リクルートグループを支える「課題解決」集団 その総合力はいかにして生まれるのか
ヒアリングと言語化する能力を発展させ、社会に役立つ事業を展開
「私たちは『リクナビ』や『ゼクシィ』『SUUMO』といったリクルートグループ全媒体のバックグラウンドで機能してきたノウハウを生かし、幅広くリクルートの事業を支援して、よりよいアクションを生み出すことに注力しています」(経営企画部広報グループ 中村ひとみ氏)という言葉のとおり、リクルートコミュニケーションズは、グループ全領域を横断して、それぞれの機能を進化させるという重要な役割を果たしている。
たとえば、ゼクシィやSUUMOといったグループの持つ媒体において、そのクライアントと深く関わるディレクターたちは、取材などを積み重ね、まず原稿というアウトプットを提供する。しかし、多くのコミュニケーションを持つなかでクライアントが抱えている「不」のきっかけを拾い上げることで、単に広告という枠を超えた提案を行う。
同社では「ディレクターの業務範囲ってどこまで?」という既成概念への疑問符が投げかけられるそうだ。顧客の課題解決がディレクターのミッション。ならば領域を限定するのはナンセンスで、事実、多くの案件で職種をまたがって協力しあい課題の解決に取り組むことが多いという。
「これまで私たちは広告制作を通して“ターゲットの心を動かし、アクションを生みだす”ことに取り組んできたなかで、例えば〈ヒアリング〉〈言語化〉といった能力を磨いてきました。それは当社の高度なケイパビリティの核となっています」(経営企画部広報グループ宮田十詩子氏)
その成果は、次の段階に入っている。多彩な媒体を持つリクルートグループだが、その媒体を受け皿に、あらたなビジネスを創出していることだ。
街の魅力をブランディングし、サポートする総務省との取り組み
同社のノウハウを社会の課題解決に生かす取り組みのひとつとして始動しているのが、オープンデータを有効利用し、その街の魅力をブランディングすることでシティプロモーションにつなげる、総務省とリクルートグループの共同プロジェクトだ。
このプロジェクトを担当した同社の榎本氏は、この取り組みを通じて、自治体が持つ様々なデータをオープン化し、活用を進めることが、地域の活性化へつながることを示した。
「日本は人口が減少していて、消滅可能性都市が現れるということまで騒がれるほど深刻な問題となっています。そして当然ながら、自治体には人口と税収が必要であり、そのためには地域の活性化が不可欠です。しかし、自治体では地域の活性化のために必ずしもデータが有効利用されていないように思えました。そこで『なぜこれまで有効に使われなかったか』を知ることから始めました。そして、見えてきたのは、自治体は縦割り的な組織構造で、データを有効利用しにくい事情があることや、自治体の方がデータを使うメリットを感じていないということでした」(榎本氏)
そこで提案したのは、ライフスタイル軸で街を選べるようにデータを活用して街の魅力を発信することだ。そのためには自治体のオープンデータが必要で、自治体と協働できる事業を考察した。
具体的な事業はこう流れる。まずはシンポジウムで、ムーブメントを作る役割の自治体に向けての啓蒙活動をし、士気が下がらないうちにワークショップを開催して具体的なアクションのお手伝いをすること。そして最終的に「SUUMO」内の記事で一般市民にも情報発信するまでが1セット。その後は自治体が自分たちでデータを活用し発信できることを目指し、自走を促す伴走スタイルだ。
「ワークショップでは、データを民間企業に活用してもらうことのメリットについても紹介します。たとえば、江戸川区でいえば、保育ママが201人いて、全国1位なんです。最大で8自治体同時にワークショップを行なうのですが、ほかの自治体と比較することで、自分たちの強みが自覚しやすくなります。そんな強みとなる指標を見つける事で、今後の街の魅力を強化するための一種のKPIのような指標にすることもできます」(榎本氏)ほかにも、たとえば千葉・我孫子市は30年間待機児童ゼロ、和光市は埼玉で婚姻率が一番高いなどさまざまなデータがあり、こうしたデータは、すべて市のHPにあっても、それがオープンとは限らない。「私たちの知見を生かして、自治体のデータを一般市民に分かり易く発信し、地域の活性化につなげることで、自治体にとってオープンにする価値がないと思っていたデータが、実は価値のあるものであるということを発見していただけると考えています」(榎本氏)と語る。
地元の人とマンションの購入を検討する人を結ぶ「マチアイ」
同社が取り組む社会課題解決の事例がもうひとつ。「マチアイ」は、地元の人とマンションの購入を検討する人を結ぶサービスだ。
ここで重要な役どころとなるのが、地域に住む女性スタッフの存在。一般的にマンション購入の中心層は、30〜40代の子育て世代だが、地域の人による保育園や学校、病院などの街のリアルな情報は、マンション購入時の大きな後押しとなる。
近年のマンションは、大規模化やエリア偏重の傾向も強く人気の立地は価格も上がる。それならば、スペックなどではなく、たとえば「同じ趣味をもつ人が多く住む場所」といったライフスタイル軸で住む場所を選べないだろうか?という発想から事業がスタートしグッドデザイン賞も受賞する結果となった。
「『マチアイ』は、新築マンションの購入を検討している人のために、暮らしや地域の情報を提供できる仕組みを構築したものです。 きっかけは、マンションデベロッパーの課題(購入層の人口減、展示場への来場数減、成約の歩留まり減)解決のための、カスタマー調査でした。調査の結果、購入を断念する人の多くが“物件自体は魅力的だが、その土地での暮らしのイメージが持てず不安”という理由から、購入を断念していたことがわかったんです」(清水氏)
そこで、地域で働きたい女性とマンションの購入検討者両方の課題を解決しながら結びつけるソリューションを提供しようと考えたのが「マチアイ」だ。
実は、この「マチアイ」は、重要な社会の不への対策としての面を持つ。
地域の主婦の方にとっての社会復帰のきっかけだ。働きたいけど、なかなか地元で育児と両立できる仕事は少ない。仕事から10年離れている。など、そうした「働きたいと意思を持つが二の足を踏んでいた」女性の活躍は、マチアイというアイデアのもうひとつの注目点だ。
「調査で分かったマンション購入者の“街を知らない”という課題を解決すると同時に、主婦の方の課題解決も実現したいと考えました。この『マチアイ』のビジネスモデルは、光栄にもグッドデザイン賞を受賞しました。ビジネスと社会課題解決の両方を成立させたことが評価につながったと考えています」(清水氏)
実際に「マチアイ」でマンションのカウンセラーとして働いていた方が、「マチアイ」での経験をきっかけに次の仕事を探し始め、無事に就職が決まったという嬉しい報告も多数届いているそうだ。一度仕事を休んでいた女性でも、再び社会に出るための新しい一歩やきっかけを作れた好例だろう。
「マチアイがあるからモデルルームに行く、という文化が生まれれば理想的です」(清水氏)
自社のノウハウを社会課題の解決に役立てるのがミッション。その根底にある思想とは?
リクルートコミュニケーションズがこれらの取り組みを展開できる理由には、3つの〈コアバリュー〉があるという
「コミュニケーション・エンジニアリング力(CE力)」
これは、原稿制作などを通じ、カスタマーの心をつかんで動かしていく力。具体的には、たとえば「ゼクシィ」や「リクナビ」を読んだカスタマーが、「結婚式場を決める」「就職を決める」というアクションをおこすことを指す。
「プロセスエンジニアリング力(PE力)」
「こんなのがあったらいいな」をかなえるためにプロセスを設計する力。実現したいサービスやメディアのROI最適化のために、制作工程・システム・経営資源(ヒト/モノ/カネ)を設計する。
「ICT力」
リクルートが保有する大量のデータとテクノロジーを掛け合わせたアドテクノロジーの開発や、リクルートが提供する新たなWebサービスの開発・運営などを行う力。
この3つの力を使って人や世の中を動かし、もっと社会の不を解決することに広げていけないだろうか?という思想が根底にある。
さまざまなジャンルで社会の困りごとを双方向から解決する事業を創出し、躍進を続ける同社。また、「社会問題解決型企業」を標榜する同社ならではのエピソードとして、いち早く男性社員の育児休暇の取得を必須化したことも話題になっている。女性活躍推進も昨今の社会課題の1つ。ワーキングマザーの支援だけではなく男性が育児・家事に参加することが、女性の社会復帰および活躍推進につながると考え、制度改定をしたという。近年の厚労省データによれば、育児休業を取得した男性は、たった2.65%※。少数派にいち早く名乗りをあげる点においても、同社がどこよりも先進的な企業であることの現れといえる。
誰も実現したことのないような、新しい事業が生まれる風土のあるリクルートコミュニケーションズ。今後も同社の動向から目が離せない。