システムの信頼性を担保する新たな常識 AI時代のテスティング新基準とは

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解決策
テスティングサービスの現在と今後の展望

下野隆資氏/アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 テクノロジーアーキテクチャグループ シニア・マネジャー

アクセンチュアの下野隆資氏は、AIの登場や企業のバリューチェーンの広がりに対する品質保証など、次世代のテスティングを見据え、今こそ現在のテスティングを見直すべきとして、3つのテーマで現在のテスティングの事例や課題を紹介した。

1つ目は、テスターの役割が変わり、下流工程での品質保証から上流工程の品質作り込みにもかかわるべきという、Shift Quality Leftのアプローチだ。昨年も同テーマでテスターの新しい役割を紹介したが、今年は同アプローチを実践して気づいた改善ポイントを紹介した。上流工程で品質を作り込もうとしても、そもそも品質保証の鑑とすべき現行アーキテクチャや設計文書がそろっていないケースが多く、十分に効果が得られないことがあった。そのため、さらに前段の構想策定段階において同社のリバースエンジニアリングアプローチやコンサルティングを行って現状を可視化しつつ、ステークホルダーの合意形成に基づいた全体テスト戦略を明らかにすることが重要と訴えた。

2つ目は、新しいテクノロジーの取り込みだ。テスト自動化というと画面操作テストの自動化を真っ先に思い浮かべるが、それ以外にもインターフェースの仮想化やデータベース管理の自動化など、テストを効率化できるさまざまなテクノロジーが登場しているという。それらの自動化活用事例が紹介された。たとえば画面操作テストでは、操作モジュールとテストコンディションを結びつけ、繰り返される仕様変更にも柔軟に対応でき、テストを継続的に自動化できる仕組みを説明。テストデータ管理では、データ移送に時間がかかる課題を解決するため、データ仮想化を活用することを提案した。同様に、外部システムとの連携テストでも、テストに加われない外部システムを仮想化インターフェースに置き換えることで、リアリティのあるテストを実現できるとした。テスト実行管理では以前より標準化していた14個のメトリクス情報をデジタル管理し、アナリティックスやAIを活用した高度な自動化への取り組みに言及した。

3つ目は、これらの新しいテクノロジーを組み合わせたテストのフルオートメーション化だ。同社のDevOpsプラットフォームを中心として、さまざまなテスト自動化ソリューションを連携させ、資源管理、コードレビュー、デプロイなど、テスト前後の作業も含めたフルオートメーション化が実現できるとした。

次に、テストが高度化している中でテストの組織モデルはどうあるべきか、第三者によるテスティングサービスである、TCOE(Testing Center of Excellence)のモデルが紹介された。テスト戦略立案、立ち上げ、運用、最新技術検証など役割を分け、高度なテスティングサービスを提供。さらに同社グローバルでは、多国籍企業向けに多言語でのUXテストや探索的テストを行うため、クラウドソーシングベンダーと連携したテストサービスの提供にも乗り出している。

最後に、アナリティックスやAIを活用した高度な自動化の可能性や、企業のバリューチェーンの広がり、ユーザーインターフェースの多様化など、今後待ち受けるテスティングのチャレンジと対応のヒントを紹介し総括とした。

事例紹介
自動化されたテストの実情

加藤重雄氏/アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 金融サービスグループ アソシエイト・ディレクター

アクセンチュアの加藤重雄氏は、金融業界におけるテストの実情およびテスト工数の削減事例を紹介した。

証券会社でのOS更改のテスト事例では、戦略なく”現行保証”を行おうとすると、ゴールがない中でのやみくもなテストになってしまい多額のコストがかかる。そのため、”現行保証”の範囲の明確化とフルオートメーションで対応。本番環境で発生した1日の全トランザクションを現行検証環境と新検証環境で処理を行い結果を確認するという並行稼働を行うことで、テストで必要な大半の業務パターンを検証可能とした。その結果、工数を約半分に削減した。

テスティングサービス導入時のモビライゼーションに関する事例では、設計書がそろわない状況でのテスト立ち上げについて説明をした。トラディショナル、トップダウン、ボトムアップの3つのアプローチで現行業務・システムの理解を可能とした。従来の有識者や既存ドキュメントにのみ頼るのではなく、本番で発生したデータやソースコードのリバースエンジニアリングなどのテクノロジーを活用することで、より確実で網羅的なキャッチアップが可能となるアプローチを強調した。

エンド・トゥ・エンドの自動化では、縦割り組織をまたいでデータを集める準備に時間がかかり、テスト工数全体の6割がデータ準備に要しているという課題解決のため、一気通貫の検証を導入した事例を報告。「自動化は画面の自動入力だけに注力するのではなく、本当の課題を認識して、そのうえで自動化のソリューションを組み合わせて解決することが重要である」と述べた。

APIを通じたエコシステムの時代には、連携する他社システムの変更によって、システムが動かなくなる可能性が避けられなくなると指摘。AIやRPAの導入も、最低限の目的達成を確保するために「どこまで品質を求めるか、品質の合格点を考えなければならない」と指摘。

明日からできることとして「自社のテストの状況を可視化すること、そのうえで定量化した目標を立て、さまざまな施策を適用しながら工数削減のロードマップを描くことが第一歩」と訴えた。