責任ある調達と「FSC®」の意義 FSCジャパン
FSC( Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は、責任ある森林管理の国際統一基準を定める非政府・非営利組織である。彼らは森林の環境保全に配慮し、地域社会、経済的にも持続可能な形で生産、加工された木材の認証を行っている。認証された木材を利用した製品には「FSCラベル」が貼られ、消費者は製品の購入を通じて森林保全を間接的に応援できる仕組みになっている。
いま、この「FSCラベル」に企業が関心を寄せている。2016年11月、東京・渋谷区で開催された「FSCジャパンセミナー2016」(FSCジャパン主催、日本テトラパック特別協賛、環境省、林野庁、WWFジャパン後援)には、持続可能で、責任ある紙・木材の調達を目指す企業の調達部門やCSR部門の担当者ら約200人が参加。世界で最も信頼性の高い認証制度を積極的に活用しようという動きが拡大している。
持続可能なサプライチェーン構築のために
地球上の陸地の3割を覆う森林。だが、国連食糧農業機関の報告によると、2000年から2005年までの5年間に129万平方キロメートルもの森林が失われている。それによって、森林で暮らす人々の生活基盤が破壊され、経済的損失が生まれているだけでなく、二酸化炭素吸収源でもある森林の減少で地球温暖化が加速し、生物多様性の低下にもつながっている。
そうした現状に対し、国際的に統一された森林管理の評価・認証制度を確立して、森林破壊を食い止めようと、FSC(森林管理協議会)は設立された。「木を利用しながら森を守る」という考えに基づき、環境保全だけでなく、社会的利益、経済的持続可能性に適った管理基準を制定している。FSC認証を受けた森林は、82カ国で1427件191.8万平方キロメートルで世界の森林の5%に当たり、日本国内は33件、3900平方キロメートルとなっている(2016年10月現在)。
一方、企業等のサプライチェーンにおいてFSC基準に適合した調達、加工、生産を保証するCoC(Chain of Custody、管理の連鎖)認証は世界で3万件、日本で1091件取得されている。企業は、もはや持続可能な事業活動を抜きに存続は難しい。投資家からはESG(環境・社会・ガバナンス)投資の圧力が強まり、先進的な企業は、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)に定められた17のゴールに対して事業を通じた貢献の動きを始めている。同年11月の国連気候変動枠組み条約COP21で採択されたパリ合意で、地球温暖化防止に向けた国際的な取り組みの気運も盛り上がってきた。さらに、近く公表される予定の2020年東京五輪の持続可能な調達ガイドラインも、責任ある調達を企業に迫ることになる。大和総研調査本部主席研究員の河口真理子氏は「SDGsから逸脱したグローバル事業は長期的に存続できない」と指摘。「身近な素材の木材や紙に関するFSC認証製品の調達は、持続可能な社会の実現に対する企業姿勢を消費者に示す有効なツールになるのではないか」と語る。
先進企業は「FSCラベル」を導入
すでに、企業の間では、FSCラベルの活用が始まっている。イオングループは、持続可能なライフスタイルの提供に向けて、プライベートブランド「トップバリュ」の商品群として、FSCラベルが付いたノートやキッチンタオルをラインナップ。グループのコンビニエンスストア、ミニストップの152店舗*の木造部分には国産FSC認証材を使用している。イオンリテールの犬丸久美氏は「最近、自然に変化が起きていることは誰もが気付いていると思います。小売業としてできることを追求していきます」と、消費者の心をとらえる商品戦略を目指す。
*2016年2月末現在
スターバックスでは、2020年までにペーパーカップや紙バッグをはじめ、使用する主な紙をFSC認証紙や再生紙に切り替える目標を掲げている。
コンセプトストアの一つ、福岡大濠公園店では、木製テーブルの材料にFSC認証を受けている大分県「くじゅう九電の森」の木材を使用。その産地を従業員が訪問見学するなど、従業員を巻き込む活動を展開している。スターバックス コーヒージャパンの普川玲氏は「FSCラベルは威厳と尊厳を与え、心豊かにしてくれるアイコンとして機能しています」と従業員の士気を高める効果を指摘した。
マクドナルドでは、2014年に紙の包材のサプライヤーを対象としてFSC認証監査会社を講師に招いて勉強会を開催したのを皮切りに、4年をかけて対象紙製品すべてをFSC認証された紙に切り替える準備を進めている最中だ。
日本マクドナルドの大林和雄氏は「業績を上げる狙いがあるわけではなく、われわれの事業活動の社会に対する付加価値として、やらなければならないことと考えています。企業の責任ある調達の実現が最優先課題です」と話す。
生協では、エシカル(倫理的)消費につながるCO・OP商品として、FSC認証された紙容器を使った飲料等を開発。組合員向けのパンフレットや宅配チラシ、店舗用パネルなど積極的に活用しながら、FSCラベルの認知度向上にも努めている。日本生活協同組合連合会第一商品本部菓子飲料部部長の大西伸一氏は「FSCラベルの付いた商品の開発は、地域と社会に貢献し、環境に配慮した商品を求める組合員に対する使命として取り組んでいます」と話す。
FSC認証された紙を調達するのにかかるコスト、取引先の協力といった課題を乗り越えながら、導入企業は積極的な取り組みを進めてきた。一方で、消費者のFSCラベルの認知度はまだまだ低い。日本生協連が毎年実施している組合員インターネットモニターアンケート調査では、環境への意識が比較的高いとみられる生協組合員でも8%にとどまったという。河口氏は「人々に地球環境の厳しい現状を認識してもらった上で、FSCラベルの商品という選択肢があることを知ってもらう必要があります」と述べ、FSCラベルの普及に向けたさらなる企業の活動に期待を寄せた。
FSCラベル付き紙容器を推進するテトラパック
食品の加工処理機器及び紙容器の充填包装システムの世界的なリーディング・カンパニーのテトラパックは、紙を主素材にした紙容器を提供する企業として、世界の森林が社会的に正しく、環境的に適切で、経済的に健全な方法で管理されていることを確認する責任がある、との立場から、FSCを強く支持、推奨している。同社はすべての自社工場と現地法人でFSCCoC認証を取得。世界のどこでもFSCラベルの付いた紙容器を提供できる体制を築いている。同社は、2007年に英国でFSCラベルの入った紙容器を初めて出荷。2015年に出荷されたFSCラベル付きテトラパック紙容器は540億パック、容器全体の34%に広がっている。
日本では、2014年からFSCラベル付きの包装材の出荷を開始。子どもたちにも森林管理の大切さを知ってもらうため、学校給食用牛乳紙容器にもFSCラベル掲載を働きかけるなどの普及に努めている。マーケティング・ディレクターの鍜治葉子氏は「責任ある調達を含め、持続可能なビジネスに取り組むことが、弊社のお客様に安心して弊社とビジネスをしていただけること、消費者に安心して紙容器を購入していただけること、それが事業成長と持続可能な未来の両立を目指すことになると考えています」と述べた。