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英語で広がる世界、増える選択肢

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英語が必要な仕事、という言葉は、いずれ死語になるかもしれない。本格的なグローバル時代を迎えた今、英語と全く無縁でいられるような仕事など、なくなる可能性が高いからだ。英語は苦手という言い訳はもう通用しない。どうすれば英語ができるようになるのか、前向きに考えたほうがチャンスも広がる。ほぼ独学で英語をマスターしたという国際ジャーナリスト、蟹瀬誠一氏に、英語のマスター術を伺った。

日本人の言語能力は本来高い

―高校生のときまで英語が苦手だったというのは本当ですか。

蟹瀬 お恥ずかしい話ですが、高校のとき英語の成績は10段階で2でした。落第点ですよ。よく卒業できたなと思います。苦手というより、英語を学ぶことに興味がなかったんですね。モチベーションが全くなかった。

―それが大学卒業後は外資の通信会社に就職され、今は国際ジャーナリストとして活躍される一方、英語の勉強法に関する著書もたくさん書かれています。

蟹瀬 高校卒業後、立川に住んでいたことがあります。当時、あのあたりには米兵がたくさんいたのですが、彼らは何を話しているんだろうとふと思ったのがきっかけでした。駅で簡単なワンフレーズだけ頭に入れて、思いきって彼らに話しかけ続けたことから仲良くなり、ますます英語でコミュニケーションをとりたいというモチベーションが増えました。英語は苦手という人はたくさんいますが、漢字、ひらがな、カタカナを使い分ける日本人の言語能力は本来高いんです。モチベーションと自分に合った教材があれば、どんな人でもたいていの言語は1〜2年でマスターできますよ。

―にわかには信じられないようなお話しですが、英語をマスターするコツはありますか。

蟹瀬 あえて言えば、ネイティブのように話せるようになりたいと思わないことです。英語は世界の公用語で、ほとんどの国で英語が使われていますが、アクセントや表現の仕方などは国によってずいぶん違います。発音や文法など細かいところまで気にするのは日本人くらいではないでしょうか。言葉はコミュニケーションツールです。大事なのは、どう話すかではなく、何を話すかです。自分はこれを相手に話したい、伝えたいというコンテンツがなかったら、たとえ英語ができても空虚な会話しかできません。お互いにリスペクトしあえる人間関係をつくっていくためには、共通の趣味とか、文学や歴史など教養のレベルを広げておくこと。それともう一つ、日本のことをよく知っておくことも大事です。自分の国のことを質問されてきちんと答えられないようでは、国際社会では尊敬されません。さらに付け加えれば、自分のオピニオンを持つことも必要です。君はどう考えるか、と聞かれて答えられないと、この人間とは話す価値がないと判断されてしまいます。賛否も明確にしなければなりませんし、その理由をロジカルに説明できるノウハウを身につけておくことも必要でしょうね。

語彙強化のための3種の神器

―英語ができるようになると、何が違ってきますか。

蟹瀬 通訳を介す場合と、英語で直接相手と話す場合を考えれば、すぐわかるでしょう。直接的な意思疎通ができると、心理的な距離が一気に縮まり、人間関係が深まります。もちろんその場合も何を話すのかということのほうが、より大事です。ブロークンでも構いませんから、ストーリーテラーになること。相手の興味を引く話ができるかどうか、物語を語れるかどうかで、全然違います。たとえばどこの国に行っても新渡戸稲造の「武士道」の話をすると、興味を持たれます。人間としてどう生きるかという世界共通の問題意識がそこにあるからです。

―日本人の英語はボキャブラリーが貧困だとよく言われます。そこを克服する方法は?

蟹瀬 ボキャブラリーをビルドアップしていくには、たくさん読むことです。私も、雑誌から共産主義原論、宇宙飛行士のトレーニング法など、とにかくいろいろ読みました。そうすると教養が広がっていきますし、いろいろな発見があって面白くなっていきます。勉強が苦痛どころか楽しくなっていくんですよ。

そこからさらにレベルアップするには、3種の神器があります。聖書とマザーグースとシェイクスピアです。欧米の英語圏では聖書に書かれている表現がたくさん出てきます。新聞や雑誌の記事のタイトルなどでもよく使われています。マザーグースというのは英語のわらべ歌のようなもので、これも英米では言語表現のベースになっています。それからシェイクスピアは、とくに英国の教養レベルが高い人の表現によく出てきます。たとえば「What's in a name」というのは「ロミオとジュリエット」に出てくるフレーズで、問題の核心は何だというような意味合いです。こういう表現を知っているかどうかで理解度は大きく違ってきますし、こういう表現を使うとビジネスの場でも一目置かれるようになります。

人生が豊かになる可能性も

―自分の仕事には英語が全く必要ないという人もいます。そういう人は英語を学ぶ必要もないとお考えですか。

明治大学国際日本学部教授
蟹瀬誠一
SEIICHI KANISE
かにせ・せいいち
1950年、石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。米国AP通信社記者、フランスAFP通信社記者、「TIME」誌東京特派員などを経て国際ジャーナリストに。現在は明治大学国際日本学部長も務める。「日本人だけが知らなかった英語上達法」(中経文庫)など、英語に関する著書も多い。

蟹瀬 一生、英語は必要ないと信じているのであれば、学ばなくてもいいでしょう。でもある日、自分の勤めている会社が米国に支店を設けることになり、その責任者になるかもしれません。あるいは自分の部署に外国人が配属されることも考えられます。今は年間2000万人の人が海外からくる時代です。これからはもっと増えるのが確実です。仕事の場に限らず日常生活のなかでも外国人と接する機会はどんどん増えていくでしょう。英語ができるという条件で非常にいい条件の転職のオファーがきたとき、英語ができなければみすみすチャンスを失うことになってしまいます。

細菌学者のパスツールは「Chance favors the prepared mind」という言葉を残しています。私の好きな言葉で、準備のできている人にチャンスはほほ笑む、という意味です。チャンスというのは、駅で待っているときにやってくる電車のようなものです。どの電車に乗るかは自分の判断です。でも、乗りたい電車がきたとき、その電車の切符を持っていなければ乗ることはできません。人生にはさまざまな分岐点があります。そういうとき英語という切符を持っていれば、選択肢は確実に増えるはずです。

人間関係の基本は、いつの時代もハート・トゥ・ハート。さまざまな人と信頼しあい、尊敬しあえる人間関係ができれば、それは一生の財産になります。英語というのは確かに一つの道具にしかすぎません。でも、その道具を使えるようになることで、人生そのものが豊かになる。そんな可能性すら持つ道具なのです。