創業245年の老舗が決断したアメックス導入 「入るを量りて、出ずるを制す」の実現へ
全営業マンなど正社員の半数に導入
2017年で創業245年、みそ、しょうゆの製造を発祥とする愛知の老舗イチビキ。現在は祖業に加え、めんつゆ、鍋つゆ、おこわ、惣菜などに商品群を拡大し、年商235億円(2017年3月期)、従業員600名(正社員225名)の食品メーカーに変化を遂げた。株式会社設立から9代目の社長を務める中村光一郎氏は次のように語る。
「われわれは強みである発酵技術に新しい技術を加え、品質第一、創意工夫をモットーに商品開発することで変化してきました。つねにお客様志向を貫き、より多くのお客様に信頼される企業の実現を目指し、日々やるべきことに愚直に取り組んでいます」
そんな中村氏の会社経営における信条の一つが「入るを量りて、出ずるを制す」ということ。売り上げを最大化しつつ、経費などの支出をなるべく抑えていくという意味だが、この言葉を実現するためには、大きな課題があった。
「きちんとした経費管理を指向すればするほど、その作業自体が大きなコストになっていくのです。そのため、人手を抑えコストを削減するとともに、短時間で、正確に経費精算できる仕組みづくりが必要となっていました」(中村氏、以下同)
そこで考えたのがコーポレート・カードの導入だった。
「営業マンは出張旅費やサンプルの購入費、打ち合わせや会食などの交際費が必要になります。これまでは、営業マンが個人で代金を立て替え、経費明細と領収書を経理に提出するのが手順でした。そのため、営業マンは都度経費計算をして、上長の確認を経て、その都度、経理部門が処理しなければならなかったのです」
業務改善で付加価値業務へシフト
コーポレート・カードと一口に言っても、さまざまな企業のさまざまなサービスがある。その中でもイチビキが選んだのがアメリカン・エキスプレスの「コーポレート・メンバーシップ・リワード(R)・プログラム」だった。これはカードの各支払いで獲得したポイントを、企業単位で貯められるアメリカン・エキスプレス独自のプログラムとなっている。
「このプログラムの一番のメリットは、獲得したポイントをカード利用後の代金の支払いに充当でき、経費削減につながることです。有効期限もなく、ゆっくり貯めて会社の別の用途に使えたりするというメリットもあります」
2017年4月から本社部門の一部社員にアメリカン・エキスプレスのコーポレート・カードを試験導入し、9月から全営業マン約70名ほか、商品開発部門の一部社員なども使えるようになり、正社員の半数近くとなる約100名に導入されることになった。
「本格導入後、1カ月でカードの利用件数が約1100件ありましたが、以前はそのすべてを人手で会計仕訳けしなければなりませんでした。しかし、今では経理関連部門の残業時間を軽減できたり、空いた時間を別の仕事に充てることができたりするなど、人手だけでなく時間的に考えても大きなコストダウンができたと考えています」
これには、クラウド型経費精算システム「楽楽精算」との連携機能が大きな役割を果たしている。ミスも発生しがちで煩雑な手作業での経費処理を、申請から承認、支払い処理のすべてにおいて自動化し、時間やコストを大幅に圧縮できるのだ。交通費や出張費などの支払いデータについても、自動的に会社の会計システムと連動することで、本社・支店間の現金管理も時間をかけずに済むようになったという。
「たとえば、営業部門の事業所長の仕事の一つである現金管理は、直接銀行に出向かなければならず、非常に負担になっていました。そうした手間をカードでサポートすることで、本来の仕事である営業活動により時間を割くことができるようになりました」
社員一人ひとりに会社全体の収益管理の感覚を
ウェブ上で経費の分析用レポートを作成するサービス「@Work」を使えば、各社員の経費明細を一目で確認できる。管理できるだけでなく、いつどこで経費を使ったのか。時系列で使用状況を可視化できるようになった。だが、中村氏はそうしたガバナンスの強化だけを望んでいるわけではない。
「営業マンに、会社側の経費精算が面倒だからカードを渡したというわけではありません。私はコーポレート・カードを持つことで、営業マン自身に会社全体の収益管理の感覚を持ってもらいたいと思っています。そうして社員一人ひとりが支出に責任感を持つことで、自分の仕事に対する意識をさらに高めてほしい。社員にカードを持たせるということは、それだけ彼らを会社が信用しているということですから」
コーポレート・カードは、ある意味で、会社の財布を渡していることと同義だ。
「もし自分が一つ上のマネジャーになったらどう思うか。工場長になったら、役員になったら。つねに一段高い目線で、会社全体のことを考えられる社員になってほしいと思っています」
一人ひとりの社員に経営感覚を持たせてこそ、会社は全体最適化されていく。
「経営感覚を持った社員をたくさん育てていきたい。そのためにコーポレート・カードの導入は効果がある。悩むならやったほうがいい。そう思っています」
イチビキ株式会社
安永元年(1772年)に創業し、みそ・たまりしょうゆの製造を開始。江戸時代から愛知、岐阜、三重の一部では、たまりと豆味噌の文化があり、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といった戦国武将たちは栄養価が高い豆味噌を好んで食していた。家康は天下統一を成し遂げた後も、豆味噌を戦略物資としてとらえていたため、江戸に広めることをしなかったという。同社はその後、明治41年に中村式醤油麹製造法、大正3年には味噌溜醤油製麹法の特許を取得。同8年には大津屋株式会社を設立し、昭和36年にイチビキ株式会社に社名変更した。主力商品はみそ、しょうゆのほか、めんつゆ、鍋つゆ、塩糀などの調味料、さらに、あま酒、大豆加工商品、米関連商品、惣菜なども展開している。資本金3億9000万円、2017年3月期の売上高235億円、従業員数600名(正社員225名)。本社は名古屋市熱田区。~「中堅企業調査レポート2017」の結果から~
アメリカン・エキスプレスは、中堅企業の課題や将来への取り組みの実態を把握すべく、日本の中堅企業※への意識調査を毎年実施している。321社に行った調査結果からは、労働人口不足に対処すべく、真摯に働き方改革に取り組み、従業員に柔軟な働き方を認めている中堅企業の姿が浮かび上がってくる。
※年間の売上規模が約5億円以上、250億円未満の企業