上がらない物価、長引く超低金利

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「出来れば若いうちから、資産形成に馴染んでおく必要がある」と指摘するのは金融ジャーナリストの鈴木雅光氏。超低金利時代の中、資産運用をどのように組み立てていけばいいのか。鈴木氏に、これからの金利環境を展望していただくとともに、資産運用のヒントを紹介していただいた。

今の時代、「金利」の話をされたとしても、恐らく多くの人はピンとこないでしょう。何しろ「金利」そのものがなくなってしまっているのですから。

1990年代半ばから、日本はバブル経済の崩壊による長期の景気低迷、そしてデフレ経済に悩まされました。当然、景気低迷が続けば金利は下がったままになります。ところが、2002年2月から08年2月にかけて、日本経済は戦後最長の景気拡大局面だったにもかかわらず、金利はほとんど上がりませんでした。08年、リーマンショックという世界的な経済危機が勃発。米国や欧州が量的金融緩和を加速させたため、かろうじて世界経済は壊滅的な状況に瀕することなく、危機を脱しました。この間、さらに日本の金利は低下を続け、さらに13年以降は、アベノミクスの「第一の矢」として大胆な金融緩和政策が打ち出され、ついにはマイナス金利政策まで飛び出してきました。

今の日本経済は低成長、かつ物価水準は再びデフレ気味に推移しているため、マイナス金利は行き過ぎだとしても、低金利であることは受け入れざるをえないでしょう。

鈴木 雅光
金融ジャーナリスト/JOYnt代表
岡三証券、公社債新聞社などを経て2004年にJOYnt設立。 雑誌や書籍の編集などを数多く手掛けている

ただ、多くの生活者からすれば、「そうは言っても……」という思いが、どうしてもぬぐい去れないと思います。「デフレになれば金利は下がる」ことを、頭の中で理解はしていても、これまである程度の金額を受け取れていた利息が限りなくゼロに近づけば、やはり不満は募ります。大手銀行のスーパー定期に預けた場合、11月14日時点で適用されている利率は、金額の多寡や預入期間の長短に関係なく、年0.010%にしか過ぎません。100万円を預けて1年後に付く利息は、税引前でわずか100円にしかならないのです。いくら物価がデフレになっているとしても、100万円を1年間預けて得られる利息がたったの100円だとしたら、時間外のATM手数料で利息は消し飛んでしまいます。

もはや、銀行預金が個人の資産形成において中核的な商品たりえた時代は、終わったといっても良いでしょう。

年金不安への対応を考える

超低金利は、老後の資産形成にも悪影響を及ぼします。

今から20数年前は、銀行預金でも年5%程度の金利が付いていたので、3000万円を預けておけば、税引前で年間150万円の利息を受け取ることができました。

公的年金以外で年間150万円のキャッシュフローを確保できれば、定年後の生活にゆとりができるでしょう。それが今はどうでしょうか。前述したように、定期預金の利率は年0.010%。3000万円を預けたとしても、こちらも税引前で年間の利息は3000円にしかなりません。

もちろん、金利はその時の景気、物価水準に応じて上下しますから、いずれ年5%という金利が付く可能性は否定できません。でも、そうなる可能性は、少なくとも現状においては低いのではないか、と思うのです。

その理由は、02年2月から08年2月までという、戦後最長の景気拡大局面においてさえも、日本の金利がほとんど上昇しなかったことで、説明できるでしょう。

経済が巡航速度内である限り、金利がかつてのように5%、あるいは6%という水準まで上昇する可能性は低く、もしそのような水準まで上昇するとしたら、それは日本国債に対する信任が崩れ、日本が総売り状態になるか、あるいは急激なインフレに見舞われて金利水準が急上昇するという、誰も望まない形での金利上昇というシナリオが考えられます。

つまり、よほどイレギュラーな状況にならない限り、日本の金利は、現在の低水準が続くものと考えられます。自分自身が定年を迎えた後に必要となる資金の算段をつけるにあたっては、もはや預貯金から得られる金利収入をあてにしてはいけないと考えておくべきです。

厳しい?

そう、確かに厳しいのです。さらに言えば、子供の教育資金は年々上昇の一途をたどっていますし、最近は小学校から私立に入れる家庭も少なくありません。そのうえ持ち家も、ということになったら、現役時代に老後の資金をきちんと貯めるのは至難の業、としか言いようがありません。

だからこそ、出来れば若いうちから、資産形成に馴染んでおく必要があるのです。金融広報中央委員会が定期的に公表している「家計の金融行動に関する世論調査」によると、50代で貯蓄ゼロという世帯は、「二人以上世帯」において、何と29.1%にものぼりました。貯蓄ゼロのままで定年を迎えたら、資金繰りに窮する日々を送らざるをえなくなります。だからこそ、若いうちから資産を有効に運用し、定年後の生活に備える必要があるのです。

ポートフォリオをいかに設計するか

では、何で運用すれば良いのでしょうか。資産を運用するに際しては、株式や債券、不動産、コモディティなど、実にさまざまなものがあります。

いずれも特徴があり、もちろん留意点もあります。たとえば株式は、長期的な資産形成には向いていますが、決算時に支払われる配当金のみでは、定期的にキャッシュフローを受け取りたいという人には向いていません。債券は元本の安全性が高く、定期的に利息を得ることは出来ますが、ほかの資産クラスに比べるとリターンの魅力に欠けるとも言えるでしょう。不動産投資は、所有している土地を活用する場合、賃貸マンションやアパートなどを建て、そこへ入居する人を確保して初めてキャッシュフローが得られます。不動産価格は変動し、利回りの高低も物件によって異なりますが、預貯金の利率や株式の配当利回りに比べ、高い利回りが期待できます。一方、不動産への投資は、投下する資金が大きくなることや流動性などに注意する必要があります。

コモディティへの投資は、高いリターンが望めるものがあるものの、そうした金融商品は高いリスクも受け入れなければなりません。あくまでもモノですから、株式の配当や債券の利子のようなキャッシュフローは得られません。

もちろん、それぞれの運用する商品には実にさまざまな選択肢が用意されています。したがって、保有している資産のすべてを一つの商品で運用するのはやめましょう。あくまでも、分散して投資することを考えるべきなのです。