杉山 世界各地の大会を転戦するプロテニスプレーヤーは1年のうち8~9カ月を海外で過ごしますが、身の回りのことは自分でしなければなりません。私の場合は、中学生の時から、ジュニア大会で海外を経験してきたこともあり、日常生活レベルの英語はできましたが、17歳でプロになった当初は、文化・価値観が日本と異なる海外で戸惑いを覚えました。日本では、当たり前のように交通機関が時間どおりに機能していますが、海外では予約した時間にタクシーが迎えに来ないといった、ちょっとした予想外の事態はしょっちゅうです。また、メディア会見でのインタビューは、かなり専門的な内容なので、相手の質問がわからなかったり、的を射た答えができなかったり、と言葉の壁を感じました。しかし、そこでストレスを感じていては、試合で良いパフォーマンスが出せません。海外でも気持ちよく過ごすには、言葉も含めて柔軟な対応能力を備え、その土地の良い面に目を向けるポジティブな心の持ち方ができる国際人になることが大切だと思いました。
杉山愛
4歳からテニスを始め、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位となり17歳でプロに転向。以来、17年間にわたり世界各地のWTA(女子テニス協会)ツアーを転戦した。公式戦通算1772試合に出場し、グランドスラム(4大国際大会)女子ダブルスでの3度の優勝をはじめ、優勝回数はシングルス6回、ダブルス38回を数える。2009年の引退後は、スポーツ番組キャスターや情報番組コメンテーター、グランドスラム大会の解説などで活躍。ジュニアの女子選手をサポートするプロジェクトにも取り組んでいる
杉山 語学もとても大切ですが、コミュニケーションは多岐に渡ります。テニスのダブルスで言えば、パートナーとハイタッチをしたり、微笑みあったりすることもコミュニケーションの一つと言えます。一方で、日本人は繊細で、相手の気持ちを考えながら話をしますが、スポーツの世界はシンプルで、ストレートに物を言わなければ相手に思いが伝わりません。海外の大会では、プレーヤーが主催・運営者側に改善点を提案する会議が開かれることがありますが、些細なことまで選手たちは堂々と訴えます。海外では、自分の意見をきちんと主張する発信力が非常に重要になります。
倉田 そのとおりですね。日本人の若者には、外国人と直接、触れる機会を多く持つことで、異文化コミュニケーションがどういうものかを理解してもらいたいと考えています。文学部国際文化コミュニケーション学科では、それに伴い、イギリス、アメリカ、カナダなど、同じ英語圏でも異なる歴史・文化を背景に持つ多様な国のネイティブスピーカーの教員がいます。さらに、留学生も積極的に受け入れ、大学内で日本人学生が異文化に触れる環境を作り出すことを狙っています。
文学部 英語コミュニケーション学科 教授
倉田雅美
ノッティンガム大学大学院修了。東洋大学工学部教授を経て現職。専門はイギリス文学。主な著書に『一人の詩人と二人の画家 ― D・H・ロレンスとニューメキシコ』(春風社、共訳、2016)など
杉山 ひとくくりに英語と言っても、イギリス・アメリカ・オーストラリアでは、表現等はかなり違いますね。プロになって最初の1、2年は海外で観光をする余裕もなく、ホテルと試合会場の往復だけで精一杯でした。ですが、次第にその土地の文化に触れたり、おいしいものを食べたりするようになったことで、自分自身の幅が広がったと思えるようになりました。ダブルスのパートナーやほかの選手とは、テニスのこと以外に、互いの国のスポーツ文化や国民性の話などもするので、まずは日本の歴史や文化について知っておく必要があります。そして何よりも、相手のことを理解しようとすることがコミュニケーションでは大切です。その結果、選手生活を振り返って「私の国にも遊びに来て。いつでも歓迎するわよ」と言ってくれる友達ができたことはかけがえのない財産です。
倉田 それは貴重なご経験ですね。私の専門は英文学ですが、イギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという、独自の歴史・文化と強いアイデンティティーを持つ4つの地域で構成されています。海外の文化、人を理解するには、その歴史・文化の知識が欠かせません。異文化コミュニケーションは、相手の歴史・文化を知りたいという意欲から始まります。今、増加している、日本を知りたい訪日外国人に対して、日本人は自国文化をより理解し、発信していくことが大切です。

杉山 私も、正月や節分などの日本の年中行事について、英語で解説した本を買って読んだことがあります。たとえば、「節分で豆をまくのはなぜか」を外国人に英語で説明しようとすると、日本人として当たり前のこととして認識していたために、それまで見逃していた文化的背景に気づかされ、とても勉強になります。これからの若者が世界で活躍できるようになるために、こうした経験も伝えていきたいと思います。
倉田 新たに誕生する文学部国際文化コミュニケーション学科では、杉山さんがおっしゃったように日本の歴史・文化への理解を深め、世界に発信できる力を身に付けられるカリキュラムを設けます。日本語教授法を含めた日本語教育にも注力することで、外国人留学生には母国に帰国した後、日本文化・日本語の魅力を発信してもらい、また日本人学生には国内外での日本語教師の道も拓けます。文学部国際文化コミュニケーション学科で異文化・自文化への理解を深め、多言語コミュニケーション力を身に付けた学生の今後にご期待ください。