防災は“備災・減災”の時代へ
――風化をさせずに、災害リスクに対するモチベーションを維持する方法はありますか?
渡辺 風化は当たり前と言わざるをえません。われわれのような防災・危機管理分野を職業にしている人であれば別ですが、一般国民の災害リスクに備えるというモチベーションが右肩下がりになるのは当然です。けれど、日本は地震国であり火山国であることを忘れてはなりません。災害リスクに対するモチベーションをある一定水準より下げてはならないはずです。
こうした災害に対する意識を世論調査のようなアンケートで計測して、下がってきたらアラームを出して上げる、もしくは横ばいに保つといった仕組みをつくるのもいいですよね。また、いまは9月1日の防災の日をはじめ、1月17日の防災とボランティアの日と、そして3月11日、さらに各自治体にも防災に関連する日があります。そのうちの1回でもいいから家庭内備蓄、企業内備蓄を見直す日とメモリアルにしてうまく防災にフィットさせるべきです。
BCPの第一義は従業員、お客様の命を守ること
――3・11後、多くの企業がBCPの作成にも取り組みました。
渡辺 企業は脅迫の論理で防災を実施しています。利益重視であり、脅迫があるからやるけど、いつ起きるかわからないものに対して長続きさせることは苦手です。企業内備蓄はもちろんですが、BCPも本番に役に立たせるにはメンテナンスが必要であり、1年に1回見直すことをお勧めしています。
それもそんなに難しいことではないでしょう。BCPすなわち事業継続計画という名前が、本来の目的をとらえ切れていないと私は考えていますが、企業としてまず従業員、お客様の命を守ることが第一義です。もし守ることができなければ社会からどんな批判を浴びるか計り知れない。震災後も企業として成長を続けたいのなら、まずは従業員、お客様の命を守ることを最優先に考え、BCPをつくらなければなりません。
1992年、バハマ、フロリダ、ルイジアナ州と広範囲を襲った「ハリケーン・アンドリュー」をご記憶でしょうか。この時、あるローカル放送局の災害対応で興味深いことがありました。他の地域に支援を頼んだのですが、放送機材や報道スタッフの応援ではなく、現場にまず呼んだのは大工だったのです。従業員の家の安全を確保するためなのですが、まずは生活基盤の安全を確保してからビジネスに注力してもらおうというわけです。したたかではあるけれども、企業の理にかなっているでしょう。こういう姿勢は、なかなか日本企業には見られませんよね。また日本特有の産業のピラミッド構造にも留意する必要があります。本社だけでなく関連企業、下請け、孫請け企業の従業員の命を守ることも含めたBCPをつくらなければ何の意味もありません。
もっと言えば、地震の活動期に入った日本において、大きな地震が立て続けにおきることを想定して生きる、それをベースにおいた事業計画をつくったほうがいいと言っても過言ではありません。常に隣り合わせの危機を意識しながら、生き残るために、防ぐことのできない災いに備えてほしいと考えています。