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壇蜜×博報堂が暴く、業界の「ウラ側」とは 若手転職組の飾らぬ「本音」から見えた将来像

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大学で教職課程を学び、調理師や葬儀関係の免許を取得したにもかかわらず、さまざまな職を転々とし「働くことに意義が見いだせず暗澹とした20代」を過ごした壇蜜さん。今やその美貌と柔らかなトークで人々に癒やしを与える一方、文筆家や女優としても活躍する多才さを見せる。一方、転職を経て博報堂で活躍の場を見つけた久場勇輝さんと垂水友紀さん。3人とも仕事や目標に悩んだ20代を抜け、自分の力を最大限生かせるステージを得た30代だ。「“できないかも?”を可能に変える環境」と、それを叶える「チームワーク」の力。メディアの裏側も知り尽くした3人だからこそ、行き着いた仕事論とは……。壇蜜さんの「とっておきの秘策」も含めた、スペシャル鼎談をお届けする。

自分の力不足を痛感した20代

—— 久場さんと垂水さんは2人とも、新卒から広告会社に就職。経験を積んでから博報堂に転職して活躍されていますが、今はどのような業務を担当されていますか?

久場勇輝氏(以下、久場):私は、新卒でインターネット広告を中心に扱う広告会社に入りました。課題解決がデジタル中心でしたので、クライアントが抱える課題に対して、もっとクリエイティブやマスコミュニケーションを用いて課題解決の幅を広げたいと思い、博報堂に転職しました。
 インターネット広告は、クリックしてくれた人や、商品を購入してくれた人の数が具体的に分かりますが、比較すると成果を可視化しにくい屋外広告や雑誌、テレビなどといったマス広告、さらにはクリエイティブと掛け算が必要ですし、博報堂ならそれができると感じています。

垂水友紀
/博報堂 第一プラニング局所属。33歳。大学卒業後、2007年に広告会社に入社し、コミュニケーション戦略からメディア戦略まで幅広くマーケティングを担当。16年に博報堂に転職。前職でのマーケターとしての経験を存分に生かしながら、「広告の価値を信じて」日々奮闘している

垂水友紀氏(以下、垂水):私も、前職も広告会社でした。元はコピーライター志望でこの業界に入ったのですが、現在担当している職種はマーケティングです。市場調査をして、どういう人達がどんな気持ちでその商品を買っているのか、などを分析しながら広告戦略を作っていく仕事は面白いですね。前職では、1週間先のイベントや宣伝のことだけ一心不乱に準備する状態でしたが、もっと経営戦略やブランド全体をクライアントと一緒に考えたいと思い、博報堂にきました。

壇蜜さん(以下、壇蜜):転職って「そうだ、転職しよう〜」って思って、すぐできるものなんですか?

久場:そうですね。博報堂では、持っている力や経験、即戦力になれるかどうかが重視されていると思います。

垂水:はい。新卒も転職者も面白い経験を持っている人が多くて、趣味や好きな事を突き詰めて熱く語る人が多いです。

—— 壇蜜さんは、学生時代に教職課程を学ばれていたり、大学卒業後も調理や葬儀の専門学校に通い資格を取っていたりと、多様な経験をお持ちです。いろいろな世界に挑戦してきた理由を教えていただけますか?

壇蜜:私、大学生の時に就職活動はしたのですが、就職できなかったんです。就職氷河期で……。

垂水:どんなところを目指されていたんですか?

壇蜜:何も目指してなかったんです。なんとなく自分は就職するのだろうと思っているだけで、ビジョンも何もなかったので、当然ながらどこも採ってくれなかったですよ。あれこれ面白そうだと思うものもどんどんと分からなくなってきちゃって。それで親に泣きついて専門学校に行って調理師の免許を取りました。でも、働きたくないのに免許を取ろうとしている時点で矛盾だらけ。専門学校のつてで就職したり、その後別の専門学校に

壇蜜
/タレント。1980年生まれ、秋田県出身。大学で教職課程を学び、卒業後には専門学校で調理師や葬儀関連の資格を取って働くなど、幅広い才能を持つ。29歳でグラビアデビューして以降、テレビや雑誌などさまざまなメディアで活躍している。近著に『噂は噂』(文春文庫、2018年1月4日発売)がある

行くために親の手前、契約社員になったり、今思えば、当時、なにも楽しみがありませんでした。

私は、ずっと誰にも見向きされない野良犬みたいな人生から、最近ようやっと客引きパンダになってきたような感じです。本来は働くのに向いていない、働きたくない人間だって、20代半ばで気付いたんです。働くこととか、人から感謝されることに対して、まったく価値が見いだせない人間なんだなって。私の20代は、自分の協調性のなさとか、働くのに向いていないという事実を、これでもかってくらい思い知らされた時代でした。

「無理かも」を可能にするチームワーク

壇蜜: 29歳で、成り行きで水商売の世界に入り、その後縁あって芸能界に入ることになりました。そこからようやく自活できるようになり、本当の仕事のやりがいとか、ファンが増えることの嬉しさを感じるようになったんです。それまでずっと何にもチャレンジせず、どうせ就職氷河期の生まれだからもういいやって、可能性を自分で潰してたんですよね。自分を奮いたたせることができなかったんです。大学を卒業してから紆余曲折ありましたが、結局は私、精神的にも肉体的にも根っからのガテン系みたいです。

—— でも、いまや芸能界にも居場所を確保し、たくさんのファンもいらっしゃいます。

壇蜜:居場所は、後から振り返らないと分からないものだと思います。でもこのお仕事は、自分ひとりでやるものではない。衣装もメイクも、マネジメントも全部分担業だってわかった瞬間、私は人間を下りたというか(笑)。私は身ひとつで稼げばいいだけだ! と目の前が開けて、気が楽になったんです。

—— チームワークでお仕事されるほうが向いていらっしゃるんですね。

壇蜜:そうだと思います。グラビア撮影でも、テレビ番組の収録でも、必ずチームでやりますよね。1人ではないのです。

久場:“チームで作る”という点は我々にも強く共通しています。たとえばマーケティングプラナーの人がいて、クリエイティブがいて、その先にはコンテの絵を描く人やカメラマンがいて、さらに納品した後はテレビCMを流してくれる方がいて……。その中で、自分が「何か価値をプラスできるように」できることをやるだけで必死ですね。

壇蜜:そういうふうに、誰がどこで何の仕事をしているか見えるのは大事ですよね。以前は、私が作ったこの和菓子はどこの誰のもとへ行くんだろう? って、腑に落ちない部分があったんです。自分がチームの一員として仕事をし、価値を生み出しているという実感を、この仕事を通してやっと得られるようになったんです。

—— 同じ業界内で転職をされていますが、転職前後で変わったことはありますか?

久場勇輝
/博報堂 営業局所属。30歳。大学卒業後、2010年にデジタル系広告会社に入社。13年に博報堂に転職。主にデジタル広告を中心に製薬会社、通信会社などを担当してきた。クライアントの課題を解決するべく、積極的にデジタル化を提案・推進するなど、大きな推進力を発揮している

久場:前職で専門的にデジタル分野をやっていたおかげで、今はそれを得意分野にできています。博報堂にはさまざまな分野のプロフェッショナルがたくさんいるので、表現の自由度が増し、デジタルだけでなく「表現の掛け算」ができるようになりました。たとえば、当初提案していたWEBの動画広告をクライアントに気に入っていただいて、リアル店舗でも、テレビCMとしても流すことになり、そこから売上に繋がったことがありました。こういう企みをしたいと思った際に、各分野の優秀な人材に相談して能力を掛け合わせることで、コミュニケーションの可能性が広がり、加速していく。これが醍醐味のひとつであると思っています。

—— 久場さんは今30歳、垂水さんは33歳。博報堂では、若い社員にもどんどんチャンスを与えられるんですね。

垂水:はい。私も、周囲に刺激を受けた体験はたくさんあります。自分がやりたいことを口に出して伝えると、みんなちゃんと理解してくれるんです。「できたらいいよね」と夢物語で終わっていた話も、博報堂では「どうやったらできるか」をみんなで前向きに考え、具体化していく。それからコミュニケーション能力も高い人が多いので、転職してきた、背景の違う人の意見もすぐに聞きとって、良い部分を拾ってくれます。

久場:そうですね。成長を後押ししてくれる文化があるように感じます。

生活者と一緒に作り上げる「水戸黄門」メソッド

—— 壇蜜さんは、テレビ番組の収録などで初対面の方と一緒になるのが日常茶飯事だと思いますが、気をつけていらっしゃることはありますか?

壇蜜:やはり、「本音で話そう」と言っても、テレビの場ではみんなできちんとわきまえて話を進めることです。「答え」は、あえて言わない。結論から言ってはいけないのがテレビの現場なんですよ。いかに結論を探し出して、その過程を生活者に見せるか。結論ではなく、過程が勝負です。

久場:そういう生活者に寄り添う姿勢が、すごく勉強になりますね。WEB動画などの広告は、ソーシャルサービスなどを介してすぐに反響が出ます。だからこそあえて突っ込みどころを残して、生活者と一緒に作り上げていく。この点は似ていますね。

壇蜜:日本人はみんな、いくつになっても水戸黄門が好きなんですよ。見どころを残しつつ、マクラとオチがしっかりあり、それでいて分かりやすい。

垂水:その生活者心理、壇蜜さんにもっと教えていただきたいです!

壇蜜:その「過程と結果をしっかり見せる」広告は、すごく注目されますよね。みんなが困っていることに対して、解決策とその過程をちゃんと見せる。

—— そうした、人々の心理について考えることは多いのでしょうか?

壇蜜:はい。みんな何に怒っているんだろう? 何なら許せるんだろう? 何に興味があるんだろう? とかいうことはよく考えます。風呂で妄想するんです(笑)。新聞の川柳欄もよく読むんですけど、川柳のトピックはだいたい怒りから来ています。

垂水:面白いところをご覧になりますね。

壇蜜:みんな「すぐ」解決したいんですよね。すぐ頭良くなりたい、すぐ片付けたい、すぐ痩せたい……。無理なのに(笑)。時間をかけることをよしとしない風潮がありますよね。

垂水:仕事に関しては、メリハリをつけて誰でもできる仕事にはしたくないと思いながらやっています。当たり前の仕事ももちろんやりつつ、自分しかできないことにもしっかりと時間を割く、という姿勢を大事にしたい。会社全体にもその風土があると感じています。

久場:壇蜜さんは代わりがいない存在だと思うのですが、我々は、クライアントへの価値を生み出せずにいると、必要とされなくなる危機感があります。だからこそ、もっとクライアントへできること、デジタルやマス領域に閉じない統合的なコミュニケーション設計を考えるようにしています。

期待に応えて、さらに予想を裏切るモノづくり

—— 壇蜜さんは、お仕事に対してどんなスタンスで臨まれていますか?

壇蜜:1つひとつの仕事をきちんとやって、次につなげていくことが大事だと思っています。仕事前には必ず打ち合わせがありますが、その内容に加えて事前に調べたりもします。実は、本番よりも準備のほうが大事ですよね。何にでも準備や練習があって、初めてやっと人にお見せできるものが出来上がります。

垂水:仕事でも事前準備なしでバタバタ進んでしまうと、自分が必要なくなってしまうのではという危機感はいつも感じます。特にWEB広告の世界では、広告に対する消費者の反応がすぐに数字で出てきます。

壇蜜:時代の風潮もありますよね。

垂水:私は「広告の力」を信じているので、広告を打ったらその分はっきりと効果が出てほしいと願っています。そのための戦略を考え、思い描いたような結果が出なければ反省して、また考えますね。

—— 広告にはクライアントの目指す方向や意図があると思いますが、そこに独自性を出すためにはどんな工夫をされているのですか?

垂水:私は、いつも最低2案出すことにしています。クライアントが求めていることに真正面から応えた案と、それにプラスアルファのアイデアを足した案。それぞれ違った良さがあると思うので、説明して先方に決めていただきます。

壇蜜:「期待に応えて、予想を裏切る」ということですね。

垂水:はい、そうありたいですね。時々、考えすぎて「あれ、このアイデアって普通じゃないのか?」と悩み始めることもあります。

3人:考えすぎて一周回っちゃう(笑)。

壇蜜:そういう意味では、実は私は「我を出しにくい」仕事なんです。やはりイメージを売っているので、それに反することはしません。でも、イメージや求められるものも刻一刻と時代に合わせて変わっていくので、マネジャーと話し合いながら考えていかないといけないと感じています。

—— これからの転職希望者には、どんなスキルが求められていると感じますか?

久場:よく言われることですが、既存の枠組みにとらわれない人です。今までにないコミュニケーション方法や、事例のないことに前向きに挑戦していく姿勢が必要です。博報堂には、その心意気に応えてくれる仲間や環境があるので楽しめるし、可能性も広がると思います。

垂水:私は自分のアイデアを世の中に出そうとする力が必要だと思います。クライアント、世の中の流れ、出したいイメージなど、さまざまな要素を汲んで形にし世の中に出していくには、交渉力や粘り強さ、自分の思いを持ち続ける力などがいると思います。

壇蜜:「自分の思いを持ち続ける」って大切ですよね。他の人の意見に流されるような誘惑は、世の中にいっぱいありますから。

—— 最後に、今後のみなさんの目標を教えてください。

垂水:1つは、世界でも流れるようなテレビCMを作ったり、広告戦略を考えてみたいです。日本で実施したものの反響を受けて、海外へ広がっていけば一番良いですね。もう1つは、長年続けているバスケットボールの経験を生かして、スポーツ関連の仕事をしたいですね。

久場:実は、私の祖父も父も広告マンでした。私も、クライアントの成果と向き合うだけでなく、広告営業というビジネスプロデューサーとしてのキャリアを、新しく作り出したいと思っています。

壇蜜:私の目標は一貫していて、今のお仕事でちゃんと生活できるようにしていくこと。そのためには、健康でいることがまず不可欠ですね。それから壇蜜という商売に、責任を持てる人間でありたいです。正論を振りかざしたり批判をするのは簡単ですけど、そこで私なりに考えたことを消費者に向けてきちんと伝えていく。この仕事は運が大事ですが、その運は仲間のおかげで成り立っている。一方、「壇蜜」という商売の先頭に立てるのは私だけ。仲間、消費者、私の3者の関係を大切にしていきたいと思っています。

久場:お仕事へのスタンスや生活者への目線は、壇蜜さんも我々と一緒なんですね!

壇蜜:最後にお二人に、30代だけに通じる、とっておきの「お仕事の秘策」を教えますね。

久場垂水何でしょうか?!

壇蜜:話を聞いたら、2割知らないふりをする。そして聞いて「勉強になります」と伝える。コミュニケーションが円滑にいきます。

久場垂水おおー! すぐ使います!

Styling:奥田ひろ子 / Hair&Make:カツヒロ

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