐ横に「工場IoTプロジェクトセンター」を設置し、すぐに現場にフィードバックして改善できるのがポイントだ。ダイキンは、将来的に海外も含めた全生産拠点の生産設備をネットワークにつないで稼働データを収集。グローバル生産の全体最適をリアルタイムで実現することを目指している。

新工場で安定して一つひとつ仕様の異なる受注生産品を効率的に大量生産できる体制を整え、納期も6割短縮したことは、ダイキンにとって大きな飛躍と言える。もともとエアコンは、気候や建物の大きさなど、設置状況に応じてユーザーのニーズが大きく異なる製品だからだ。

その個別受注品の大量生産に成功したとなれば、多くのユーザーに魅力的な製品を届けることができるようになる。そうなれば、ビル用マルチエアコンを100%個別受注品にするという理想を現実に変えることも夢ではなくなる。

マザー工場として最先端のものづくりを実現

ほかにも、新工場には最新の生産技術を導入している。その一つが、生産設備のモジュール化だ。

工程ごとに生産設備がモジュール化されており、「まるでブロックを組み立てるように」それぞれの生産設備をつなぎ合わせて生産ラインをつくることができる。新たに工場を立ち上げるときも、従来の半分の期間で生産ラインを構築することが可能で、生産規模にあわせて設備を増減すれば柔軟にライン編成を行えるのが最大のメリットだ。

エアコンは、猛暑など、その時々の気候によって需要が大きく変動するため、ダイキンはタイムリーに対応できるよう、原則的に市場に近いところで生産し、短納期で製品を納入する市場最寄化戦略をとっている。グローバルでさらなる事業拡大を目指し、新たな生産拠点の設立を進めるダイキンにとって、生産設備のモジュール化は非常に重要な取り組みなのである。

今後もダイキンはIoTの急速な進歩をチャンスととらえ、空調事業の成長を加速していく考えだ。「工場のIoT化」は、ほんのスタートにすぎないということだろう。実際、製品開発においてもIoT技術を活用することを見越して、情報技術系の人材採用を拡大したばかりだ。この先、10年後、20年後も空調のリーディングカンパニーであるために、ダイキンの挑戦は続く。

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